第7話 魔力量を測ったら魔力操作をしよう

次の日。

 

晴れ渡る空は雲一つなく、蒼は途切れることなく視界にはいる上空全てを覆い尽くしている。

 

 ドライ先生は今日も同じラフな格好をしている。

 それを見た瞬間は昨日のデジャブかと思ったさ。

 

 しかし、とりあえずそうではなかったことに安心した。

 今日はちゃんと魔法についてを教えてくれるようだ。

 

 「じゃあ、今日はまず魔力があるかどうかを確かめるぞ」

 

 「はい。ドライ先生」

 

 ちょっと待ってろと言い、ドライ先生はズボンのポケットから小さな石板の様なものを取り出した。

 

  「これはな、石板だ」

 

 何とまんまの石板でした。

 

 「はい。ドライ先生」

 

 「もちろんただの石板じゃないないぞ。 この真ん中の窪みに血液を垂らすと、そいつに魔力があるかどうかが分かる。 魔力というのは全身に巡っている。 だからな、同じように全身を巡っている血液と強い密接関係にあるんだ。とまぁ、そんなことはどうでもいいや。 とりあえず、一滴垂らしてみてくれ。やれば分かる」

 

ポイッと、石板を投げ渡してくるドライ先生。

 いきなり投げるものだから、危うく落とすとこだった。

 

 血ね……

 ここは指先からなんだろうが、針とか何もないしな……。

 噛みきるのもちょっと嫌だしなーと悩んでいると、ドライ先生が、あぁこれもと言いながら折り畳み式ナイフをポケットから出してくれた。

 

痛いの嫌だけど、やるしかないから仕方ない。

 

俺はナイフ借りると、チクッと指先を刺し血を石板に乗せた。

 しかし、何にも反応がない……

 

 壊れてんじゃないの?と、ドライ先生へ石板を返そうとした瞬間、それは輝き出した。

 直視出来ないほどの光量。

 

 ……やっぱり壊れてんじゃないの?

 

 「うおぉぉぉぉぉ」

 

 突如、ドライ先生が野性的に雄叫びを上げる。

 うっせーよ!ゴリラかっ!

 

 驚いた俺は、思わず上着の内ポケットへと石板をしまいこんだ。

 

 「先生っ! これ、壊れてます?」

 

 「ぶっ壊れてるよっ!」

 

 先生は俺の質問に即答する。

 

 ……やっぱりね。


  そして、続けて俺を指差して言った。

 

 「ぶっ壊れ性能だよ!お前がなっ!」

 

 

 

 ━━━えっ!えー!俺かよ。

 

 

 ┼┼┼

 

 「━━━いやー、今までに何にも教えてきたけど、こんな光方したのはお前が始めてだ」

 

 先生はそう言うと、バンバンと俺の背中を叩く。

 先生手の大きさと俺の背中の広さって同じくらいか?

 背中がまんべんなく痛い………

 

 先生の説明によると、あの石板は魔力があるかどうかを調べると共に、その人の魔力量を光量で知らせてくれるようだ。

 

 この世界の生物なら微量ながらも魔力は流れているらしく、才能が無いやつでもほんのり光るみたいだ。

 

 ちなみに魔力量が少ない種族である獣人は、暗い所でないと確認できない程の光量であるらしい。

 

 というわけで、俺の光量はこの年齢にしてまずあり得ないらしく、ドライ先生の見立てでは、正確な数字で見れるわけではないから何とも言えないようであるが、相当な熟練の魔法師と同等かそれ以上であるとのこと。

 

 それを聞いた俺は疑いの眼差しを先生に向けると、先生はじゃあ見せてやると言い、俺から石板を取り上げた。

 

 そして、先生の血液を石板へと垂らした。

 そこには俺に比べると遥かにかわいい量の光、ローソクの火くらいの光りがあった。

 そんな先生は高名で実力は申し分のない魔法の使い手であるという。兄の先生曰くだが。

 

