異世界王位争奪戦 ~妙な能力と魔法と作戦と~

三富

第01話 初めての異世界転移



 今、何が起きた。



 くしゃみしたら外が急に明るくなって、というか外に出てるんだけど!?



 俺、近藤銀二こんどうぎんじは本日めでたく誕生日を迎えて、初めてのお酒を飲もうとした。ただそれだけだったはず……?


 そのはずが、何故か良く分からない場所に座り込んでいる。


 後ろは山、目の前は丈の短い草原が地平線まで続いているかのようだ。空は青い。雲一つない。そして目を焼くように降り注ぐ太陽の光。住んでる寮はそこそこの住宅街の中に建ってたはず、それにこんな風景が近場にあった記憶が無い。


「……あ。そういえば今は冬、だったよな」


 自分で言ってから気付く、暑い。冬とは思えないほどに暑い。

 俺はTシャツに厚手のカーディガンを羽織って、ジーパンという、至って普通の格好。いわゆる部屋着だ。髪は眉くらいの長さで色は生まれつき茶色ぽい色をしている。それのせいで要らんトラブルに巻き込まれたこともあるが、それはまた別の話。顔も至ってどこにでもいるような顔、強いて言うならば眠たそうな目をしてると言われる。ぱっちり二重のせいだろうか?


 ……今は、周りの気温に比べて不釣り合いなほど厚着をしている。何もしていないのに汗が流れる。とりあえず上に着てたカーディガンは脱いだが、まだ暑い。唯一の清涼剤が左手に握っていたお酒だ、暑いからとりあえずお酒を一口。初めて飲むものだったので、度数低めのカクテルにした。


「ただのジュースだよなぁ……」


 桃の甘味が口に広がる。お酒らしい感じはほとんどなく、若干舌に苦みみたいなのが残る位だろうか、これがアルコールなのか。

 桃にしたのも、この味に外れはないと思って選んだのだが、今の状況だと甘さが口に残って少し気持ち悪い。お茶とかの方が飲みやすくていいな。口直しをしたい。何かお酒以外の飲み物はないかと身の回りを探る。



「いやいや、そうじゃなくて」

「ここなんだよ! どこだよ!! 愛しのマイルーム!!! カムバァァァァァックマイルーム!!!!」


 座りながら両手を広げ、空へ仰ぐ。叫んだ声は虚しく響くばかりで何が起きる訳でもなく、ただの静寂が帰ってくる。しばらくそのままで固まっていたが、腕が疲れたので下ろしてがっくり項垂れる。



「これは、なんだ、夢なのか……空とか飛べるかな」

 気を練って見ても座禅組んで瞑想してもちっとも浮かびもしない。おまけに頬を引っぱたいたり、お腹をつねって見たりする。痛みはある。リアルすぎる位に痛みはある。



「夢……ではないの……?」


 痛みも味覚も視覚もしっかりしてる。夢とは思えない。だけど夢としか思えない。


 何だよこれ、全然わからん、意味わからん、頭痛してきた。どうすんだよこれ……。

 頭を抱えて項垂れていると、遠くで小さな爆発音が聞こえた。

「ん? 爆発?」


 爆発の方へ目をやると、山の方から煙みたいなのが上がっているのが見えた。しかもかなりの数。


「あれ、近付いてきてる……?」


 煙も良く見ると繋がっているようにも見えなくはない。音も少しずつ大きくなっている。爆発しながらこちらへ向かってきてると言うことだろう。


「待って、爆発しながら近づいてくるってなに、どういうこと!?」


 頭の中がごちゃごちゃのまま立ち尽くしている。そんなのお構いなしに爆発音は近付いてくる。すぐそこで爆発が起き、遅くも思考が戻ってきた。


「流石に突っ立ってるのはまずいだろ、山の木にでも隠れよう」



 丁度、すぐそばに太めの木が生えていたので、身をひそめ木の陰から様子を伺う。今更だが爆発が山から来てるのに山に隠れるのはアホだったんじゃないかと思ったが、それは杞憂に終わった。


 先まで俺が立ってた場所に二人の人間が降り立つ。


 一人は茶色と言うより金に近い短髪のおじさん、強面な顔に、俺の2倍はあるんじゃないかというくらいのガタイ、腕の太さも数倍は太い。身長位の両手剣を構えて牽制している。

 もう一人は、比べて一回りは小さい、単純に筋肉おじさんがでか過ぎるせいか、髪は水色の髪をした、男だろうか? 綺麗な顔をしている。ホストみたいだ。細身の片手剣と盾を持っている。


 そして二人とも鎧も着ている。俗にいう騎士のような恰好をしていた。


「なんてところだよ……ここは、本当に夢じゃないのか……」


 混乱してる俺を他所に、二人は同時に動き出す。おじさんが力任せに降ってるように見えて結構器用なことをしている気がする。イケメンさんがなかなか近づけないでいる。

 おじさんが大降りになったのをみて、イケメンさんが正面から受ける体制に入った。縦と両手剣がぶつかり合う音が響き渡るのと同時に、擦れるような音も響き渡る。


 渾身の一振りを盾を使い、華麗に受け流していた。両手剣の重さと勢いでそのまま地面へ振り下ろされると。


 ッドゥンッ!!


