第12話 ごめんね《さようなら》

「ごめんね。ごめんね。私の男の子――私のアダム。何もしてあげられなくて、本当にごめんね。私のところに来てくれたのに、絶対に大切にするって約束したのに、こんなことになって、本当にごめんね」

 

 アリスの泣き声が聞こえる。

 僕を強くしっかりと抱きしめて、僕を絶対に離さないとせいいっぱいの力を込めているのに、それはとても弱々しくて、とても切なかった。

 

 僕たちは今、離れ離れになろうとしていた。

 どうしようもない世界の引力によって僕たちは引き離され、引き裂かれ、別々の場所に連れていかれようとしていた。

 そして、永遠の別れを迎えようとしていた。


「こんなの、絶対に間違ってる。あなたたち擬似男性ファルスをモノのように、奴隷のように扱うなんて――いらなくなったら廃棄処分にしてしまうなんて、絶対に間違ってるわ。こんな街、絶対に間違っているのよ。私は、こんな世界認めない。絶対に認めないわ」

 

 アリスの強い決意のこもった声が聞こえる。

 憤怒や憎悪すら孕んでいそうな、断固たる決意のこもった声が。まるで燃え盛る炎のような声が、僕の胸の奥を焼いた。そしてその炎は、アリス自身をも焼き尽くすんじゃないか、そんなことを思った。

 

 僕は、その声を聞いてとても苦しくなった。

 

 僕のオーナーが――

 僕の女の子が怒っている。

 悲しんでいる。

 泣いている。

 絶望している。

 途方に暮れている。

 憎しみを抱いている。

 

 僕のために。

 

 僕は、アリスにそんなことを思って欲しくないと思った。

 だって、僕はこんなにもアリスに思われて、こんなにも幸せなのだから。

 それだけで、僕はとても満たされていたのだから。

 

 アリスは僕の頬に自分の頬をこすり付けて、そして僕の頬にそっとキスをしてくれた。

 

 だから――



「さようなら。私の男の子」

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