 「お前には魔力があることは分かった。 それも尋常じゃない程のな。 お前は魔法属性が弱くても、それだけの魔力量があるなら魔道具だけでも全然大丈夫だわ」

 

 魔道具とはあらかじめ魔法を刻印したものである。

 魔力を注ぎ込めば誰でも使用できる便利な物であるが、注ぎ込む魔力量でその威力が変わるらしい。

 

 ランプの魔道具へ魔力が少ない者が注入した場合普通のランプの光量であるものが、膨大に保有する者が全てを注入した場合、夜を昼間のようすることも理論上は可能らしい。

 

 「先生、ちなみに魔道具ってポンポン作れるものなんですか?」

 「あー、刻印するお手本とかあればいけんじゃない?」

 

 「それはどこにあるんです?」


  「んとな、基本的には魔道具を売って商売してる奴がいるから刻印の書かれている書物は簡単に見ることはできないな。大金払えば見せてもらえるか購入できるかもな。 ちなみに魔道具も物によるが、基本的に高価だぞ」

 

 そんな物、俺には無理じゃんか。

 

 「………先生、魔力あってもお金ないとダメじゃないすか」

 

  「……ま、まぁそのだな……、そういう手もあるぞって話だ。 お父さんはほら、貴族だし、いよいよになったら頼むのもいいんじゃないか? とりあえずは入学レベルが目標だから、その話はここまでにして次いくぞ。 次は……魔力操作だな」

 

 自分から言っといて……

 

 「分かりました、先生」

 

「じゃあ……」 

 

 先生はポケットを念入りに探っている。

 石板のように何か必要なのだろうか?

 違うポケットには穴が空いていたようである。

 

 今度は靴を脱いで確認している。

外なのにズボンを脱いで逆さにして揺らしたりもしている。

  しかし、どこにもないようであった。

 

 「……家帰ろうか」

 

 ドライ先生は少し青ざめた顔で、汗に顔をびちょびちょにしていた。

 ウェッティである。

 

 「はい。ウェット先生。あ、ドライ先生」

 

 ┼┼┼

 

 先生は家に戻ると早足で部屋に戻っていった。

 数分すると、軽快な足取りでやって来た。

 

 「いやー、無くしたかと思ってヒヤヒヤしたぜ。 これ、高価なやつだからな。 バッグに入ったままで助かったわ」

 

 先生は手によく分からない平たくて黒い丸い物をいくつも握りしめている。

 

 「先生、それで魔力操作をするんですか?」

 

 「これはな、魔力が通ると色が変わるんだ。 だから、体中に貼り付けてな━━━説明はいいからやってみるぞ」

 

 そう言うと、先生は俺の体中にそれを服の上から貼り付けてきた。

 正確には両手の甲、両肘、両肩、丹田、両腿、両足の甲の十一ヵ所だ。

 

 「………よし、準備完了だ。 ……まずは、目を瞑り丹田に魔力が集まるようにイメージをしてみてくれ。 へその下辺りが熱く感じられれば一先ひとまず成功だ」

 

 「はい。さんせー」

 

繰り返し同じ返事することに飽きた俺は、ちょっと変えて気分転換することにした。

 

 いや、そんなことよりも丹田に集中する。

 

 ………こいこいこい………きた!……のか?

 

 へその辺りが熱くなったような気がする。

 

 「おっ! 丹田のとこが色変わってるな」

 

 先生がそう言うので、目を開けて確認するとヘソのところに付けたやつが黒から白に変わっていた。

 

 「よしよし、じゃあそれを胸から肩を通り、手の指先まで移動するイメージをしてみろ」

 

 俺は先生に言われた通りに、もう一度目を閉じてイメージする。

 

 それはもう簡単に、肩と手の黒丸を白丸に変えてみせた。

 目を開くと、それを見た先生がちょっと興奮しているではないか。

 まぁ、初日でここまでできる奴はそれほどいなかったのだろう。

 

