第2話 新入部員

 海野先輩から触りの部分しか聞いていないんだけど、桐生と知り合ったのも困った所を助けてくれたからだとさ。

 何とまぁありきたりなことだろうかね。

 でもそういうのを呼び寄せてしまう所が桐生らしいというかなんというか。


 助けてもらったついでで天文部の話をすると、桐生が渋々みたいな感じで手伝ってくれることになったんだと。


 バカか桐生。

 海野先輩から誘われて渋々とかやってるんじゃないぜ。

 海野先輩に頼られたいと思ってる男子がこの学校に何人いると思ってんだ。

 そのダルそうな感じも少しは自重しろ。


 とはいえ、だ。

 その桐生のお陰で俺も海野先輩とお近づきになることができたんだ。

 ごちゃごちゃ言ったけど、まとめてこう言おう。


 ファインプレーだ!!!



 既に顧問の先生も見つけていたみたいで、3人だけでも次の日から活動OKになった。

 だけど、活動といっても特別何かするわけじゃなかった。

 引き受けた部室に放課後集まって、海野先輩は持ってきてた望遠鏡を手入れしたり勉強したり、桐生は読書、俺は携帯をいじってダラダラ過ごしてるだけだった。

 もちろん雑談ぐらいは話すけど、桐生は自分からあまり話さないし、海野先輩も気を遣って俺に話してくれるみたいな感じだし、リラックスしてる感じはなかった。


 それでも3人共、毎日必ず放課後は部室に来てたし居心地が悪いわけじゃなかったんだと思う。

 俺なんて海野先輩と毎日一緒にいれるだけで幸福度数振り切れてたしね。

 同じクラスの奴に海野先輩と同じ部活に入ってるって言った時の優越感たるや。

 羨ましそうにしてる顔がたまらんかった。


 桐生は相変わらず女子にモテてた。

 何もしてないのにクラスの女子の連絡先ゲットしてたと思うぞたぶん。


 置いとくだけで寄ってくる。

 何ホイホイだよ。


 だけどやっぱり高校でも嫉妬する奴というか、面白くないと思う輩は少なからずいるんだよな。

 別に桐生が何かしたわけでもないのに、放課後、クラスでコソコソ愚痴ってて。

 別に誰だって一つや二つ愚痴るのは分かるけどよ、あろうことかそいつらは俺に賛同を求めてきたんだよ。


 だから思わずムカついて罵詈雑言浴びせてやったら喧嘩になった。


 3対1だぜ?

 ずるくね?

 勝てるわけなくね?

 しかもあいつら狡賢ずるがしこいことに、服の上からじゃ目立たない腹とか重点的に攻撃してきたんだぜ?

 やることが陰湿なのか開放的なのかどっちだよ。


 ボロボロで校舎裏の植え込みに放り投げ込まれて、へばってて。

 俺に主人公気質があれば3対1でも勝てたんだろーけど、流石にそんなに上手くはいかないわ。


 ついでにその日は初めて部活を休んだ。

 こんなボロボロでダサい格好で2人の前に顔なんか出したくなかったからしょうがない。

 今度あの3人には闇討ちで1人づつお礼参りしてやる。

 震えて眠れバーカバーカ。


 次の日学校に行ったら桐生に心配された。

 もしかして昨日のダサい出来事がバラされたか!? って思ったけど、「何で部活来なかったんだよ」だって。

 そういえば連絡の一つでもすりゃ良かったわ。


 放課後部室に行ったら海野先輩にも心配された。


「昨日は何か用事でもあったのかい?」って。


 冗談半分で「海野先輩の連絡先知らなかったから連絡できなかったんですよ〜」って言ったら「じゃあせっかくだから交換しようか」って話になった。


 ラッキーすぎる。


 桐生に連絡したりとか、いくらでも手段はあったのに棚ぼただぜ。

 ついでに桐生と海野先輩も交換してた。



 そんなこんなで6月。

 特に大きなイベントもなく、海野先輩と特に進展もなく普段通りの1日を送っていた俺だけど、なんと『天文部』に新入部員が入ることになった。

 桐生が連れてきた部員だ。


 誰だと思う?

 なぁ誰だと思う?


 そうだよ。

 だいたい察しの通りだよ。

 海野先輩とついをなす我が校のアイドル。


 天条美咲ちゃんだ。


 もう瞳孔開いて四度見ぐらいした。

 何度も目で追ったことはあるけど、話したことはない。


「1年3組天条美咲です! 桐生君に誘われてこの部活に入ることになりました! よろしくお願いします!」


 うーん可愛い。

 海野先輩の大人のお姉さん感も良いけど、同級生のアイドル感もたまらんな。


 これでこの部活の敷居が馬鹿高くなった気がする。

 こっから入部希望者続出すんじゃねーの?

 できれば入れて欲しくはないけど、それは部長の海野先輩次第だからなぁ。

 でも現時点でも俺はすごい浮かれてた。

 そりゃ浮かれるぜ。


 あの2人と同じ部活にいるなんて、入学前の俺は思いもしないだろうな。

 俺の高校生活はバラ色待った無しだな!




 でも俺はその時、どうしようもなく周りが見えていなかった。

 客観的に見ればすぐに気付くのに、その時の俺は奇跡の展開に心浮かれて分からなかったんだ。

 …………いや、もしかすれば気付かなかったふりを無意識にしていただけなのかもしれない。

 もし、ここで気付けていたのなら、俺の未来はもう少し良いものに変わったのだろうか。

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