コンビニ店長、(ゲームで)国王始めました。

猫の手

序章「ゲーム(リアル)」

 

 ”見てみろ、ここにいる間は皆が常にゲームのはずだ。なのにどうだろう、誰一人としてこれを遊びだとは思っていない”(ぐるぅ@テスト期間)




 序章「ゲーム(リアル)」



 地球上から戦争というものが潰えた時代、それは地球にとってもある意味で特殊な時代。

 そこでは老若男女が本気でゲーム闘争を楽しむ真に特殊な時代が幕を開けていた。

 ゲーム勝負の勝ち負けで地位が決まり、ゲーム賭博に勝つことで金を手に入れ、ゲーム信頼を勝ち取り、ゲーム国を手中に収める。

 全てはゲーム現実を充実させるために。


 そして、このゲーム世界を揺るがすゲーム戦争が、新たに始まろうとしていた。


 新暦15年

 山森御飯さん:『歩兵500万、騎兵50万、最新鋭の重装歩兵3万の準備おk』


 その言葉レス通りに城下には準備を終え隊列を組み互いに睨みあう人の石垣が築かれていた。


 御御御付けさん:『新兵器のスーパーミリオンアローは丸出餅三田井山まるでもちみたいやま(直球)に配置したゾ~』

 あんみつCさん:『ウチのギルマスと一般市民の避難誘導はもうちょいかかりそーかなー』

 食事の王将さん:『敵の数200万…王都まで攻め込まれるには時間はまだあろう...しかしCちゃんは痛いぞ...』

 あんみつCさん:『これでうちらもゲームオーバーっぽいかな~…? あんたこそ将でもないのにその名前はやめれば? 所詮は側近もどきなんだから』

 もやし好きさん:『……』(剣を掲げるモーション)

 山森御飯さん:『よし開戦だ! 我らが王ギルドマスターの城を守れ! 突撃ィィィィイ!』


 ォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!


 銀の鎧に身を包んだ戦士の群れは同じようにして睨みあっている敵にけたたましい咆哮を上げながらに突っ込んでいく。



 ぐるぅ@テスト期間

『見てみろ、ここにいる間は皆が常にゲームのはずだ。なのにどうだろう、誰一人としてこれを遊びだとは思っていない』を送信しました。


 あんみつCさん:『だれこいつ?(# ゜Д゜)』

 食事の王将さん:『本部にまでもう攻め込まれたか!? C付け30歳さんもはや化石の顔文字乙ッ!』

 もやし好きさん:『……』(f○○kのモーション)


 もやし好きさんがあなたを作戦本部からキックしました。

 あんみつCさんが食事の王将さんを作戦本部からキックしました。



「あ…」











 ※主人公はぐるぅ@テスト期間ではありません。









 新暦:0年3カ月


 現実都市さいたま某コンビニ



「いらっしゃいませー」

 店長と名前が書かれた札を胸に下げた男の仕事は今日も変わらない。

 朝に夜間シフトのバイトと入れ替わりに出勤、記録を付け、ゴミ出し、1回目の清掃を終えて品出しをする。

 昼時には忙しい時間をパートと回し遅れて昼食をとる。

 夕方までは休憩をはさみながら、学校から直接出勤した若いバイト目当ての老人が様々な喜怒哀楽をぶつけてくる、理不尽なじじい退散ゲームをこなしたあとは、9時過ぎ頃は一息ついてバイトと一緒に話す。

 これが唯一の癒しということだ。


「お疲れ。田島さん」

 (今日もミキちゃんカワイイなぁ…このコンビニが高校の目の前であったことに感謝しないといけないなぁ...)

「お疲れ様です店長」

 と言うと小柄なバイトの高校生、田島美希はおもむろにスマホを取り出し熱心に画面を凝視している。

「あれ、珍しいね。急ぎの連絡?あんまり田島さんって休憩でスマホいじらない印象だったんだよね」

「あ、すみません。ちょっとゲームの進捗だけ確認しておこうと思って...もう大丈夫なのでしまいますね」

(稀に見る実に良い子だなぁ…辞めないように今後ともトイレの清掃に身だしなみを徹底しろよ。オレ。)

「あっ、全然気にしなくていいんだよ。一応客がいなければ基本休憩時間みたいなもんだし。そもそも事務所ではオレだってケータイ使ってるからね! それと、もしよかったらどんなゲームか見せてよ! ほら、今時女子もハマるゲームなんて気になっちゃうっていうか……今度の合コンのネタになるかもだ!」

