第2話 異世界に降り立つ
ゆっくりと目を開ければ、艶のある青髪ロングの美人がのぞきこんでいた。
……魔族?ではないな。柔和な笑みを浮かべる女性、その様子を見てもどうやら危険はなさそうだ。
(見たことのない種族だな。どこに転生されたんだろ?)
周りを確認しようとするが首が動かない。
隣に赤色の髪をした男性が微笑んでいるのがぎりぎり見える。
髭を生やしているが若そうに見える。
見たことのないような衣服を身にまとい、しっかりと見えるわけではないが、よく鍛えられた体をしているようではある。
二人は俺の頬を指でつんつんしている。
やめろ!美人はありがたいが、男はやめろー!
「あうー。あー、うーうーあー」
あれ?しゃべることができない……なんだ?
二人はつんつんをやめ、何かを話している。
笑顔だから悪い話しではなさそうだが、全く言葉がわからない。
「×××××××。××××××」
「××××。×××××。×××××」
首が動かなければ体も全く動かない。言葉もわからない。
━━━これは………普通に考えて赤ちゃんに転生したんだろうね。……異世界で赤ちゃんから開始か…。
「××××。×××××。×××××。×××」
ここで三人目の女性が登場した。
魔界にもいたが、格好からして召し使いに見える。
「×××。××××」
「×××。×××××」
黒髪の美人と何かを話している。
近づく召し使い。
あ、あ、やめろ!やめてくれ! 降ろしてくれ!
抱き上げられる俺。
唐突に口に突っ込まれる━━━
あーーーー! あ?ん?うまい。
何かの容器に入った温かい液体はとても美味だった。
どうやら、食事の時間だったようである。
他にはなんだ?なんだ?ワクワクするな!飲み終われば次がでてくるのか?
よし!━━━ゴクッゴクッ
……………。
………うっぷ。もう飲むのはきついな。固形くれ、食いもんくれ!
俺は、アーとかウーとか言うが、また同じものが口に突っ込まれた。
ちっげーし!もう、これいらねーし。きっつ!これ、きっつぅーー!
あぁ、赤ちゃんはしばらくこの食事なのか。うまいけど、こればっかりはきついな……赤ちゃんきついな……
あー、何か固形物が食べたいな………
こうして、俺の異世界初日は終えたのだった。
┼┼┼
一年の歳月が流れた。
漸く、液体飲料地獄から解放された。
固形物最高!
何よりもトイレが最高だね。さすがに一歳で一人でのトイレは早かったらしいけどね。いやー、あれが一番きつかった。
何せ、中身は物心つきまくってる青年だからね!
垂れ流しは気持ち悪いし、処理してもらうのは恥ずかしいの何のって。毎回、すいませんって心で謝ってましたよ。
一年過ぎて、言葉がわかるようになり分かったことが沢山あった。まぁ、まだ発声がうまくいかなくて、話すことはできないんだけども。
この世界は異世界で間違いなかった。
グラースという世界だ。魔界と同じく、魔法がある世界でそんなに前世と大差はないようである。
で、目覚めて最初にいた二人が両親だ。
二人とも二十代。元の世界なら全然子供の年令であるが、この世界の平均寿命が百才だから、十分大人であると言えた。
それだけに人生を早送りをしているように過ぎていくようだ。
向こうの感覚だと、取り残されてしまうね。
そして、やはりあの女性は召し使いだ。メイドと呼ばれている。俺の生活のほとんどをサポートしてくれている。
要するに子育て係だ。頭が下がります。
そこそこの金持ちの家らしく、貴族であるらしい。
種族は人間という。突出した特徴があるわけではない。
この世界には他にも種族がいるらしい。細かくは分からないが、いくつも存在するようだ。
それから、
家族には兄が一人いる。俺には兄がいる運命らしい。
年は四つ上の現在五歳で、父と同じく髪は赤い。優しく面倒見のいい兄貴だ。俺はいい兄貴に恵まれる運命らしい。
ちなみに俺は髪が薄緑色である。
何でこんな色とりどりなのかって? なんと、得意系統の魔法が髪に作用し色が決まるのだ。他の系統も使えるが、得意系統が一番威力が高く、多くの魔法を覚えるんだとかなんとか。
その内、詳しく調べたいね。言葉は分かるけど、文字がまだ読めないんだ。前世でずっと魔法の本を読んでいたから知識はある。ただ、前世とこの世界との魔法が同じかどうか……。
少なくとも俺の系統は前世で聞いたことがない。
みんなの話からすると、俺のは不遇とされている系統らしいが………。
さて、今日もおぼつかない足取りでうろうろと徘徊するかな!
