第4話 魔法とはなんぞや

前世とこの世界では、一言に魔法とはいっても違う点がいくつかあった。


 まず一つ目の相違点は属性の数が多い。

 前は四つしかなかったのがここでは十二もある。

 この違いは魔法を使用する上でそもそもの根源部分に違いがあるからっぽい。

 前世では四つの精霊がいて、その力の一部を借りている感じだ。だから、得意系統と言われるものはあっても、基本的には全属性を使うことができる。得意になる系統というのは精霊との相性によるんだったかな。

 ここでは、その概念はない。

 己の力のみを行使する。自身が抱える魔力を属性変化させる感じかな?

 だから、元々その属性の才能がなければ一生使うことはできない。基本的に一人二種類だ。

 四大元素に二属性を合わせた六つの内から一つと、その派生属性を使用できる。

 ただ、派生属性はどれも弱いため、四大元素か二属性で生まれた者は派生属性を使用することはまずないようだ。

 派生属性で生まれた者は、強者になることを夢みてメイン六属性を一生懸命勉強し、派生と合わせて二種類使うに至るがどっちも中途半端になる者が多いようだ。

 

 次にここでは魔法詠唱というのがあった。それに加え、触媒となる物が必要である。それは杖でもアクセサリーでも構わないらしい。ただし、それに思い入れが強いほど威力が上がるとか。

 

 前世での魔法の発動方法というのが、自分の魔力を媒体に精霊の力の一端を使用し、それを精霊に補助してもらうといった感じだった。もちろん道具は何もいらない。

 使用者は魔法名を唱えれば使用できる。精霊に魔法を指定する

だけでいいのだ。精霊との絆が強ければ、心で念じるたけでも発動する。

 それがこちらでは詠唱をしないと使えないという。熟練者ともなれば高位スキルとして詠唱破棄や無詠唱はできるようにもなるらしいとか。できる人とできない人の違いは何なのだろうか?

 

 詠唱はイメージを固めるためなのかな。精霊のように補助はないから、自分のイメージを魔法に乗せやすくするため?

 

 マオがいうには、同じ人が同じ魔法を使用する際に詠唱を少し変えただけで威力に違いが出たとかいう話もあるらしいとか。

 

 詠唱ね……チラッとマオから聞いたけど、恥ずかしくて鳥肌たったね。

 

 もう一つ魔法の発動方法として刻印ルーンというのがある。

 これは、詠唱はいらないが魔方陣のようなものを刻んで発動する。地面でも相手に直接書き込んでも大丈夫だ。

 物に消えない物で書き込めば、自分の魔力を注ぐだけですぐに使える。所謂、魔道具である。これに至っては属性は関係ないようだ。

ただ、刻印ルーンは複雑であるから、暗記することはまず不可能である。且つ、正確に刻まないと発動しない。

 なので、刻印ルーン魔法というのは物に刻み魔道具して

 使用するのが一般的らしい。

 

  それから、属性の優劣という概念がここではない。

 前の4つ精霊は属性優劣というのがあった。

 水➡火➡風➡土➡水のように、例として水は火に強く土に弱い、火は風に強く水に弱いと言ったところである。

 

しかし、この世界には属性優劣は存在しない。

 力の強さが単純に優劣に繋がるらしい。

 大袈裟に例えるなら、小さな火種程度の魔法とコップ1杯の水魔法ならば水属性が優勢であるし、家が燃えるような火魔法と涙程度の水魔法なら火属性が優勢である。

 もし、全く同じ威力の魔法がぶつかったとするならば、その時は互いに消滅するらしい。

 全く同じはなかなか有り得ないみたいだけどね。

 

 俺の魔力は果たしてどれくらい強いのだろうか……。

 家族は全員魔力が高いらしい。だったら俺も大丈夫なのか?

 いやいやまてまて、家族が才能あるからといって期待されて、結局、樹属性魔法で生まれた俺だぞ。

 期待外れが一度あるなら二度あるんじゃねぇですか?

 うげ………

 

 ……考えても分からないから、とりあえず練習しようかな……ということで、今日もこっそりと外出して樹属性魔法と風属性魔法の練習をするのだった。

 

 ┼┼┼

 

 (……よしよし、今日も俺のことなんて誰も気にしてないな。アホなメイドもメイド業務に勤しんでやがるぜ! いくぜっ!ヒャッハー!)


トボトボと玄関を後にする。

 

数回目になる異世界の外は今日も清々しい青空が広がっていた。雲一つなく、太陽の光が燦々と大地へ降り注いでいる。

ブルノーブル家の野菜達はその光に照らされて、まるで歓びの声をあげているように見える。

 

 さてと、家から死角になる所で練習だ。

 玄関を出てから三才の足で五分程の場所。

 野菜畑の隅っこだ。

 

 よし……、まずは魔力があるのかを探るか。

 

 …………

 

 ………………おっ、体に熱いものが流れている感じがする。

 

 入門書に書いてあった通りである。

 これを確か魔力操作と言ったかな?

 とにかく、俺にはしっかりと魔力は流れているようであった。

 

……よしよし、これを片手に集めるように……

 

 …………………

 

 おおっ、こいこいこい!きたっ!

