2.初めての狩り 花咲少女
スプルは、始まりの街を囲むように位置する最初のフィールド"サハヤの森林"に出る。
流石にサービス開始から3ヶ月だけあって、そこは閑散としていた。
きっと、先にある山地エリアや砂漠エリアが、現段階でのレベリング場所なのだろう。
最前線で攻略されているのは、砂漠エリアの先にある海エリアらしい。
「人っ子1人いないなぁ。まあ、レベル上げには好都合だけど」
いくら称号を集めるだけのMTとはいえ、「経験値」というものは存在する。
隠しパラメーターではあるが、モンスターを倒したり称号に対応する行動を取れば経験値が獲得でき、それによって称号はより上位のものを取得できたり、強化されたりするのだするのだ。
そのため、このゲームにおける「レベリング」とは、称号に応じた行動をとることを指す。
「えっと、まずは手頃なモンスターを……あ、いた」
視界の端に映った兎型モンスターを追いかけるスプル。
慌てて追いかけるも、称号【駆ける者】によって若干の速度補正が付いている彼女は、すぐに追いついた。
「いくよ!《水弾》!」
称号【魔力を持つ者】を獲得
拳大の水の塊がモンスターの横腹に打ち出され、ダメージを与え、体勢を崩させる。
そして、初めて魔法を使うという条件がクリアされ、称号を獲得した。
「よし!《ストライク》!」
《
「やったぁ! 初討伐!」
はしゃぐスプル。
VR空間で実際にモンスターを狩る、という感覚に嫌悪感を覚え、ゲームができなくなる人がまれに見られるが、彼女には全く無縁の感覚のようだった。
「称号獲得してたけど……まあ普通に汎用称号だったね」
【魔力を持つ者】プレイヤーにMPステータスを与える
「ま、この調子で頑張りますか!」
サハヤの森に出現するモンスターは、角兎、ハウンド・ドッグ、ロックタートルなどだが、これらは初期のレベル上げと戦闘訓練のためにそこそこ弱い設定となっている。
ただ、ロックタートルは硬い甲羅に対して短剣ではダメージがないため、急所である首元を突いて攻撃していると、新たな称号を獲得した。
【暗殺者見習い】急所攻撃、先制攻撃、背後からの攻撃に弱ボーナスを与える。
「おー! なんか鍛えたら強そうな称号出た!」
そんな風に狩りを続けること3時間。
そろそろログアウトをしなければならない、という時間になって、スプルはフィールド上のモンスターが出現しない地点、セーフゾーンにたどり着いた。
「そろそろログアウトかな。にしてもここ、変な感じだなぁ。なんで生えてる花が全部蕾なんだろ」
そう、このセーフゾーンはプレイヤー達から「咲かずの間」という名称が与えられるほど、プレイヤーに違和感を与える場所なのだ。
「水あげたら花が咲いたりしないかな。水……水ねぇ……どこかにスプリンクラーがあったりしないかな」
スプルは立ち上がると、地面を眺めつつ歩き回る。
ただ、そんなことをしても中世ファンタジーが舞台のMTにスプリンクラーなんてものがあるわけない。
スプルは思案した。
「そうだ! 水を散らしたいなら……《水盾》」
手の平から少し離れた場所に水でできた丸盾が出現する。
スプルはそれをできるだけ手の平から離し、もう1つの魔法を発動した。
「《水弾》《水弾》《水弾》!」
水盾に向けられた手からさらに複数の水の弾が射出され、水盾を弾けさせる。
盾というものは、本来外からの衝撃を防ぐものだ。
本来守る対象から攻撃された盾は、弾けて細かい水となって蕾へと降り注ぎーーー花が咲いた。
「おおっ! ほんとに咲くとは! 綺麗なお花畑になった!」
喜んだスプルは、セーフゾーン中の花の蕾に水をやり、「咲かずの間」を花畑に作り替えた。
ここの花は、「一定以下の大きさの水の粒」を、与えることによってしか咲かなかったため、水盾を直接接地させたり水弾を打ち込んだりした検証プレイヤー達では咲かせられなかったのだ。
また、如雨露などの品も出回っていなかった。
自分の攻撃魔法を自分の防御魔法にあてて自ら破壊するなど、そんな馬鹿げたことをしたのは、MTでスプルが初めてだったのである。
称号【庭師】を獲得
「ん? なんかインフォが……っていけない! もうこんな時間だ! 称号の確認は後にして、早くログアウトしないと怒られるー!」
スプルは慌ててログアウトボタンを押し、MTの世界から消えた。
◇
プレイヤー名 スプル
頭 なし
上半身 駆け出しの上着
右手 初心者の短剣
左手 初心者の籠手(水)
下半身 駆け出しのズボン
靴 駆け出しの靴
称号
【駆け出し冒険者】new
プレイヤーに第一段階の基礎ステータスを与える。
【駆ける者】new
走る行動に、弱ボーナスがつく。
【駆け出し短剣使い】new
短剣での攻撃に、弱ボーナスがつく。
《
【駆け出し魔法使い(水)】new
初級水魔法が使える。
《水弾》水の弾を打ち出す。
《水盾》水でできた小さな丸盾を生み出す。
《小回復》HPを僅かに回復する。
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