誕生日は朝日に包まれて
蘇来 斗武
第1話 誕生日は新たな生活の始まり
私は今、ゆうくんと二人で借りたアパートに住んでいて先にお風呂に入ったゆうくんを待っている。
「お風呂上がったよ」
「はーい」
ゆうくんは灰色の半ズボンに薄い青色のシャツというラフな格好で部屋に入ってきた。それから髪を拭いたタオルを肩にかけ、冷蔵庫から取り出した牛乳を一杯飲んで私の隣に座った。
「なあ、
来た!!
私の気分がはね上がると同時に勢いよくソファーから起き上がり、読んでいた雑誌を放り投げた。
「行く!······けど夜景って······」去年も見に行ったよね。って言おうとしたがやめたが、ゆうくんは察したのだろう。
「いいじゃん。この前ネットですごいキレイな場所見つけてさ。一緒に見に行きたかったんだけど······ダメかな?」
ゆうくんはちょっと申し訳なさそうな顔をしているが、目は真剣で真っ直ぐこちらを見ている。
「──うん。いいよっ!!いこ!!ゆうくんが見たい景色なら私も見たいし」
「そっか。なら良かった。夜は美味しそうな料理食べに行こーぜ」
ゆうくんは子供のようにニカッと笑い、嬉しそうにしている。
私だって楽しみだ。でも何だろう、贅沢だけど今まで色々な出来事があった分、本来、祝ってもらえるだけありがたいはずの誕生日が少し物足りなく感じる······二人の間にある愛が少しずつ薄れていくような──不安と寂しさが私のなかにはあった。
「それじゃあ、忘れ物はないな?」ゆうくんは玄関で靴を履いて、家の戸締まりをチェックした私を見て言っている。
「はい!準備オッケーであります!」私はショルダーバッグをかけ、ゆうくんに向かって敬礼のポーズをとる。
不安だの、寂しいだの言っても自分の好きな人──彼氏と一緒に誕生日にお出かけが出来るというのは、とても嬉しい。玄関の鍵をかけて車に乗った。
運転はゆうくんがしてくれる。彼氏の横顔を見ながらのドライブは幸せだ。ハンドルを握る腕がごつごつと男性らしくドキドキする。
その日の夕飯は“お好み焼き„だった。これは私のリクエスト。私はお好み焼きが大好きなのだ。
食事をしながらこれまでの出来事を振り返って色々な会話をした。自分たちの出逢い、初デート。
当時お互いが何を思っていたのかを知ることができて、新鮮な気持ちだった。
お好み焼きを食べ終わった私たちは再度車に乗り、夜景スポット目指して車を走らせていた。
「美味しかったね、お好み焼き」隣に座るゆうくんを見ながら背伸びをすると、運転をしながらチラッと横目で「加奈、お好み焼き好きだもんな」と笑いながら
話す。
それから少しして私がうとうとし始めた頃──車が停車した。
眠い目を擦りながら開くと眼前にはゆうくんの顔がある。
「うわぁ!?」
驚きながら声を上げるとゆうくんは面白そうに笑っている。
「あはは、ごめんごめん。寝顔をまじまじと見ることなんて無いから何か新鮮で」
するとゆうくんは運転席を降り、私のいる助手席に回りドアを開ける。
「さあ、ついたよ。」私はゆうくんの後ろに広がる景色に思わず声を洩らす。
「きれー!!すごい!!」
急いでシートベルトを外して車を飛び出す。
そこは山の頂上のようで周りには落下防止の手すりが設置されていて、その手すりに寄りかかり身を乗り出す。
「お、おいっ!危ないって!」ゆうくんは慌てて私の肩を掴んで引っ張ってくれた。
「『ここで落ちて亡くなりました』じゃ、
真面目な顔が本気で心配してくれているような気がして、少し恥ずかしい。暗いから良かったものの、明るい場所で鏡を見たら絶対顔が赤いとわかるほど、頬が熱くなる。
それからは会話せず、二人とも前方に広がるキラキラした景色を眺めていた。
ふいにゆうくんが口を開く。
「加奈、誕生日おめでとう」
幸せだ。
「ありがとう」
二人でいられるだけで──
「これからもよろしくな」
他には何もいらない。
「こちらこそ」
「加奈」
「うん?」
「生まれてきてくれてありがとう」
「どういたしまして」
そこで私たちは目を合わせ、笑った。
「山の上だからかな、ちょっと寒いね。車に戻ろっか」
「そうだな。加奈も眠そうだし、俺もちょっと眠いからな。ちょっとだけ寝てから帰ろう」
そう言って私たちは車に戻り、二人で眠った。
「······な。かな、加奈!起きて、あれ見て」
ゆうくんに起こされて目を開けると、そこには幻想的で、ファンタジーな世界観を
「知らないの?“雲海„って言うんだよ」
真っ白でモコモコとした雲は朝日に照らされて
「加奈、こっち向いて。誕生日プレゼント」
振り返るとそこには、雲海と同じくらい──いや、それを
「改めて、誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。これからもよろしく」
「俺と、結婚してください」
ゆうくんが指輪を持ってこちらを見ていた。
ずるいな、答えなんて分かってるのに、不安とか寂しいとか······考えていたことがバカみたい。
私は目に浮かんでくる涙を指で拭い、そのままゆうくんの首に腕をまわし、
唇を重ねた。
「っ!?」
そして私は声を震わせ、返事をする。
「はい、こちらこそ生まれてきてくれてありがとう」
誕生日は朝日に包まれて 蘇来 斗武 @TOM0225
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