 

全身に流れていた魔力は手に集まったのであろう、熱いものが手だけに感じることができた。

 

 「━━ふぅ、さてここからだな。この先は情報がないからな……とりあえず、植物を出すか。……出るのか?」 


 イメージは、植物のコピーだ。ここらにある野菜で試してみようと思う。

  

 前世でもあったのと同じ野菜である。赤くパンパンに膨らんだツヤツヤとした実が収穫時であることを俺にアピールしてきた。

 しかし、この野菜は高価らしい。育成が難しい上に味がとても美味しいらしいのだ。

 

 他の野菜にしようか迷っていると、奇形っぽくて売れなそうなヤツを見つけた。

 途中で二股に別れ少しねじれている。艶々とし、まるで女性の下半身のようである。

 ちょっとエロいな。 少し顔がにやけてしまった。

 よし、こいつをもいでやろう。プチンッとヘタの所からもいでやると、何とも嬉しそうな顔を、いや、足をしているではないか。俺の手よりもデカイなコイツ。

 表面を服で拭いてやり、一気にかぶりつ━━━いやいや、違う違う。

 えーっと、とりあえず同じのを作ってみよう……。 

 野菜を片手に持ち、もう片方に同じのを作るイメージをする。

 詠唱……詠唱……それは無理だ……。

 

 

 

 

次の瞬間、もう片方の手に同じ種類の野菜ができたのだった。

 サイズは二周りは小さくまん丸だあるのだが。

 大きさは違うものの、赤くパンパンな実が手にある。よしよし、じゃあこいつを一気にかぶりつ━━━いやいや、そうじゃなくて………今度は風属性魔法の練習だ。

 

 目標は空を飛ぶこと。

 俺はいつか空を飛んでみたいと前世から思っていた。特に前世なんて病気でほとんど寝たきりだったから、窓から見える鳥や魔法で飛ぶ人達に憧れたもんだ。

 ということで、とりあえずこの野菜を宙に浮かせてみようかな。

 

 また片手に魔力を集める。魔法で作った野菜を持つ方の手に集約する。そこに風属性を注ぎ込むような感じに……

 

 「……くそっ、難しいな」

 風は発生したが、そこに留まることなくふわっと霧散してしまった。

仕切り直しだ。

 今度は竜巻をイメージする。

 すると、野菜を纏うようにつむじ風が発生した。

野菜はくるくると回転をしながら、僅かだが浮いているようだ。

 

 よし、魔力をさらに高めていこう。やり方がイマイチわからないから息を止めて顔に力を入れる。

 頭に血が集まっていく感覚がある。

 

 「……ぐぬぬぬ」

 

 子供とは思えない、悔しがっているおっさんのような声が出た。

 

 顔は赤面し、手に持っている実と同じような色になっていることだろう。

 

 しかし、魔法に成功はしているのだろう。回転速度があがっている。どんどん上がっていく。既に輪郭がぶれている。

 

さらに回転を上げていくと、やがて遠心力に堪えきれなくなったのか、野菜は木っ端微塵に爆散したのだった。

 

 ………やっべ。

 

 俺は服を真っ赤に汚してしまった。子供の体で面積の小さい俺は全身のほとんどを汁まみれにしてしまっている。

 

 怒られるかな…………。

 

 感覚を忘れないうちにもう一度。

 

野菜は破裂してしまったから、試しにそこに落ちている石で試すか。これ以上服は汚せられん!

 

 俺はもう一度同じように集中する。すると、大人のこぶし台の石ころはすぐさま回転し始める。

 

 「おりゃりゃりゃ!」

 

 ドンドン上がる回転速度。破裂することなくドンドン。ドンドンドンドン。

 そう、ドンドン上がる摩擦熱。


 ………… 

 ……あれ?

 

 「━━━あっつ!」

 あまりの熱さに手を振ってしまった。

 

すると、石ころはスクリュー回転をしながら真っ直ぐに飛んでいく。先には巨木がたっている。

 石ころは木の幹へ吸い込まれるようにぶつかった。

 けたたましい音を鳴らし石ころは粉砕。木には渦を巻いたクレーターができていた。

 

 ………やばっ

 

 その樹は御神木として祀られていた。

 我がブルノーブル家がここに土地をもってからずっと見守り続けてくれた大事な大事な樹、らしい。

 

 どこからともなくミシミシと音がする。

 かと思えば次の瞬間、御神木はクレーターのとこから折れ地面を揺らしたのだった。

 

 「お、おおう……」

 

 思わず声が出てしまった。

 どうしよう、まじで……。

 

 ……………

 

 ………あ、こんなときの樹魔法だ。

 

 えっと……えっと……。

 

とりあえず、さっきの音で誰か来るかも知れないから隣に同じもの作って帰ろう。

 

 手をつきだし目をつぶり集中する。

 作る場所は折れた神木の隣だ。力の流れを感じ目を開ける。

 そして狙いを定めて、気合い一発。

 

 「ぐぬぅぉぉぉぉぉお!」 

 

 なんの変化も起きない。━━━くそっ!

 もう一度力を込める。込める。込める。━━おりゃ!

 

 気合いの二発目と共に、神木の横の地面からニョキニョキと木が生え始めた。すぐに大きくなり始める御神木もどき。

 そして、元の木の折れた辺りまで成長が達した時、俺は目の前が真っ白になり意識を手放したのだった。

 

 ━━━魔力切れである。 

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