 興奮して指示を忘れている先生を尻目にさらに高速で移動させる。

 最早、イメージとかではなく、魔力そのものを普通に動かしている。目を閉じる必要はない。

 手や足へ魔力が行ったり来たりだ。

 

 その度に全身にくっつけたソレが黒と白に色を交互に変えていく。

 「………」

 

 興奮していた先生は、今度は無言になり強い目力で俺を凝視している。

 

 面白くなってきた俺は、魔力を分散させて不規則に色を変えてみたり、丹田の所を常にピコピコさせつつ右半身、左半身を交互に白黒させてみた。

 

 「……先生、どうしました……?」

 

「……ここまで魔力操作が上手いやつは見たことがないわ。 今の俺でも無理だし、宮廷に使えている魔法師でもここまでの奴はいないと思う。 お前、天才だわ。 ……よ、よし……、じゃあもうそれいいわ。 学校の入学には問題ないからな。 兄貴のように公表すれば、学校からの希望が引く手あまた間違い無しだ」

 

良かったな、と俺の肩をポンポンと叩く先生。

 俺は少し考え込むと、

 

 「ドライ先生、このことは内緒にしてもらってもいいですか?」 

 

 「なんでだよ? かかる費用は全て免除されるぞ?」

 

 「………。 親にも迷惑かけないから、それはとてもありがたいお話になりますけど、安い費用の庶民の学校にでも通えればいいんで。 僕、生まれる前から期待されてて、いざ生まれたらこの属性だったんで、周りをがっかりさせてしまったんです」

 

 「………」

 

 先生は俺の話を真剣に聞いてくれている。


  「……だから、また同じようなことになったら嫌だし、それに魔力量が多いのと、魔力操作が上手くいっただけでは、この属性とプラスマイナスゼロのような気もするし……」

 

 「………」

 

 「だから、期待されたりとかもてはやされたりとかはちょっと……普通に始めて、普通に終われたらいいです」

 

 先生は後ろ頭をボリボリとかきながら、少し考えている。

 

 「………、そうだな、お前の人生なんだからお前の自由だ。 よし、学校は後でピックアップしておいてやろう」

 

 俺は顔と自分の膝が触れるギリギリまで腰をおると、大きい声を出した。

 

 「先生っ! ありがとうございまつっ!」

 

 噛んだ。

 

 先生は爽やかな笑顔を向けてくれている。

 格好はあれだし、ゴリラだが何だか格好よく見えてきた。

 

 「うむ。 では、残りの学校入学までは体力作りと魔法の練習をすることにしよう。 とはいっても、俺は風属性一辺倒だからな……。 そっちの面で教えられることは教えよう。 樹属性魔法は使えるだろうが使ったことがなくてな……。申し訳ないが空いてる時間で自分で探ってみてくれな」

 

 先生はすまんなと言いながら頭を下げた。

 

 「先生……。謝らないで下さい。 樹魔法については元から自分でどうにかするつもりでしたし。 それに先生が風魔法の使い手というのは事前に知ってたことなんで大丈夫です。しかし、教本の中でさえ、あんな扱いだったんで先が思いやられますけどね……ハハッ」

 

 俺はそんなことは屁でもないと精一杯の笑顔を作るが、正直言うと少しへこんだ。

 先生の髪の色を見て、もしかしたら樹魔法を教えてもらえるんじゃね?と淡い期待を持っていただけに、先生の言葉は少しこたえたのだ。

 このところ、自分なりにいくつか樹魔法を開発していたが、果たしてそれが強いのか、評価されるような魔法になっているのかすら分からない。

 だから、自分の魔法と比べる対象が見たかった。

 

 あー、そう言えば俺って、そもそもこの世界で魔法らしい魔法を見たことがないわ……。先生の足が早くなるやつくらいか? 

 

 それもいいけど、攻撃魔法とか見たいなー。

 それだけでも参考になるかも……。

 

 前世では父と兄の模擬戦を見ていたから、あの世界の標準は分かるが、この世界の普通を知らないんだった。

 

 よし、先生の風魔法を見せてもらおう!

