吸血鬼と自動改札
ヴラディミーラは変に律儀なところがあった。水や電気をちょろまかし、捨てられたラジカセや漫画雑誌を持ち帰りはしても、Youtubeで音楽を聴くことを嫌い無賃乗車も最後まで拒んだ。
吸血鬼は霊的な存在だ。自動ドアを開くのだってコツがいる。逆に言えば、そうしなければドアは開かない。改札を抜けるのも難しくはなかっただろう。しかし彼女はそれを拒んだ。「何か疚しい」というそれ以上の理由もなく。けれど、二人分の切符を買おうとすると、それはそれでお気に召さないご様子だった。
「
「じゃあ、子供料金にする?」
「誰が子供か」
お約束の反応が返ってきたものの、けっきょくはそれで妥協することになった。切符を手にしたヴラディミーラは、まるで遠足へ向かう小学生のように目を輝かせていたことを忘れずに明記しておくことにする。
「こ、これをあの機械に通せばいいんじゃな」
「通ったことないの」
「み、見くびるでないぞ。久しぶりじゃからちょっと緊張してるだけじゃ」
「あれ、でもミラぽんが子供のとき自動改札ってあったのかな」
「余計なことに気づかんでいい!」推定年齢七十歳以上の吸血鬼はヒステリックに叫んだ。
はじめて改札を通ったときは見ものだった。彼女は何度も深呼吸を繰り返し、おっかなびっくり切符を改札へと通した。切符が機械に吸い込まれる瞬間、小さく肩を震わせたことも見逃せない。変にかくかくしたロボットみたいな歩き方で、ゆっくりとこちらに向かってきた。まるで、赤ちゃんのはいはいでも見守るような心地だ。やがて、改札をくぐり抜けたヴラディミーラはトップランナーよろしくの誇らしげな表情でこちらに飛び込んできた。
「やったぞ、いむる!」
「切符! 切符取らないと!」
わたしが指摘すると、ヴラディミーラは慌てて改札に取って返した。
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