(なかなかのフォローから話題の良い切り出しだったんじゃないか? これは次回にも繋がる偉大な一歩だ。よしよし。)


 それを聞いたアルバイトの少女は「いいですよ」と桃色の兎をかたどった、キモカワなアクセサリーに指をかけてするりとスマホを引き上げ、その画面を男に見せた。

 何気ない日常の会話で、行動のはずがその男には鮮明に記憶を焼き付けた。

 男に理由はわからない。その時はよくある目眩の類だと感じることとしたが、これは間違いなく男にとって運命の瞬間だったのだ。


「ザ・キングオブコモナー……?なんか矛盾した名前だね」

「そうなんですよ。私は最初は意味はよくわかってなかったんですけどね、丁度ゲーム新しく始めたいなーと思ってたらすごい人気急上昇のゲームがあって。なんだろうみたいな感じで始めたんですけど、始めたらある意味やめられなくて……」

 そう語る少女の横顔は窓から注ぐ月明かりのせいもあってか輝いて眩く思った。

 しかし、それは戦いゲームに身を置いた一人の女の闘志が見せた曙光に他ならなかったのだ。


 飛び込んできた救援要請は一瞬の間だけ生まれた静寂を切り裂く、男がもう少しで少女とゲームに吸い込まれる前に

「レジ応援お願いします!」

 いつもの事務的な一言が空間を現実へと引き戻した。

 男は昔夢中になったあのゲームのエンディングはどんなだったか、そんなことに考えを巡らせながらその日の残る時間を業務に当てていた。


 意識を現実に戻したのはいつの間にかそのバイトの子が自転車にまたがり帰宅しようというところだった。

「すみませんクレカ使えますか?」

 三十歳にさしかかろうという風貌の青年は店長にそう聞いてきた。

「はい。大丈夫ですよー」

 と商品をレジに通そうという時、店長は目を疑うような光景が目の当たりにしていた。

「こちらギフトカードはゲーム内課金専用のものですが大丈夫でしょうか」

 そう言いながら店長は自分の声が上ずるのを感じた。30枚組の2万円ゲーム用ギフトカードが30束重ねられていたのだ。

 レジにその額1800万円と表示されるのを確認し、店長はやはりその男を疑いの眼差しで見つめてしまう。

 客の正気を疑ってしまっていた。

 客か、あるいは自分が詐欺にでもあっているのかと心配になった。

 だが、しかし、返事が「大丈夫です。クレカでお願いします」と返ってきた。

 騙されているというような雰囲気ではなく常日ごろの行いのように。

 昼食のおにぎりを少し奮発して生ものの入ったやつにしたり普段はコンビニでは買わないやや高価なデザートを購入するよりも当然のようにカードを通したのだ。

 店長にはもはや止めることはできない。

 この男の愚行を御することはできないのだと自分を納得させ、暗証番号を求めた。

 全ては一陣の風のごとくただ男は買い物を済ませたのだった。

「ギフトカードか、どうせならホットスナック買い占めてくれればいいのにね」

(1800万円分も準備できないけど……)

 男は脱力感を抱きそうぼやいた。


 店長は帰宅すると一目散にPCを起動した。

 日課としてネットサーフィンをしているが、今日ばかりは久しぶりにネットにスレッドを立て情報を集めたいと思ったのだ。

 スレッドを立てて夜食の準備をしていると通知音が響く。

「レスだ」と呟きながらテーブルの前に腰を下ろし、その応えに彼は驚きのあまり声が漏れそうになった。


 2:名無しさん 23:57 ID: ss47os382

 それは恐らくキンコモ(キングオブコモナー)に投資すんじゃないの? あれ通称(課)キンコモとか言われるくらい課金ゲーだしな。まーあれを課金とは思わんけど。


 このゲームって田島さんの言ってたやつじゃないか……!


 3:どうせ一生コンビニ男 23:59 ID: kos7878   

どこにゲームに1度に1800万も課金するやつがいるんだよ? 間違いなく詐欺られてるとしか思えん。


 4:名無しの家電売り 0:00 ID: mo33fu4 

 キンコモ店長さん知らないん?


 5:どうせ一生コンビニ男 0:00 ID: kos7878

 今日丁度バイトの子に教えてもらったよ。タイトル自己矛盾ゲーだろ。

 いくら面白くてもそんなのに1800万課金はさすがにくだらなすぎる。


 6:名無しの家電売り 0:01 ID: mo33fu4 

 詳しい説明はほかのに任せるんだけど、これニュースになってるくらいやばいやつだぞ。簡単に言うと運営が金をユーザーに配ってる感じ。


 何を言ってるんだ……手は夜の寒さに震え喉は渇いていたが気になりはしない。このゲームならざるゲームのことを検索するとさらに驚いた。



 ペイントゲームス:ザ・キングオブコモナー公式サイト

 https://paintgames/thekingofcomoer

 このゲームのルールは君が作る。君だけの王国を拡げろ!

