第48話 スカーレットデスペア?

 教室へ行くと、既に多くのクラスメイトが登校していた。

 誰も彼もが何だか落ち着かないようで、静かに席に着いている人は一人もいなかった。

 

「おう、マホン!あ、いや、マホンくん! 今日は授業なしだって!」


 教室に入るなりこっちに寄ってきたコイツは、いつもペチャクチャとよく喋る、自称ヴェルの友人。らしい。

 噂話とか大好きで、恩着せがましく何でも教えたがる奴だ。

 悪い奴ではないんだろうが、このうるささが朝からは少し、というか大分キツイ。

 今もペチャクチャと唾を飛ばしながら、朝からよう喋る。

 そして馴れ馴れしい。


「えっ、何で?」

「何とかの日なんだって。ス…スカー…何だっけ?スカー…デッド…インスパイア…ああ、スカーデッドインスパイアなんだって!今日がスカーデッドインスパイアの日なんだ」

 

 何回同じこと言うんだよ。

 何回言っても全然わからないし。


 キョトンとした顔をしていると、

「えっ?!知らないの??」

 と、バカにした顔をしながら自慢げに話し始めた。

 

「モンスターがめちゃめちゃ出て、めちゃめちゃ暴れる日らしいんだ! 怖い日なんだってさ」


 こいつ、らしいとか言って自分もよく知らないな。

 バカにしくさって。

 まぁ何にせよ、授業がないならゆっくり考えを纏めてすぐに動けるようにしておこう。


「何だよ。 怖くないの?そこは元素四大家だから?」

「あ?」


 こいつは何かと四大家、四大家と言いたがる。

 家は関係ないし、それが何だって話しさ。

 ヴェルなんて、何でもないないのにあの力…。

 アイツのブルノーブル家はみんなあんな力があるのか?

 

 あ、でも兄のアドムは頭の色は違ったしな。

 というか、アドムのやつはヴェルの力を知らなかった。

 オークの話をしたときは放心してたし、心から信じてはいなかったもんな。

 

 アイツは家族に言ってなかったんだろうなぁ。

 その点は悪いことしたって思うけど、いないヴェルが悪い。

 

「マホン!マホンくんって!聞いてる? 」

「あ?」

「だからね、さっきのはごめんなさいって」

「あ、ああ。 で?」

「でって…。だから、外は魔物で溢れるから、今日が終わるまでは街の外には出られないって先生が言ってたよ。 でさマホンくん、その辺で遊ぼうぜ!」

「無理」

「ぎゃほーん」

 

 外に出れないんだ…。

 別に明日明後日じゃなければいいけどさ。

 今日でよかったよかった。

 

「うう……」

 

 そして撃沈した彼は、おずおずと自分の席へと戻っていった。

 それとほぼ同時に教室へ先生がやって来た。


 頭がボサボサして汚ならしいオッサンだ。 

 知らない先生だった。


「みんなー席につけー」

 

 ガヤガヤとしつつも全員が着席した。


「静かにしろー。 いいかー? みんなも知っての通り、今日は緋の日スカーレットデスペアだ」


 あ。

 それなら聞いたことある。

 何だよ、スカーデッドインスパイアって。

 

「外で見たこともない程に魔物がわんさかしているからな、外にはでれないぞー。 まぁ一年生で出るやつはいないと思うがな。それから、もしかしかしたら魔物がこの王都へ押し寄せてくるかもしれん。 しかーし、騎士団や宮廷魔導師に、力のある魔法師や冒険者と、それにここの先生達や上級生が対処にあたるから心配はいらないぞー。担任のマーリン先生もそこに駆り出されたから今日はこないからな。用事のあるやつは俺に言え」

 

 すると、隣にいる奴がスッと手を挙げた。

 

「何だ? そこの坊主」


 隣のやつは先生に坊主と言われて立ち上がった。

 どう見ても女の子で坊主ではない。

 名前は…知らない

 そう言えば、同じクラスだけどここにいるほとんどの奴の名前を知らない。

 

「はい。 先生は行かなくて大丈夫なんですか?」

「俺は武闘派じゃねーからいいんだ。 俺みたいに戦えない奴らは三日間、そう!三日間家でおねんねだ。ということはー? そうだ!今日から三日間! 三日間だぞ?王都から出れないからなー。スカーレットデスペアは今日だけだが、外の魔物がすぐに居なくなるか分からんから、安全のために三日間だ! なお、王都内なら自由だが、羽目外すなよー!以上だ、解散!」


 ………。

 なんだって!

 一週間延期…?

 三日間を何度も何度も念を押したね。


「先生っ!」

「何だ、どうした太っちょいの」

「それは魔物がキレイさっぱりいなくて安全だって分かれば、外出許可は出るのでしょうか?」


 顎に手を添え、う~んと唸る先生。


「まぁそうだな…。安全って分かれば外出しちゃいけない理由がないもんなー」

「…分かりました!ありがとうございます」

「まっ、大人しく家で寝てろよ、太っちょー」

 

 何ともまぁ失礼な先生だ。

 そして 頭をボリボリとかきながら、先生は教室をあとにした。

 

 そしてそのまま流れ解散となり、教室を出ていこうとすると後ろから声をかけられた。

 

「さぁてマホンくん、何して遊ぶ?」


 もちろん答えは一つ。

 

「無理」

「ぎゃっふぇーん!」


 彼の絶叫が、ざわつく教室にいつまでもこだましていた。


 とりあえず、様子を見に外に行ってみようか。

 


 ┼┼┼

 

 日が高度を上げていき、外は益々赤みを帯びていた。

 程よい暖かさで、爽やかな風が吹いている。

 

「なかなか幻想的、いや、神秘的?」

 

 その光景は人生で初めて体験するもので、一頻り景色を眺めていた。

 

「こんなところで時間潰しているわけにはいかないや。 とりあえず宮殿の前━━━」

「マホンくん! 宮殿の前に名のある大人が集まってるって! 見に行こう!」

 

 ………。

 

「マホンってさ、あ、マホンくんってさ、何かフワッといい匂いするときあるよね! 大体はイカ臭いけど!」


 あー、最近スルスルイカ食べてなかったな…。

 仕方ないけど、疎かにしないようにしないと。


「気持ち悪いこと言うな!ばかっ!」

「うっ…、ごめんよ、マホンくん…」

「…ふん、まあいい。 とりあえず行くぞ」

(やった!へへ)

 

 そして、二人が王宮までやってくると、見物人でごった返していた。

 王都に住まう野次馬根性丸出しの人々。

 騎士団に憧れる子供。

 宮廷魔導師を目標にしている学生。

 あれよあれよと膨らんだ人混みは、十字の通りを大きくはみ出していた。

 この国の全国民が集まっているのではないかというくらいの人の量である。

 それもそのはず、宮殿前にいるのは上位ランクの冒険者や騎士団、宮殿魔導師に名の通った魔法師達だ。

 国民からすれば英雄とされる者達。

 それが宮殿前に一堂に会しているのだ。

 ただし、人はいるがいつものようなお祭り騒ぎは一切ないのであった。


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