 と爆発音のような轟音が響き渡る。土や砂が舞い上がり目に入る。持ってたお酒も吹き飛ぶ。さっきから近付いてきてた音の正体はこれだったようだ。



 ――てか、剣の振り落とす音だったのかよ――。


 何という馬鹿力、馬鹿力どころの騒ぎではないだろう。


 派手な騒ぎで気付いていなかったが、後ろの方から人が来ている気配を感じた。あの二人を中心に大規模な戦いでも繰り広げられているのだろうか。だとすると、ここは離れた方が良さそうだ。と足を踏み出したとき、足先の数cm先に矢が突き刺さる。


「へ?」


 それを合図にいくつも飛んでくる。とっさに走り出して、山を駆け抜ける。相手は幸いにも腕はあまり良くないからかまだ当たらないでいる。


「ええ!? ちょ、えええ!?」


 暫く走り回って、矢が飛んでこなくなったので一安心、と木を背もたれに腰かけようとすると、目の前にある木に30cmはあるだろう大穴がぽっかりと開いた。


「……」

 開いた口が塞がらない。




 ……後ろから何か飛んできた? 凄い速さで、穴の内側には摩擦だろうか? 白い靄みたいなのが立っている。


 間隔こそ矢よりは少ないが断続的にそれが飛んでくるようになった。

「洒落になってないって!! 矢よりやべぇよ!!」


 後ろに目をやる。深緑色のローブををまとった人影がこちらに向かってきてる。あいつが犯人だろう。さっきから飛んできてるのは青白く太い氷の棘みたいなものだ。あいつは人を殺す気なのか、犯罪だぞ。

 体力が無くなりそうだ、持久力には自信ない。少し気を取られたときに足が縺れて転んでしまう。地面に手を付く前に氷の棘が放たれる。 躱すにも体が動かない。もう駄目だと死を覚悟した。目を瞑った瞬間に、自分の身体が他人の物のように異様な動きをした気がした。


 奇妙な感覚は死んでしまった証拠なのだろうと思ったが。



「……ん? 生きてる?」



 生きてる。

 飛んできたのは目の先に刺さってる。体には穴はない。違和感があるとすれば腰の辺りが痛むくらいか?

 はっとして周りを確認する。追っ手は消えていた。よろよろ立ち上がって一息ついて振り返るとローブの人影が目の前にあった。とっさの事で何もできず、額を人差し指で突かれる。


「あ……れ」


 視界が歪みだした。自分がいま上に居るのか下に居るのか分からなくなるほど視界は渦巻く。意識はある。だが立つことすらままならない。そのまま人影に抱えられてどこかへ連れていかれる。


 頭痛が酷い、気持ち悪い。歩く振動で体が揺れるたびにガンガン頭に響いて気分もどんどん悪くなる。それでも現状がどうなってるか分からない。俺を担いでる人に話しかけてみた。



「ど、こ……。う”っ」


 あ、やばい出てくる。




「あ”あ”あ”! 待て待て待て待て!! 吐くな頼むから、ホント頼むから!! 『メディ』! 」


 担がれたまま何かされる。すると身体の底にあった気持ち悪さがゆっくり氷が解けていくように和らいでいく。頃合いを見て地面へ下ろして寝転ばされる。


「少しはマシになっただろう。いやごめんな! 悪い奴だと思ってたんだけど、逃げるだけで何もしないし実は良い奴なんじゃないかなって思ってさー」


 やけに明るい喋りで、生きてるだけで楽しそうな人間だ。うちの大学にもこういうやつ居たなぁ……。何とか薄目を開けて風貌を確認する。メガネの後ろに灰色の眼が覗いている、暗い灰色の髪は上に上げておでこが出ている。出ているおでこに古傷がついてる。だけどあまり傷を見ては失礼だとすぐに目線をそらす。


「お前さ、なんであんな場所に居たんだ? 怪し過ぎだぜ? 見た感じ良い奴そうだし今はこうしてるけどな」

 大分気分は楽になっており、顔を見て話すことも出来そうだ。

「知らん、何故か気付いたらここに居た。というかここは何処だ、大学は? 俺の部屋は何処だ」

「記憶喪失ってやつか? 大変だな。ここは『マルトアレ』だ、別名北の国。そのダイガクも、お前さんの部屋もワイにはわからないよ、ごめんな」


 ……マルトアレ、聞いたこと無いぞ……。どこの国だ、どの辺だ。日本ではないだろう。海外か……?


「ってあれ、言葉通じてるじゃん」

「ん? そうだな?」


 日本じゃないけど言葉は通じる…?? 何なんだ……。 あ、そうだ携帯……は充電してベッドに放り投げたんだった……。ちくしょう。他に何か……あ、レシート。


 あとは、何も無い。

 お酒はさっきの爆発でどっかに吹き飛んだし、今レシートしか持ってないって……。どうすんだよ……。


「とりあえず街まで行くぞ? そのためにお前を捕まえたんだし」

「はぁ」


 何とも気の抜けた返事だ。


 何はともあれこの辺の事を知っていそうで割と話易い奴に出会えたのは幸運だったのかもしれない。


 ここにいること自体が不運だか幸運なんだかなぁ……。はぁ、俺はこの男に付いて行くしかなさそうだ。

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