「坊っちゃま! 勝手にウロウロされては困りますぅ。ケガでもされては旦那様と奥様に私が叱られますぅー」
今日も世話係が俺の行く手を阻む。負けない。
ヨタヨタとドアの向こう側へ歩く。ひたすら歩く。歩く。空中を歩く。歩けば歩くほど上昇していく。
そして、いつもと同じようにベビーベッドという監獄へ俺は連れていかれたのだった。
言葉を理解できるようになって、分かったのだがこのメイド、少し頭が弱そうだ。特に何があったわけではない、強いて言うなら話し方かな。
┼┼┼
それからさらに二年が経った。
俺はすくすくと順調に育ち、健康的な三才へと育った。
そして、家の中を自由に歩き回る権利を与えられたのだ。
この家は前述の通り金持ちだ。爵位を持つ貴族である。
爵位は……あー、忘れた。
家は豪奢な造りで、木造の二階建て。部屋数は多いが寝る部屋と風呂場、食事の場所、リビングにトイレと書斎室以外は何の部屋なのかは知らない。興味もない。あっ、一度廊下を歩いている時に、ドアが少し開いている部屋があったから覗いてみたんだけど、父が背を向けて素っ裸で仁王立ちしてたんだ。そっと閉めたよ。怖いからね。あそこが父の部屋かな?
家の周りは畑だ。広大で隣家は見えない。多種多様な農作物は我が家の食料と共に収入源となっている。見たこともないような植物ばかりで心が踊らされた。
先祖代々から土地だったが、貴族のくせに今にも取り壊されそうなほど貧困であったらしい。それを父が一代でここまでに築き上げ、名実共に貴族の仲間入りを果たした。
見える限りの土地全てが我がブルノーブル家のものである。
今日も俺は歩き回り、大好きな書斎室へと入っていった。
手に取るのは魔法入門書だ。
文字についてはメイドのマオに教えてもらい、ほぼ普通に読めるようになっている。
ちなみに話もできるようになった。
勉強の教材には「この世界について」という、世界史を使用していた。おかげで、この世界のこともついでに習うことができた。グッジョブ!マオ。
この世界は大きく三つの大陸に別れている。
一つが俺が住んでいる緑の大地と呼ばれている、この大陸である。
種族は亜人と呼ばれる獣人、ドワーフ、エルフの三種族と俺達人間が共存共栄している。
水が流れ森が繁り空気が澄む。人間も亜人も動物もこよなく愛する土地である。
そして、天の大地と呼ばれる空に浮かんでいる大陸━━ルーアンがある。
天界人という種族のみがそこに暮らし、幻想的な世界が広がっていると言う話だ。
天界人は基本的この地へ降り立つことはないらしい。
そして、空の大地は高度数万メートルという高さにあるため、この世界の歴史の中でも見たことがある種族は天界人以外にはほんの一握りのようだ。
だから、その全貌はいまだに分からない。
最後に氷の大地という魔族の住まう大陸━━ブザンソンがある。
ここにだけは近づくなとマオに再三言われた。
氷の大地と言うだけあって、とにかく寒いらしい。
死ぬほど寒いらしい。いや、死ぬらしい。
そしてこの世界の魔族は平和的ではないということだ。
出会えばそこには血が流れるんだと。
この世界の話はこれくらいにして魔法の復習をする。
魔法には火(赤)、水(青)、風(緑)、土(茶)の四大元素と光(金)、闇(黒)の二属性がある。そして、そこから派生して熔(燈)、氷(水色)、樹(淡緑)、雷(淡黄)、聖(銀)、毒(紫)があり、この全ての中で樹属性が一番のハズレ属性であると。
むしろ、派生属性は全てハズレであるらしい。
父と兄は火属性、母は水属性である。もちろん、生まれてくる俺も火、水、熔、氷のどれかと予想された。
しかし蓋をあければ何故か淡緑の頭の坊主。……なぜ……?
この時は、父親が違うんじゃないかと母は疑われ、相当大変だったらしい。調べに調べ、父方の遥か昔のご先祖様に樹属性が居たらしく、先祖返りだったようだ。
まぁ植物が大好きな俺にはうってつけだったわけだが。
樹属性は風属性の派生だから、この二つが俺の得意魔法になるのか。
俺はペラリペラリとページをめくり、この二つが詳しく書かれてある所を探す。風属性はそこそこ詳しく載っているのだが、樹属性は………。
あまり居ないのか、それとも弱いとされているからか、一文
だけしかなかった。
《樹属性について》
植物を操る。もしくは創る。とにかく弱い。
━━━なんじゃそら。
いくらなんでも短か過ぎやしないかい?というか、何の説明にもなってないし。これなら、むしろ載ってないほうがよいわ!
……前世の知識もあるし、自分で探すしかない、か。
はぁ………
そうして、俺はひっそりと魔法の練習を始めることにしたのだった。
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