第126話「憑依バトルは永遠に不滅です」
「奴が見えなくなるまで離れていく......」
鳥の巨大霊体がミサイルに追われ飛び去るのをパルドが確認、レストルーム内部は再び安堵のため息が溢れる。
ボンボンと響く遠くでの爆発音......
ミサイルが直撃したのか、振り切ったのかまでは確認出来ないが、鳥の巨大霊体が小さなレストルームを補足するのは困難な距離に達したと見て良い。
「こんなに離れればこちらにの補足も困難だろうよ、亡霊の俺達でも、感じ取れたとしても追跡には骨の折れる距離だ」
パルドが親指を立てて逃げ切った事を皆に伝えた。
「逃げ切ったの?! やったあああああ! 助かった! 」
ユナがクマから飛び出た霊体で、二依子に抱き付いたまま喜びの声を上げた。
「何を言う、ここから帰るまでが遠足だろ? 」
フォッカーはそうは言うが、内心笑みは隠せない。
パルドの安全報告が続く。
「GPS復帰確認、ミサイルの電波障害が無くなった、現在位置が判明! 」
「 帰れるぞ! 」
レストルーム内が歓喜で包まれた。
もし人が空を飛ぶならどうやって位置を割り出すだろうか?
コンパスは必須だ、地図も必要だろう、昔の人も昼間は太陽の石(サンストーン)や星の位置の観測等を用いて割り出していた。
ザジ達亡霊もある程度霊力を感知出来るが、空の上では限られる。
ザジ達亡霊にも空の上はGPSが必須なのである。
「会場からは大分離れてるな......全員霊力を振り絞れ! 海に落ちたら元も子もないぞ! 」
眼下は海、ギリギリの霊力で落下傘の遊覧飛行を続け、ザジ達は気合いで帰路を目指す。
それから奮闘する事、二十分。
遂に、二依子が住んでいた街の上空にたどり着く。
「見て、会場のビルが見えてきた......あと少しだけど、私の霊力がもう無理ー! 」
「頑張れ! もうユナしか動けないんだ! 」
ヌイグルミのクマ内部の"札"から霊力が振り絞られる。
皆が必死で霊力を吹かしていたが続かず、最期まで霊力が残ったユナを励ますザジ。
「外の様子を確認するよ」
レストルームの屋根で、ザジがガールプラモデルボディで外に出ての様子を伺う事になった。。
「あんまりレストルームのドアは長く開けるなよ、霊力が漏れるんだから、もうボディの無い俺には......隅っこで震えるしかないぜ! 」
フォッカーが正座しながらガタガタ震え、事故物件の地縛霊みたいな顔をしている。
「今まで霊力で起こしてた電力、もうヤバい残ってない......俺のオリジナルボディは電子基板だから電力が無いと......意識が......ピピーッ! ガガガガ......」
パルドが電力不足で、壊れたラジオのような不安定な状態に。
「みんなメチャクチャになってる......はっ! 二依子ちゃんは大丈夫? 」
周りがこれだけギリギリなのだ、ユナは肉体がもう目の前まで来ている筈の二依子が、焦って飛び出さないか不安になったが......
「なんて事なの! ザジ君は女の子のプラモデルに入ったら、何気に内股を意識して足運びをしている......新規パーツはフリルのスカートで決定ね、ここで黒タイツの選択肢を考慮しなければならないとは......悩ましい! 」
(なんか偉いことになってるー!)
燦々と輝く新世界(ハロー・ニューワールド)の扉を開く二依子に、ユナは困惑した。
レストルームの内部は亡霊という名の遭難者と、トリップ中の二依子が混沌を極めていた。
そして......会場のビルが見える、日中空に居たザジ達には時間の感覚が無くなっていたが。
舟の霊体の高高度上昇に二時間半位、落下は三十分も掛かっていない。
成層圏からの落下は三分程で地表に着く、途中から落下傘を開いても長く時間は掛からなかった。
そして......会場上空に到達。
「やっと会場到着だー! ......あれ? 」
無事到着し、ゆっくり会場に降りていく。
天井でガールプラモデルのザジが周囲を見渡す。
「周辺は騒がしいのに、会場は人影が無い......誰か居ないのか?」
会場の外は警察や政府特務機関の陰陽庁が沢山居て、一般人の退去は終わっていたが......
「 ! 」
誰も居ない筈の会場で、ザジ達の帰還を待つ者達が何処からか隠れていたのか、ぞろぞろと人影を見せ始めた!
