シン・デレラ

那田野狐

第1話 シン・デレラ

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‐☆‐☆‐☆‐


 極めよ道・・・

デレラ侯爵家はマッサチン公国の代々近衛軍の将軍を排出してきた武の名門である。

 現当主シュウ・デレラ侯爵は16歳のとき騎士団の門をくぐり20歳で部隊長に。

 その年に妻を娶り23歳の時に長女シンを授かる。

 35歳のとき近衛騎士団の副将軍に就くが、この年、妻が流行り病で亡くなる。

 憑りつかれたように戦場で戦い37歳で赤金騎士団の将軍にまで昇りつめる。

 38歳のとき大先輩で蒼銀騎士団の将軍ハツ・ヤキニ侯爵の三女を後妻に迎える。

 後妻の年齢は35歳。20歳と18歳の二人の娘のコブツキだった。

 しかしこの縁が元でシュウは近衛軍の将軍に昇りつめる。


「95.96.97.98.99.100」


 腰まである灰色の髪に黒い瞳の160センチぐらいの少女が直径50センチはある歪な大岩を抱えスクワットをしていた。

 かなりの負荷を与えた運動を難なく熟しているにも関らず少女の身体には筋肉が付いていない。むしろ華奢である。

 顔が端正に整っているだけに異様に見える。

 彼女は某格闘漫画のような瞬発力に優れた筋肉と持久力に優れた筋肉の2種類の特徴を持つ筋肉を持つという訳ではない。

 彼女の筋肉は鍛えても太くならない。その代わりに質が良くなる。

 鍛えたゴリマッチョな男の筋肉を青銅に例えるなら彼女の筋肉は銀だ。

 微妙な例えだが御年15歳の少女である。ご容赦頂きたい。


「シン。鍛錬は終わりましたか?」


「はい。お継母さま。鍛錬は恙なく終了しました」


 こげ茶色のショートボブに灰色の瞳の派手なドレスの女性アリス・デレラ侯爵夫人の問いににシンは静かに答える。


「あと1か月、貴女の誕生日が早ければ来月の舞踏会に参加できたのに残念です」


 アリスは口では残念そうに言うが顔は笑って、いや嗤っていた。

 その後ろに控えているアリスによく似た二人の娘もまた嗤っている。

 シンは静かに頭を下げる。


「お義母さま。シンは女性とはいえデレラ侯爵家の直系長子。舞より武の人間。舞踏会なんてとてもとても」


「シュチャ姉さまの言う通りですわ」


「シュチャ、パンプティ言葉を慎みなさい」


 アリスの一喝に二人は顔色を変えシンに謝罪する。

 シンは気にしていないと手を軽く上げる。

 実際のところシンは1年に一度、貴族の子弟が成人の儀式という名の社交界デビューを兼ねた舞踏会には興味が無い。

 今年の舞踏会がサファイア王子の社交界デビューだと知っても心は動かなかった。

 二人の義姉はあわよくば王子のハートをゲットすることにあるようだが・・・

 むしろシンは王子の社交界デビューを祝って行われる王子直衛の近衛四聖騎士のお披露目武闘会の方に興味があった。

 王子のご学友として共に士官学校で学び、実力で選ばれる近衛四聖騎士。

 中には下級騎士だったり平民出身の人間もいる。

 そういった人間にとって宮廷での箔付けに次期デレラ侯爵は美味しく見えるだろう。

 冗談じゃない。自分の旦那は少なくとも自分を打ち負かす腕前の人間であって欲しい。

 美醜は問題ではない。


「武闘会か・・・」


 シンの呟きにアリスの眦が上がったが、シンはそれに気づかなかった。

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