銃を片手に異世界生活
ねこしゃん
余熱
「ハァハァ……」
呼吸を乱しながら、彼は円柱状の空間を疾走する。
乱れる呼吸は、足を鈍らし思考を奪う。それでも、止まりそうになる足を前へと押し進める。宙を飛び交う小石が彼のほほに赤い筋を引くが、それに気づく余裕すらなかった。
背後から岩が迫るのを肌で感じる。彼は迷うことなく振り返り、虚空から拳銃を顕現させ発砲する。発射された銃弾は赤々と輝いており、岩に着弾した瞬間、爆散した。
彼は岩が爆散するのを一目もくれずに、踵を返して駆け出した。新たな弾倉を取り出そうとするが、そんな暇は与えられなかった。
後方から放たれる巨大な拳が唸りをあげ、地面に叩きつけられる。地面に亀裂が走り、轟音と風圧で土煙が舞う。
彼は、呼吸を整え、地面を踏みしめ、状況を振り返る。
視界に渦巻く砂煙は周囲を隠し、索敵を許さない。
恐怖で乾いた下唇を噛みちぎり、震える膝を、鉄拳で制裁する。
土煙は、波の引き際のように徐々に引いてゆく。土煙が薄く残る中、彼は決断を下す。
今もっとも必要な事がある。
それは誰一人、犠牲を出さないこと。
疲労で上がらない腕を酷使。思い描いた銃器のイメージが、意図した通りに具現化する。
--思い描け。自分が何かを望むなら。
--思い出せ。救うための、銃器を。
一瞬、少女達と過ごしてきた日常が脳裏を過ぎった。少女達と喜怒哀楽を共に、分かち合い過ごしてきた日々。最も近くに居て、最も信頼できる存在。そんな彼女達を裏切り、見捨てる事などできない。
悪い足場で精一杯踏み切り、重力を振り切って高く跳ぶ。酷使し、疲弊した体は容赦なく悲鳴を上げるが、これを逃せばチャンスは無い。
自分が選び、望んだのだから。
救ってくれた仲間達を、殺させはしないと。
--終わりにしよう。必要な『銃器』は、
もう、知っている。
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