真っ赤なキールに口づけて

カゲトモ

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「期待してもいいと思います?」

 一緒に来ていた男性が手洗いに立った隙にシミズさんはそう訊いて来た。

「ふふ、彼氏の事ですか?」

「あっ、や、その、彼氏、とかじゃ、まだないんですけど」

 まだ? あんなに近い距離で楽しそうに飲んでいたのに?

「えっと、その、まぁデートって感じではあるんですけど」

 たまに顔を出してくれるシミズさんは笑うとえくぼが印象的な可愛らしい女性だ。いつもは女性友達と来るのに、今日は男性と二人で来たからデートだと思ったのに。

「まだ付き合ってなくて」

「なるほど」

 だから期待してもいいか、なのか。いつもよりフワフワした髪に、気合の入ったメイク、アクセサリーも華やかだし、ファッションも女性らしくて素敵だ。今日は勝負日ってことか?

「どう思います?」

 どうって訊かれても、こっちとしては二人を見ていててっきり付き合っていると思ったくらいだからなぁ。別に男性がシミズさんを嫌っている要素なんて見当たらなかったけど。

「勇気出して誘ってみたんですけど、上手く行くと思いますか?」

「シミズさんから誘われたのですか?」

「えぇ、実は、はい。こういうのは苦手なんですけど、頑張ってみました。その、どうしても彼が良いって思ったから」

 ほうほう、それはすごい。付き合ってもいない想い人を誘うなんて、結構な気持ちが必要だから。

「マスターから見てどうですか?」

「とてもよくお似合だと思いましたよ」

「へっ本当ですかっ」

 そんな一言で舞い上がってしまうくらい、シミズさんは彼の事が好きなのだろう。可愛いねぇ。

「嬉しいなぁ」

 両手を合わせて頬を染める姿は乙女そのものだ。

「ふふ、今夜、頑張ってみます」

「応援していますよ」

 にっこりとして言うと、奥の扉から彼が出て来た。シミズさんの姿勢が自然と伸びて、表情が豊かになる。これは想いがあるって分からない方が不思議だ。

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