第36話 魔力残滓

 この村は同じ大陸とは思えないほどに暖かく、どんよりとした空気は一切ない。

 そして燦々と日の光が降り注いでいる。


 ラモンの家はカーラの家と構造はあまり変わらない。

 年期の入った木製の平屋だ。

 室内には独特な飾付けを凝らしている。

 民芸品というのだろか。

 よくわからない仮面や武器のようなものが見える。

 床にはこれまたよく分からない模様の絨毯が敷き詰められ、座り心地はとてもいい。


 ラモンは父親と二人暮らしだ。

 その父親は今は不在。

 ちなみにラモンの性別は知らん。

 たぶん女?

 

 ラモンは家に戻ると、すぐに奥の台所でカチャカチャと始めた。


 そしてこのまま待つことしばし。

 ラモンが艶々した骨付き肉料理っぽいのと、フルーツを持ってきた。


「お、これはもしかしてラノドンの肉か?!」


  レビタがその骨付き肉を一つ取り上げた。


  「うん」

  「まじかよっ!」


 ネグロが目を輝かせている。

  そんなに目を輝かせるほど?これが?

 

  「オデ、ダンドン好ぎ!」

 

  何それ。

 

「いやー、嬉しいね。 お前も食ってみろよ!やっべーぞ」

 

 レビタに勧められるままに肉を口にした。


 弾力のある肉に歯が少し沈んだかと思ったら、プツンと肉が切れる。

 ジュワっと溢れ口の中に広がる肉汁。

 そのまま噛みきった肉は口の中でプルンと、まるで肉らしくない様相を呈している。

 これは本当に肉なのかと疑ってしまったが、鼻から抜ける匂いは間違いなく肉のそれだった。

 

「なにこれ、めっちゃうまっ! つーかウマっ!」

  俺は恥ずかしげもなく大声を出してしまう。

  唾と口に入ったばかりの肉汁を撒き散らしながら吠える。


「なっ? ちなみにそっちのは普通の果物だから。 この村で採れるやつで、この大陸では果物自体珍しいけどな」


  ネグロとジャイは一心不乱に食べている。


 ここに入った時点で分かってはいたけど、この村は肉だけじゃなく野菜も食べれるんだな。

  鬼族の村では肉、肉、肉、だったからな。

 とはいえ、俺はこっそりと野菜を魔法で創って食べてはいたけど。


 とまぁ、そんなことはどうでもいい。

 それよりもだ。


「しかしさ、氷の大陸なのにここはすごいね…。村長の…えっと…、自然摂理だっけ?」

「森羅万象な。空間を切り取るように周囲と隔絶し、自然溢れる空間を作り出すんだ。村長ありきの村だよな」

  「……なのそれ。めちゃんこやん 」

  「めちゃんこの意味はよくわからんが、そのお蔭でここは食べ物にも困ることはないな。

 ちなみに村長が目を開けたら効果は無くなっちゃうんだぜ」


 それで縫ってんのか?

 縫われたのか?

 どっちでもいいけど、黒い糸の様なもので縫われた顔はこえーよ。

 俺が中身も子供なら泣いてるね。

 しっこ漏らして、かあちゃん!助けてかあちゃんって!って十回は壁に頭を打ち付けてるね。


「……そうなんだ。 …あ、ところでさ、あそこのクレーターで何してたの?」


 漸く本題へと入る。

 俺の質問にネグロも手を止めた。


「あれな、 あんなに地面が陥没してたろ? 原因は何だろうって話になって見に行ってみたんだ。 そしたら、あの下から強い魔力残滓を感じたから『量』を見てたんだ。 ラモンがな」

「……そ、そうか。……魔力残滓? ネグロ、分かる?」

「ああ。魔道具などに込めた魔力が、収まりきらずに溢れ出たやつだな。まあ魔力の残りカスみたいなもんだ」

「…おお…よくわからん」

 

