称号【庭師】は地味な名前に似合わずかなり使えました

赤瀬青

1.More Title とVRMMORPG

「やっと……やっと手に入れたぞー!!!」


家電量販店の自動ドアを抜けた先で、叫び声が響いた。

周囲の人間が何事かとそちらを見ると、紙袋を抱えて飛び跳ねる少女と、耳を抑えて呆れた表情をしている少女。


「よかったね、春香。またゲーム禁止にならないように気をつけなよ。てかうるさい叫ぶな」

「うん! 私から誘っておいてごめんね、まさか三ヶ月もできないとは思わなくて……」

「気にしてないから大丈夫。それにもう春香じゃ追いつけないところまで行っちゃったし、ずっといい顔できるからね」


少し意地悪そうに微笑む美人と言える少女は、黒く長い髪をかきあげながらそう言った。

それに対し、小柄なショートカットの可愛らしい少女ー春香は、頬を膨らませる。


「望美はまたそうやって意地悪なこと言うー。いいもん、私は最初っからのんびりやるつもりだったし」

「ごめんごめん。じゃあ春香さんののんびりVRゲームライフを始めるために家帰ろっか」

「うん! ワクワクするなぁ……どんな感じなんだろう、楽しみ!」


そう、春香が抱えていた紙袋の中身は、三ヶ月前、告知から一ヶ月と言う超速で発売された世界初のVRMMORPG、「More Title」と、そのハードである「Brain Internet Connecter」通称"BIC"である。

脳に直接電気的な情報を書き込み、現実さながらの体験をさせるハードと、そのハードを使った初のVRゲームとなるソフトはともに発売から一週間でほぼ完売、しかしながらその時春香はテストの半分近くが赤点という最悪の結果を残したためにゲーム禁止をくらっており、どちらも入手することができなかったのだ。

そしてつい先日、全教科90点以上という「じゃあ前回ももうちょっととれただろ」とツッコミを受けざるを得ない点数の定期テストが返却され、ようやく春香は大好きなゲームの最先端を手に入れることができたのである。


まあそんなこんなはともかく。

帰宅した春香は、隣の家からやってくる望美を待って二人で同じベッドに寝転び、More Titleにログインして、キャラメイクを始めた。


"More Title"ーーMTの略称で呼ばれるそのゲームは、VRゲームであることを除いてもなかなか独創的なゲームシステムをしている。

MTには、「ステータスポイント」や「レベル」と言ったものが存在しない。

全ては、ゲーム内の行動に付随して得られる「称号」によって決まるのである。

もちろん、称号を得ることによってスキルと同じような《技術テクニクス》や、パッシブ効果、ステータスなどが得られるが、それらを手に入れるためには、称号を手に入れるための行動が必要なのだ。

称号は無数に設定されているらしく、正式サービス開始から3ヶ月たった今でも、続々と新しい称号が見つかっているらしい。

まあ、そんなゲームなので、キャラメイクといってもすることはそれこそ名前の設定と体のパーツの設定くらいだ。

耳や鼻、指など、体の一部だけを少し変えられるらしいが、早くゲームをしたい春香はいつもゲーム用の名前としてつかっている「スプル」を入力すると、仮想世界へと身を委ねた。


少しの浮遊感ののち、おり立ったそこは現実と見紛う程リアルな街。

ただ、ゲームだけあってそこを行き交う人々の格好は現実では見ることのないものばかりだ。


「わぁ…これが、VR……」


春香は初めて見るVRの景色にすっかり目を奪われていた。


「って、いつまでも眺めてても仕方ないよね、えーと望美はどこだろ」

「おーい! はる……違うスプルー!こっちー!」

「あ、いたいた。今行くねー!」


そう言うとスプルは望美らしき人影の方に走り寄る。

すると、インフォメーション用の小窓が開き、称号の獲得を知らせた。



称号【駆け出し冒険者】を獲得

称号【駆ける者】を獲得



「おおっ!こんな感じなのか。えーと、望美……じゃなくて、ええと」

「こっちだとノーラ、だよ。特に意味は無いけど。というかやっぱりここでもスプルなんだね」

「全ゲーム共通の名前ですから。じゃあノーラ、こっちでも宜しくね」

「こちらこそ。って言ってもスプルはもちろんこのゲームのこと既に色々と知ってるでしょ?このあとどうする? 一緒に狩りに行く?」


スプルは少しだけ悩んだあと、自分の考えを口にした。


「しばらくの間は一人でやってみようかなって思う。ノーラはもうだいぶ先に進んでるし、最初はちょっとマイペースに堪能したいしね」

「そっか。じゃあフレンド登録したらしばらくはスプル1人でレベリング、ってことで」

「うん。すぐに追いついて見せるから待っててね!」

「ふふっ。追いつかれないように頑張るよ」


そう言い合うと、二人は別々の場所に向かっていった。


ノーラと別れたスプルは、知ってはいるものの一応先程得た称号を確認する。


【駆け出し冒険者】

プレイヤーに第一段階の基礎ステータスを与える。

【駆ける者】

走る行動に、弱ボーナスがつく。


「ま、最初に得られる称号なんてこんなものだよね。えーと、まずは武器からか……」


MTでは初期の所持金として1000Gが与えられ、これはNPCの店売り武器の中で初心者用のもの4つ程度の金額である。


「えーと、メイン武器は短剣にして、補助に魔法籠手かな。回復魔法が使いたいし、水魔法の籠手にするか……」


魔法を使う媒体には、杖、魔導書、籠手がある。

杖、魔導書は見た目以外特に違いはない。

籠手は取り回しが格段しやすい分、若干魔法の威力が弱めになるよう調整された魔法媒体で、物理アタッカーが補助に使う場合が多い。

そして、それぞれに火、水、風、地、光、闇の属性があるが、初期に買えるのは光と闇を除く基本四属性のみとなっている。

スプルが短剣と籠手を購入すると、また称号獲得のインフォメーションが届いた。



称号【駆け出し短剣使い】を獲得

称号【駆け出し魔法使い(水)】を獲得



「よし、武器は買えたし、冒険といきますか!」

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