コメディ編

第8話 吸引力

「何で胸の谷間ってあんなに吸引力あるんだろうな」


 ………………。

 なんで沈黙するんだ。

 賛同してくれ。


「おお……急にどうした」

「女性の胸の話だよ」

「それは知ってる」

「女性の胸の谷間が見えていたとする。そうすると男の目は吸い寄せられるように谷間を見てしまうよな?」

「なるほどゲスな話か」


 俺と桐生は部室でゲスな話を始めた。

 海野先輩と美咲ちゃんがいないからこそできるアホ話だ。


「ただ胸が見えてるんじゃダメなんだよ。いわゆる胸チラだから見てしまうんだよ」

「何故?」

「例えばだ、ここに上半身裸の女性がいるとする」

「どんな状況だそれは」

「お前はその人の胸をガッツリ見るか!?」

「……まぁガッツリとは見ないな。なるべく見ないようにする」

「そう! 性欲お化けでもない限りまじまじと見ようととはしないよな!」

「人によるんじゃないか……?」

「今度は胸の谷間を強調したTシャツを着た女性が前後屈をしているとする」

「それもどんな状況だ」

「そうするとあら不思議。上半身裸の時はなるべく見ないようにしていたのが、胸チラの時はなるべく見ようとしてしまう。これぞ、吸引力の変わらないただ一つの胸チラ!」

「アホすぎる」


 俺の完璧な持論を一蹴するとは、分かってないな桐生。

 そんなんだからお前はいつまでたってもヤレヤレ系主人公からハーレム系主人公になれないんだよ。

 もっと貪欲さを持て!


「いわゆるチラリズムの精神だ。男なら分かるだろ」

「やれやれ…………キヨ。お前は見落としてる」


 あ! こいつリアルにやれやれ言いやがった!


「吸引力があるのは何も胸の谷間に限った話じゃない」

「は?」

「俺は生足を押す」


 なん……だと……!


「胸チラにも確かに吸引力があるのは認めよう。だけどな、綺麗な足ほど人の目を奪うものはない。あれこそダイソンだ」

「ダイソン言うな」

「透き通った肌というのは女性の一種のステータスだ。やはり、俺は生足こそが最も吸引力があると思う」


 こいつ………………まさかの生足信者だと!?

 なんか俺より桐生のほうが変態っぽいわ!

 生足て!


「胸だって女性にとってのステータスだろ!」

「それなら貧乳の人はお呼びじゃないと?」

「はっ!」

「その時点でお前は女性を差別して見ている。胸は生まれつきだが、足は努力すれば何とかなる。俺は差別しない」

「ぐあああああああ!!」


 こいつ…………実は俺よりも考えていただと……!


 …………いや、ぐああああああじゃねえわ。

 何の話になってんだコレは。


「俺の勝ちだなキヨ」

「ああ、変態王の名は桐生にやるよ」

「いらん」

「やっほー2人とも! 何の話してたの?」


 ギリギリなタイミングで美咲ちゃんが入ってきた。

 その後ろに海野先輩もいたから一緒に来たんだろう。

 全く、危なくゲスな会話を2人に聞かれるところだったぜ。


「おっす天条さん。海野先輩。大した話じゃないよ、雑談」

「私も入れて入れて〜」

「いや! もう終わった話だからさ、なぁ桐生」

「そうだな」

「え〜何で〜」

「あら、なおさら何の話だったのか気になるわね」


 話せるか!

 第三者目線から見たら俺らそうとうアホな会話してたからな!


「それはそうと……今日は少し暑いわね」


 カバンを机の上に置き、椅子に腰掛けた海野先輩はおもむろに、突然に、突拍子もなく上履きを脱いで自分のハイソックスも脱ぎ始めた。


「何してんすか海野先輩!?」

「何って、暑いからソックスを脱いでいるんだよ?」

「で、ですよね〜! 私も暑いと思ってました! はぁ暑いな〜!」


 海野先輩に続くように美咲ちゃんもハイソックスを脱ぎ始めた。


 おかしすぎるだろ。

 暑いも何も、今10月だぞ。

 暖房だってついてないし、そもそも暑いなら靴下より先にカーディガン脱ぎなさいよ。

 これは完全にアレだな。

 聞いてたな。

 俺達の会話。

 ドアの向こう側で桐生が生足に魅力を感じると話してたの聞いてたな。


「ふぅ……やっぱりソックスが無い方が涼しいね」

「で……ですよね! 家とかと同じようにリラックスできるし!」


 何これ超面白いんだけど。

 美咲ちゃんは何を言ってるのかよく分からなくなってるな。

 この2人の生足とか、数ヶ月前の俺だったら興奮待った無しだけど、余裕のある今の俺からしたらこの状況スゲー楽しいわ。

 さぁ、どうするつもりだ桐生!?


「窓開けた方が涼しいのでは?」


 そうじゃねえええええええ!!

 何を冷静に暑さ対策取ろうとしてんだよ!

 2人を見ろ!

 あまりのピエロっぷりに耳真っ赤にしてんじゃねーか!

 鈍感系主人公は流行んねーよバカ!


「そもそも今日はそんなに暑くないと思うが」


 追い討ちやめろ!!

 オーバーキルするな!!

 死体蹴りやめてやれ!!


 ダメだ。

 2人とも震えてる。

 あ、ハイソックス履き始めた。


「………………」

「………………」


 2人ともHPゼロだなぁ。

 まだ部活始まったばかりだというのに、どうすんだよこれ。


「はぁ………………。葵先輩、美咲」

「「?」」

「男の前で簡単に素足を出すもんじゃない。2人がそういうことをすると…………とても魅力的に見える」

「っ!!」

「〜〜〜〜〜〜!!」


 こ……こいつ鈍感系主人公じゃねぇ!!

 なんというスケコマシ!

 俺のいない2ヶ月の間に随分と成長したみたいだなこの野郎!


「なぁキヨ、男なら誰でも魅力的に見えるよな」


 ん?

 どういう意味で聞いてるんだこれは。

 もしかして2人だから魅力的に見えるってわけじゃなくて、女子なら誰でも魅力的に見えるって意味か?

 なんかそんな気がするわ。


「おう、そうだな」


 とりあえず2人は褒められて喜んでるし、水をささないでおこう。


 今後の展開に期待。

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