皆があの戦いで参加した憑依玩具戦線の一団だ!
「お帰り! 皆が君達の帰還を待ちわびていたよ」
周囲のプレイヤー達を代表して、運営のダニエルが再び姿を現した。
「みんな......」
ザジの喜びの声。
会場の真ん中に、落下傘を付けたレストルームコアが着陸する。
「ちょっと小僧の姿がおかしいが......やっと帰って来たな亡霊共! 話に聞いておる、娘の肉体の方はこっちじゃぞ! 」
レストルームから出てきたザジ達を真っ先に出迎えてくれたのは、仁王立ちの陰陽師の頭目だ。
後ろから黒服が、担架に運ばれていた二依子の肉体を持ってくる。
「やっと二依子ちゃんを戻せる! 」
レストルームから出てきたユナは、感慨深い想いで二依子の肉体を見ている。
まだ肉体は眠っていたままで時間も短い為、生命維持の処理が必要迄には至らなかった。
「憑依アプリを止めるぞ、彦名札の準備は良いかのう? 」
「はい......」
肉体に皆が入ったレストルームコアを近づける。
頭目が印を結ぶと、レストルームから霊体が飛び出し、彦名札から二依子の霊体が離れ、霊力が霧散する事なく肉体に定着。
そして彦名札は二依子の手に握らされる。
ゆっくり二依子が目を覚ます。
「......私、体に戻れた......」
「「 センパイ!! 」」
ポゼ部の二人、菊名と愛華が抱きついてくる。
二人はずっと側に付き添って、戻ってくるのを待っていたのだ。
頭目が彦名札を指差して言う。
「しばらくは肌見離さず持って置くと良いじゃろう」
「それでお主の霊体の修復が進めば、すぐにでもアプリが使える位に戻れるぞ! 」
「本当ですか! ありがとうございます! 」
二依子はその言葉に驚き喜びの声を上げた。
彼女は霊体と肉体の軛を欠損していたが、彦名札が定着と同時に修繕も兼ねてくれるようだ。
大会運営のダニエルがやってくる。
二依子やポゼ部に歩みより、大きく声を大にして語る。
「このエキシビションマッチ、優勝は君達ポゼ部で総意無いな! 」
ダニエルの突然の発表に、ポゼ部全員が驚愕した。
「えええええ! 私達が優勝!? 」
ザジや二依子、菊名や愛華がダニエルに駆け寄る。
ダニエルとポゼ部はその優勝の経緯について話す。
「良いんですか? 本当に? 」
「当然だ、君達以外のチームはもう戦えないだろ、それにその優勝の景品の彦名札は、君達が必要としているモノだ、利害が一致する」
「プレイヤー達には改めてお詫びの配布を行う、だから......」
「改めてここで宣言しよう! 優勝は君達ポゼ部だ! 」
集まった沢山の人々の祝賀の声が聞こえる。
称賛の声が二依子の涙腺を緩め、菊名と愛華は嬉し泣きで抱き合っていた。
救出と祝賀のムードが沸き立ち、ダニエルがこの場を次回の大会の宣伝を行い締めていった。
「......はい、こちらの救出は無事に終わったみたいなのじゃ、姉上。」
頭目の携帯の向こうでは頭目の姉であり陰陽庁の代表、安倍みちかが部下に携帯の操作をさせながら報告を聞いていた。
「みちよちゃん......亡霊さん達にお礼とお願いを聞いてもらえる? 」
「ええ、N型巨大危険霊体の情報を聞き出して欲しいの......」
「......そう、私達の戦いはこれからよ、総力を上げて打ち倒す、陰陽師の意地を見せないとね......フフフ」
「あと倉の式神の事で、聞きたい事が沢山ありますからねー! 」
ブッツっと通話が切れる。
「ははは......(ヤケクソ笑い)」
頭目の顔が真っ青になっていたが、気分を晴らそうと祝賀に混ざって行った。
「ワシも混ぜーい! 亡霊の小僧共! 次は勝つから覚えとけよおおお! ......後ちょっと聞きたいことあるんじゃ......」
こうして表立った事件は解決に至った、天国を目指した亡霊教団、その成層圏での顛末。
彼らもまた哀れな亡霊に過ぎず、残された者達もまた。
新たな目覚めが待っているのである。
......そしてこの事件のエピソードには、まだエピローグがある。
徳島の剣山に墜落した鳥の巨大霊体は、再び動き出さんとしていたのである。
舞台は再度......三日後に戻る。
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