 

「先生っ! まだ時間があるんで風属性の攻撃魔法見せてくれませんか?」

 

 「あぁ、一向に構わんよ。 もとより、それらはお前に教えつもりであったしな。 じゃあ、ここでは無理だから場所を外に移すぞ」

 

俺と先生は連れだって外へと移動した。

 

 ┼┼┼

 

 「━━━ここら辺でいいか。 じゃあ、今から使うのはエアーカッターという魔法だ。 風の刃を相手にぶつける魔法である。 触れるととピッと切れるから気を付けろよ」

 

 「はい。チャンセー」

 

 ピッなんだ。ズバッじゃねーのね。

 

 先生はポケットからおもむろに例の小さな棒を取り出す。

 すると、近くにある木に向かって棒を指し、詠唱を唱え始めた。

 「天地に渡りし蒼の━━━」

 

 「先生、その棒はなんですか?」

 

 気になったので詠唱中であるが質問をする。

 もちろん途中で詠唱は止まるもんだから、先生、少しイラッとしたよね?

詠唱は中断しても詠みあげた長さで魔力はごっそり取られるらしい。

 そりゃー、イラッともするか。

 

 「これはな、ツボを押す棒だよ! 健康棒! あのな、詠唱中に話しかけるの禁止な!コホンッ、じゃあ改めて━━━天地に渡りし蒼━━」 


 「先生っ!」 

 

 「━━なんだよっ!」

 

 「詠唱の途中に話かけてすいませんでしたっ!」

 

 俺は心を込めて謝る。誠意が大事だ。

 

 「………」

 

 先生はそんな俺を無視して続きを始めた。

 

 「天地に渡りし蒼の風よ 兜率天の息吹よ 不可視の刃を以てのものを刻め━━━エアーカッター」

 

 健康棒に青白い魔力が集束したかと思えば、先端から目の前に立つ木へと、目には見えない風の刃が飛んでいった。

 

 シュパッという音が聞こえた。

 

 先生を見れば少しハァハァと息が荒いようだ。

 

 「どうだ!見たか?!」

 

 木を見れば表面の皮にバツ印が刻まれている。

 

 ………ま、まさかこれ?

 「せ、せんせー、どうなりました?!」

 

 かなり手加減してんだよな?

 俺の想像の上をいってくれよ!

 

 「見てわからんのか! そこの皮を見なさい! 切れてるだろ!」

 

 先生が指差す所を見てもやはりさっきの傷跡があるだけだ。

 

 「……た、たしかに」

 

 「ふはははは! これぞ我が魔法なのだ!」

 

 俺の前世ではファイアーボールと言えば大人がスッポリ入る程の大きさが普通であった。

 

 「せ、せんせー、一つ聞いても宜しいでしょうか」

 

 「なんだ?」

 

 「ファイアーボールって、普通の威力ってどれくらいの大きさですかね?」

 

 先生は自分の凄さについて質問かと思ったら、畑違いの質問だったから少しムッとしている。

 が、しっかりと答えてくれた。

 

 「……ハァ……ハァ……ファイアーボール? そんなもん高みにいる魔法師でこぶし大くらいだろ。 並の魔法師なら俺の手で人指し指と親指をくっ付けたくらいの大きさだな。 ちなみに俺のエアーカッターはあれで全力じゃないからな!……ハァ……ハァ…」

 

 あぁ、俺の想像の斜め上にいってるわ。

 

 ………この世界、魔法の基準がひっくぅー

 

 「そうですか……。ありがとうございます。 今日は先生もお疲れのようなのでこの辺で終わりにしましょうか」

 

 先生は息を整えるのに必死だ。

 

 「そうだな。 今日は体力作りは無しだ。 また明日にしよう。 解散!」

 

 「お疲れさまでした」

 

 俺は二日目にしてこの世界の魔法が弱すぎることを知ってしまった。

 あ、これ余裕かもね。

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