第159話「のっぺらぼうはかく語りき」
ザジが困惑する。
彼は一体何者なのか、敵か味方か。
敵ならば今ここで倒すべきか。
味方ならどう引き入れるべきか......
選択をしなければならないのか、待って相手の行動を観察すべきか......
だがザジはここで"仲間を呼ぶべき"と判断する。
何故なら敵であった場合、自分が倒されたら状況を味方に伝えられないのである。
誰かが居ればきっと誰かに伝わる、情報を抱えたまま何かがあっては遅い。
「いいえ、そんなお気遣いなく、安全が確認されたのは素晴らしいことですわ、ホホホ(震え声)」
「貴方の事を私の仲間に紹介し......(ハッ!! )」
だが......ここでザジの"最大の過ち"が露見してしまい、言葉が詰まる!
それは相手が自身の霊体が見えない事を良いことに、ガールプラモデルのボディの上部(うわべ)だけで"自分自身を女の子と偽(いつわ)ってしまった行為"そのものだったのだ!
ザジの脳裏に想像され浮かぶアンキャナーの表情......
以下にも涙を浮かべて「だましたなああああ! 」と叫ぶビジョン。
亡霊同士のガチ恋勢は実は珍しくないこの地下帝国。
ましてや性別を偽っているのである、推しのVがボイチェンおじさんだったらどうだろうか?
ファン発狂モノだ......
そして男の娘でも一向に構わん! なんて相手だったら......
逆にザジ君にはとんでもないトラウマが待ってるのであろう。
そして何より、呼び出した仲間がどんなリアクションをするのかが想像出来ない。
だが、しばらくはこのネタでいじられるのが明確である!
(あわわ......あわわわわ)
これはもう慌てる時間だ。
もしかして物語最大のザジ君のピンチがやって来たかもしれない。
「どうしましたか? 」
ここでアンキャナーの方から話を切り出してきた。
「いいやザジ子さん、私はもう十分この街を拝見させて貰った」
「ここでお別れとしよう、時間を取らせてしまって申し訳がない、貴女も仲間の元へと帰ると良い」
このアンキャナーの別れの切り出しにはザジは感動の涙がちょちょ切れた気分になった。
余りにも紳士である。
「はい、色々教えていただきありがとうございました」
「もしまだ街にいらっしゃるのでしたら、私達のライブに来てくださいね! 」
良い感じに別れを切り出して貰ったザジは、状況からの解放の喜びの余りに本当に女の子みたいな嬉しい声で別れを告げる。
手を振るアンキャナー、この日ばかりは憎きシラの顔であってもザジには天使に見えただろう。
「ええ、機会があれば拝見させて頂きます......ごきげんようザジ子さん」
アンキャナーはザジ(子)を笑顔で見送ると、走り去るザジが居なくなるのを確認する。
「......」
そしてしばらくして、誰もいないはずの虚空に何かを見て言い放つ。
「......やはり」
「そこにいるな......出てきなさい」
(......)
そこに転がる様に現れたのは球体の小型探査装置、その大きさはザジ達のボディより小さくビー玉の様で、暗闇に紛れていた。
「この時代に似つかわしくないな、そのような霊糸回路の道具は......」
アンキャナーは睨みを効かせると、破壊すべく剣らしき武器を取り出す。
(何者ですか......貴方は)
探査装置から微かな霊体の声が聞こえる、それを聞いたアンキャナーの手が止まった。
「名乗りはそちらからするべきだぞ......未来霊」
アンキャナーは球体の探査装置に威嚇する様な口調で問う。
探査装置の声は、はっきりと会話するための霊声の強さを出してきた。
「もう見破られているのですね......私は"クハンダー"......」
「貴方も指標された時間軸に集まった未来霊なのですか? 」
声の主は未来より来る霊体"クハンダー"。
聖徳太子の未来記における悪鬼、鳩槃荼(くばんだ)を思わせる名前を持つ。
クハンダーの問いにアンキャナーは答える。
「指標された......か、つまり君は特異点とも言えるこの時間軸に片道切符でやって来た未来霊か......難儀な事だ」
「そこまでして時(とき)を下(くだ)って、何がしたい? 」
ビー玉の様な探査装置は集まり出すと、数珠の様な球体の集合体で「人」の形を見せた。
さながら棒人間にも見える。
クハンダーはその探査装置から声を出して語る。
「我々は未来に発足される統一国家、それらに仕える霊体を持ち合わせた完全兵器です」
「しかし何故か我々は同じ霊力を操り、高度な霊糸回路を持ちながら統一国家に半旗を翻す"霊力を扱う人間"に......」
「勝てませんでした」
アンキャナーはクハンダーの言葉に笑いをつけて言う。
「勝てないから、この国で存在する亡霊のデータを回収しに来たと? ......くははは、滑稽だ」
「まるで知っているかのようですね......貴方はまさか......」
クハンダーはアンキャナーの存在にある憶測を語る。
「もしかして、我々よりもずっと未来から......」
クハンダーの声にニヤリと笑う顔表現を見せるアンキャナー。
さっきまでの紳士と違って、悪魔の様な威圧感を出していた。
「君達は未来の敗北を帳消しにするため、ここでデータを集めて何処か手の届かないところでタイムカプセルの如く眠るのだろう? 」
アンキャナーはそう言うと......シラの顔でとてもムカつく煽り顔を表現し、更に言い放った。
「君達は彼らを"オモチャに取り憑いた亡霊"程度にしか見えてないんだろう、事実そうなんだろうが実際君達よりも優れている」
「何より人間の味方で、人間であった記憶が強さになっている、これが......"良い"んだよ! 君達にはわからないんだろうねえ......」
アンキャナーは言ってやったと言わんばかりの愉悦感で満足したかこの場を去ろうとする。
「アンキャナー、貴方は何しにこの時間軸に? 」
アンキャナーは振り返りもしないが、クハンダーに聞き取れる様に言った。
「......私は人間を取り戻す為に、ここに来たんだ......」
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