 期間限定初心者限定イベント:1万円分のペイカードチャージと5万円分装備セットが4万円にダウン中!


 キンコモ攻略WIKI

 https://kinkomo-kouryaku.jp

 new! 30万円装備で100マソ超え級キルったwwwwwwwwwwww今日はジョジョ苑焼肉ごちですwwwwwww 0.7mprev

 初心者におすすめの微課金(4万)装備で防衛のすすめ 1.3mprev


 課金の額が一々おかしくないか……


 動揺抑えられぬ男にまたもレスの通知が来る。

 男はすぐさまに元のスレッドを開いた。



 7:名無しさん 0:03 ID: ss47os382

 まぁ一概には言えないけどキンコモ確定やろね。

 ゲームシステム簡単に言うとまぁプレイヤーは装備を課金で強くして、相手を倒すとその課金額を奪える感じ。

 課金コスト額の分プレイヤーは好きにその都度代えながら装備できるから多額の課金をしといた方が楽ってわけ。 


 8:どうせ一生コンビニ男 0:04 ID: kos7878

 正直まったくわからないんだが。

 とりあえず倒した相手の課金額分相手から奪えるってことであってるか?


 9:名無しさん 0:04 ID: s0s0ddx

 キンコモ知らない情弱おじさんチーッスそんなんだから一生コンビニなんでしょwww


 10:名無しさん 0:06 ID: ss47os382

 そそ。しかもこの金がそのまま現実でも使えちゃうから大ニュースってねぇ……

 まぁ俺もそこそこ課金してるけど、今のとこ300万くらい稼いだかな? 


 ここにきて男はさらに動揺した。

 現実でも使える。

 (そんなものはとっくにゲーム遊びではない。)

 男は自分がそんな器でないのはわかっているが、この世の行く末を案じずにはいられなかった。

 そうしていると大きな問題の存在に気づく。

「美希ちゃん!!」

 妄想の中で常に呼んでいる、いつしかそう呼ぶための練習の成果がこんなところで出てしまったという恥ずかしさを振り切るべく行動は速かった。

 ケータイを取り出してマ行を探し、一番上のミキちゃんにダイヤルする。

 頭の中はキンコモとミキちゃんへの心配と己のいくつかの汚点で埋め尽くされカオスになっているが、すぐさまもう一つの問題にも直面する。

 (なんて切り出せばいいんだ……ゲームごときで熱くなっているのは間違いなく自分だ。)

 (それでも心配するには十分すぎる事項だ。でもバイト先の店長から急に電話がかかってきてゲームの話とか……あっ……)

「もしもし!店長さんどうしました??」

 電話越しでもわかるくらいにバイトの田島美希は緊張している。

 緊急の連絡と思っているからだろう。この男にとって緊急ではあるのだが、

「こ、こんばんわ、あはは、緊急の仕事の話ではないからお、落ち着いていいよ!」

「そうですかー、よかったです。じゃぁどうしたんですか?」

「休憩中言ってたゲームの件なんだけどさ……」

 言っていいのかどうか戸惑いながらも口にすると言い終わるかそれよりも早くに

「店長さんも始めたんですか! 私も丁度誰かと一緒にギルド入りたいなとか思ってたんですけど、みんなもういろんなところ入っちゃってて……いっそのこと誰かと作りたいって思ってたんですよ! 嬉しいなぁ! あ、今オンラインですか? よかったらこれから遊びませんか?」

 と矢継ぎ早に歓びや勧誘の言葉を続けられてしまい、もはややめろ等と言える空気ではなくなり、それどころか

(ここまで楽しそうに話すミキちゃんは見たことない……)

 などと満足すら覚えてしまい、6畳半の部屋でニヤニヤとケータイを片手に呆然としている男の無様な姿がただあった。

 そして男は決断した。真に彼女のためになることは何かを考えればこれしかない。

「今インストールしてるんだけど、これから会えないかな?」

一緒にゲームを始めることを店長は選んだのだ。

「もちろんオッケーですよ!」

(あれあれ……なんだろう可愛いって、正義だな……)


