第020話 赤熱する一射
炎上する
「長距離通信は、……ダメだな……、奴の能力なのか?」
援軍を求めたくとも旗艦都市ヴィクトワールに通信をすることもできない。
そして、圧倒的な強さをみせる
状況はこれ以上ないほど最悪であった。
「レノ君! 聞こえてる!? レノ君!」
通信の主は、ロラである。
「聞こえているよ、問題でも起きたかな?」
「タイラント・アラクニドが迫ってきてるの! キャンプにいる人を守らないと……!」
レノックスは小さく舌打ちを漏らす。
最悪と言うのは群れをなしてくるものだな、と実感する。いまキャンプを守るものは誰もいない。タイラント・アラクニドを撃退できる者は、一人しかいない。
レノックスはできるだけ穏やかな声で語りかける。
「申し訳ないが、……私がここを動けば、
「ある、けど……わ、わたくし……、撃ったこと、なんて……、か、数えるくらいしか!」
「君だけしかいないんだ。そちらはまかせる」
「……ッ、そんな――!」
レノックスは通信を一方的に切断する。
会話をしていられる余裕などない。
集中しなければ、たちまち
しかし、その捕食者の余裕が死へとつながることを思い知らせてやる。
「魔神の戦いを見せてやろう!」
レノックスは
最後に
たちまち騒々しい警告音が操縦席に鳴り響く。
レノックスの
しかし、
イシャーウッド製IMC240-B15。
欠陥性能から
レノックスがいた時代に開発された規格外の魔導砲で、
現用機に搭載された
また、被弾した場合は
武装の強度についても度外視されている。
等々。
いま説明したように運用するうえで危険なため、時代が進むにつれて軍用の兵器から仕様が外されたのだ。
そんな欠陥品とも言える
それは、かつてレノックスが愛用していた武器だからだ。
『右腕、重量過多。
オペレートシステムの淡々とした警告を聞いて準備が整ったことを確信する。
レノックスは
「さて、害虫駆除といこうか――!」
囮役がいればこんな自殺行為をしなくても良いのだが、いまは孤軍奮闘の状態。レノックスの集中力だけが頼りである以上、最短最速でケリをつけるのが最善策だ。
判断は一瞬。
レノックスは
目にも止まらない速度で放たれた
『長距離射撃を検知。回避してください』
役立たずなオペレートシステムが弾道警告を告げてくる。
尾針が戻る軌道が辛うじて目に写る。
レノックスは慌てない。
「ぐぅ……ッ!?」
金属が抉られるような擦過音がコクピットに響いた。モニタ画面がさざなみがたったかのようにぶれて歪む。
「当ててくるか……!」
『左腕、脱落。
ノイズ混じりの後方カメラを確認すれば、潰れた腕が落下していくのが見えた。
動きを読まれている。
辛うじて回避できたものの、運が悪ければ薙ぎ払われた尾に叩き潰されていただろう。
だが、レノックスは必殺の一撃を叩き込めるポジションにたどり着いた。
狙っていたのは尾針も鋏も届かない位置、
「きたぞ! 腕一本なら安い。……もらった!」
劫火に煌めく砲身を
ここで
八本の脚で力強く大地を打つ。大地が隆起したかのように土砂が噴き上がる。硬く乾いた地面を一撃で破砕すると、地面に潜り込もうと体をくねらせる。
距離を取られれば尾針にやられる。
レノックスは焦る心を抑えながら狙いを定めた。
「逃がさん!」
大地の裂け目に逃げ込もうとする
土埃に消えかかった
太陽が落ちてきたかのように光が膨れ上がる。眩い閃光に周囲のすべてが真っ白に染まった。
万雷を束ねたかのような轟音が大気を揺るがした。大地がめくれ上がり空気が痛いほどに震える。天を見上げるほどの茸雲が立ち上った。
土煙の中から巨大なモノが転がり出てくる。
びしゃりと気味の悪い黄色の液体がまき散らされた。体液の滴り落ちる
「……仕留めたか」
安堵の吐息をつく。
そして、レノックスは機体の姿勢を変えた、一瞬。
背後から襲いかかってきた尾針の一撃にレノックスの
わずかに尾針の攻撃は操縦席をズレていた。
腰部を貫いた一撃で上半身と下半身が引きちぎられて、
幸運にも
『下半部、脱落。推進機能、大破。反応炉の制御が不安定になっています。ただちに脱出してください』
「……ば、ばかな……頭を失って動く、だと……」
警告音の鳴り渡る操縦席でレノックスは呻く。
武器はない。
飛翔力を失い、脚を失い、這いずることさえできない。
脱出しようにも操縦席は背部の開閉式扉から抜け出るようになっているため、外に出ることさえできそうにない。
目の前には頭のない
しかし、
ボコリ、ボコリ、と内側から肉が盛り上がり再生が始まる
レノックスが与えたダメージは治癒していき、どんどん
最後に再生した頭がもたげられる。
「く……ッ、無念――!」
レノックスの眼前に大きく開かれた大顎が映し出された。
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