 俺の質問に対し、はぁーと嘆息するのはレビタ。

 頭の悪そうなジャイでさえ、バカにした目を向けてくる。

 ……レビタのくせに。


「お前、ほんと何もしらねーな」


 レビタはそう言いながらも説明をしてくれた。


 彼の説明ではこうだ。

 魔道具とは魔力を込めて発動する。

 その込める量は物によっては違うらしい。

 しかも特定の属性でしか反応しないのもある。


 大まかに分けると、任意で発動させるタイプ、罠のようにある条件下で都度発動するタイプ、常に発動させるタイプの三つらしい。

  込める魔力の量は任意発動<都度発動<常時発動と多くなっていく。


 任意発動タイプはマホンのような魔道具。

 あれは使うときにグッと魔力を込めるようだ。

 たぶんね。

 仕組みがよく分からないから何とも言えないけど、砂鉄は重いだろうから、もしかしたら常に微量ながら流して操作してたりするのだろうか。


  任意発動タイプは一概には言えないけど、少しの量で足りる物は多いようだ。

 もし巨大な魔道具があってとして、それを動かすことがあったとしたら、莫大な量の魔力を必要とするかもしれないから一概には言えないんだそうだ。


  都度発動タイプは、転移したあの箱の様なものだ。

 普段は使われていないが、触れたらとか、近くに寄ったら、合言葉をかけたらとか、条件を満たしたときに発動する。らしい。

 だから、魔力を予め込めておく必要がある。

 

 常時発動タイプは、常に発動しているから、魔力を込め続けなければいけない。

 都度発動タイプも常時発動タイプも、予め膨大な量の魔力を込めておけば、ある程度は大丈夫らしいけど。

 燃料みたいな感じだな。

 まあ、魔力核というのを埋め込めば魔力を込める必要もないこともあるが、それは希少でどこにあるかも分からないとかなんとか。

 魔力核については今はどうでもいいと説明を省かれた。


 そしてその込めた量が多いと魔道具から溢れて流れでるのが魔力残滓だ。

 基本的に都度発動タイプか常時発動タイプで起こる。

  魔力残滓は周囲に何らかの影響を及ぼすことが多い。

 魔力残滓を多く吸った動物は魔物に変わる。

 豚が魔力残滓多く吸った魔物がオークだ。

 じゃあゴブリンは何から変わるのか。


 そんなもん知らねえ。


  植物が魔力残滓を浴び続ければ、枯れるか変化したりする。

 魔力残滓の属性によっても変化するものは違う。

 この村では実際にそれを利用して薬草を上薬草に変化させているみたいだ。

  ちなみに毒属性の魔力残滓は毒だ。

 まんま毒素だ。

 紫山は禍々しい魔力残滓でその成分はもちろん毒。

 あれを吸って魔物に変われる者は皆無らしい。


 発生原因は不明だ。


 話は戻るが、三人はクレーターで見つけた魔力残滓の発生源を見つけようとしていたらしい。


 ラモンの眼は、魔力を、魔力量を視覚化できる。

 オーラのようなものが見えるそうだ。

 しかも色つきで。


 紫山は禍々しい紫。

 ここにいる俺以外は黒。


  そして俺のは……見えないらしい。

 はっ?なんでじゃい。


 色は属性や成分が起因している感じだな。

 なら、俺は当然緑な気がするけど。

 うん、謎だ。


 で、あそこでは青いオーラが地面から見えたらしい。

 この村にあるのと同じで。

 だから同じ物があるんじゃないかと思っているらしい。

 

  ん?あれ?

  薬草を上薬草に?

  まさかね…。


  「ねえ、この村にあるのって何?」

「あ?魔力残滓のやつ?」

  「うん、それそれ」

  「あー、じゃあ見に行くか?」


  そう言うと、レビタは肉を口に頬張ったまま立ち上がった。

 ネグロとジャイは立ち上がらない。

  ネグロは立ち上がらない。

 えっ!ネグロは立ち上がらないの?

 

「俺、ラノドンの肉食ってるわ! お前に任せたっ!」

  「………」


 肉を取り合うネグロとジャイ。

 クレーターの原因に関わることなんじゃないのかよ。

  知りたいんじゃないの?


  立ち上がる気配は…ないな。

  もうほっとこ。

  ということで、俺とレビタは二人で行くことにした。

 といっても、すぐそこらしいけど。


 ラモンは自宅で留守番だ。

 あの二人がいるからな。家は任せられないのだろう。

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