 そんなこんなで深夜の0時半頃に毎月一度程度シフト終わりが合った日などに来る。

 コーヒーでブレイクを楽しみながら、湯にも浸かれる馴染みの風呂屋に集まり、備え付けのパソコンの前に彼女と二人座っていた。

「ここキンコモインストール済みなんで最近よく一人で籠ったりするのにも便利だったんですよね~ おふろもありますしね!」

「そうだったんだ~」

 自分の上の空な返事にもうここまで来たのだから心を決めろと言い聞かせる……

「だって一石二鳥じゃないか」

 (ゲームをする時間を共有し、現実で彼女との話題も出来上がる。それはまさに)

「そうなんですよ!一石二鳥です!」

 (あれ、声に出てたのか。ミキちゃんがさっきなんて言ってたかわからないがまぁよし。)

「それじゃーキャラメイクと拠点登録までさくっとやっちゃいましょう!」

 (天使かよ。ここ天国じゃねぇの……?)


「キンコモってこれかな?」

 そう言ってクリックすると壮大なBGMと同時に見たことのない形の惑星。

 そしてそこに浮かぶ大陸

(……1,2,3,4,5……5つか……)

 と数えた。

「それですね! そしたらIDと指紋パス登録して顔写真です!」

「え? そんなの入れちゃうの?」

 あまりにも厳重なロックに思わず疑問がでるが可愛いアルバイトはやさしく答えてくれる。

「課金とかする人用みたいな部分もあるんですけど、一人一アカウントを徹底してるとかってに聞きましたよ……?」

「……これは?」

「個人認証確定登録ですね。一回だけ登録店に行ったりとか、もしくは訪問登録とかでその他の必要な個人情報を登録しちゃうんですよ」

 恐らく自分は目の前の少女の円らな瞳以上に目を丸くしていただろうか。

 その一つ一つの要求に驚きを隠せなかったのだ。

 そして過去の見聞などから鑑みて現代の若い子供たちは早いうちにネット環境に晒されて情報モラルの構築を待たずして眼前に盛られた毒を知らず知らずに呷ってしまっているのだろう。

 なんということだろう……しかし男は嘆くのを止め、さらに固く決心をしたのだ。

「この際、全てを自分の身に受けよう。彼女の犯した業も世界に蔓延するこの毒も自分が呷り私の手で目の前の救える人間だけでも救済しよう」と。

「ど、どうしたんですか! 毒とかありましたっけ!?」

 しげしげと男のモニターを見つめている彼女の姿をみてひどく愚かな自分を後悔したのだ。

「偉人のセリフだよ。ちょっと盛り上がっちゃったから……ごめんね」

 むしろ胸を張り、付き通した。

 (毒を食らわば皿までというのはこういうことである。死にたい)

「店長さんさすがです……このゲームもしかしたら向いてるかもですよ!」

 例え、建前でも他人に尊敬されるのはえらく久しぶりなことであることとそれがちょっとした嘘という悪が転じたためで一刻も早くプレイして発散させたいと思った。


「そう言えば田島さんもそんな確定登録までしたってことだよね……?」

「私は今流行りのゲームによるスポーツ、プレイスポーツのカード持ってたんでそれで通しちゃいました。学校で作らされるんですよ」

「あー、そっかそれは楽ちんでいいねーうん楽ちんだーハハ」

 早くもおじさんには限界を迎えたと悟り、その辺の質問はしないことに決めた。

「じゃ、パパッと個人認証確定登録してきちゃうね。」

「でしたら、30分くらい時間かかると思うので、すみません。私、体流して着替えてきますね」

「……っうん。いってらっしゃい」

 最早語りつくせぬほど混濁した思考とその中で燦然と輝く明瞭な邪念が男を柔和に包んだ。

 そう歳はとってないものの数年で溜まりに溜まった男の猛々しさは早期的な解消を求めたが、

 荒くなった動機を落ち着かせるために2杯のコーヒーを乾かすことに集中していたら少し平静を取り戻した。

 右大腿部にいくつもの掻爬痕を残して……


 (ここまでゲームが個人認証を追及してくるなんて……そしてこれが普通になりつつあるとは驚きだ……昔のフラッシュゲームなんかはオンラインで戦ったりできたけど登録と言えば自分の使うキャラの色を決めるくらいだったか……?)

 と考えだして馬鹿馬鹿しくなる。

 恐らく目の前にあるこのゲームは何かが異質であるのだということは確認の余地もないほど明確だったからだ。


 個人確定登録と呼ばれるいくつもの応答を終えて、気付けば時計の針は先ほどから約半刻を経過したと告げていた。

 1時間も経っていたのかと焦りながらパソコンのブースに戻るとそこには無防備ともとれるあられもない姿でウトウトと船をこぐ年下の少女の姿があった。

「ごめんね、待たせちゃって」

 一瞬の間、いくつかの思考を逡巡した後、恐らく社会的に正当と言える選択を選んだ。

「今日は色々教えてもらって楽しかったし、今日は送るからお家で寝ようか。それも大変ならここの個室とってあげるよ」

「全然元気ですょぉっ!」

 男はまるでほろ酔いのような一声に笑いそうになるが、当の本人は何かを思い出したように、ログインしているプレイ中の画面に向き直っていくつかの表示を注視する。

 そして数秒の後

「よかった……」

 と胸をなでおろしたのだ。

 それを男は不思議そうに見ていたのだろうか。

 彼女はおもむろに説明をしてくれた。

「このゲーム……キャラを倒されちゃうと来月まで入れなくて……しかもたいていの場合そこに野ざらしな所持品とか盗まれちゃうんですよ……私はまだないんですけど、それされちゃうと一緒にプレイもできないし、おいてかれちゃうから結構痛くって」

「こ、コストってやつはどうなるんだ?」

 そう聞くとほっとした表情を浮かべて少女はメニュー表示から自分でまとめたのだろうか、いくつかの項目の写しを集約したメモのページを開いてキャラの死亡と書かれた項目を読み上げる。

 実に物々しいタイトルだと心中で少しだけ失笑を禁じ得なかった。

「あ、それ知ってるんですね。知らなかったらどうしようって少し心配だったんです。えっとですね、資金コストは自分がチャージした金額で運営から売買して利用できるんですけど、倒されたとき身に着けていた物品の資金コストは新規所有者に実質的に略奪されることがありますが身に着けていなかったり未使用分の資金は予め決めておいた金庫等に大きさと重さのある状態で貯蔵されます。詳しくは3項の資金の運用法と貯蔵をご参照ください。って書いてありますね。だから死んでしまうと下着姿で道に転がってたりするのを見かけますね」

 と堅苦しい説明とその内容に相反する笑顔で微笑む少女に男は胸が痛むのを感じた。

 彼女が眠そうにしているのも頷けるのだ。

 例えゲームでも始めたては皆熱くなる。

 このような内容のゲームならなおさら安心して眠る暇はないだろう。

 熱中していればこのゲームで死ぬことは許されない。

 勝ち残り、周りがプレイできない間もめきめきと腕を磨いていればそれだけでもアドバンテージだろうし、何より強プレイヤーと注目されるということは自尊心をくすぐる。

 自分でも沸き起こる熱い何かを抑えられない……先ほどまでの全貌の見えない異形なゲームへの恐怖心を凌ぐ好奇心は、平凡すぎる毎日を送ってきた男に少しづつこれまでとは違うエッセンスを一滴、また一滴と垂らしている。


 そこからまた半時ほど経った時、そこには男の写し鏡とも言える似姿に、そしてこれまたよく自身の着用するコンビニスタッフの証であるストライプのシャツの男が腕を広げて立っていた。


 そして間もなくしてモニターの右下にラッピングされた箱の表示が吹き出しで表示されているのを男は躊躇なくクリックした。


 ミキミキさんからあなたにプレゼントが届いています。


  F5キーで受け取ります  F7キーで拒否します



 男はすぐ隣で楽しそうに自分の横顔を見ている少女に気付かないふりをして、F5キーを少しだけ震える指でしかし期待に応えるべく確かに押し込んだ。


 ミキミキさんから???がプレゼントされました。(表示は送り主によりシークレットになっています。F3キーで着用することで確認できます)


(いたずらっ子め……)

 心とは裏腹に大人ぶった態度を少しだけ表情に浮かべる、しかし少しおどけてもみせた。

 なぜなら内心はこの場の誰よりも子供で、仕事で上下の関係だった少女から旧来の友人のように贈られたサプライズに心の底から歓びが吹き出しそうになっていたのだ。


 男が先ほどよりしっかりとキーを押し込むとその瞬間モニターの向こうの自分はその姿に釣り合わぬチープなクラウンを冠っていた。


  ミキミキさん:『とてもお似合いですよ!』

  店長さん:『そうかなぁ……wでもありがとう! 嬉しいよ』


 ゲームの中に沈み始めた二人の時間はだんだんとゲーム現実と現実ゲームのその境界を蕩かしていく。

 それはゲームの本質なのかこのゲームの特異なのか。

 しかしその両方であり、その経糸と緯糸が紡ぐありとあらゆる恐怖と歓喜の物語ゲームを彼は人生ゲームで演じるロールプレイすることとなる。

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