第100話「黒騎士衛星≪ブラックナイト・サテライト≫」


 

 

 ******

 

 ザジ達とシラ達教団の戦う、舟の霊体が天空に昇る中......

 

 その遥か上空の超高度に、とある物体があった。

 

 本来なら地球一周を、百分程度で高速で地球を周回する「ソレ」は......

 

 

 何かに反応するかのように、周回軌道速度を調整し、角度を変えて軌道を変更した。

 

 軌道で発生した遠心力も、太陽の光が地球の空気層で反射して発生する熱も、地球からの重力も、不思議な力でまるで無かったかのようにあっさりと打ち消して......

 

 

 惑星探査映画にあった「モノリス」を彷彿させる不気味な動きをしつつ。

 

 「霊力」で動き、何処かしら移動を始めていたのだ。

 

 

 何かを迎えるかのように......

 

 

 ******

 

「いやあ、してやられた......でも中々に面白い意見が出て楽しいよ」

 

 フォッカーのフェイント合体に目を丸くしていたシラだが、先程の語り合いは面白かったらしく、言葉を連ねてきた。

 

「人工衛星の選択肢は悪くなかったかな、GPSネットワークの掌握は確かに驚異的だね」

「これからの亡霊達や生き霊に、そんな考え方する人が出るかもしれない......」

 

 だがシラはそう言う使い方には共感出来ても、行為事態に興味を示さない。

 

「混乱は起こせても、それまでじゃないか......時間がたったら衛星ごと落っことされるオチしかないね。」

 

 飄々と笑うシラに、ザジはプラモデルボディの剣を向けて......

 

「最後に今一度聞くよ、何処に行こうとしているんだ! 答えろシラ! 」

 

 ザジの言葉、それは開戦前の最期の問いかけ。

 これ以上の会話は必要ない、二依子の救出が先だと、剣幕が物語る。

 

 ザジのプラモデルボディのバックパックに仕込まれた「彦名札」......

 二依子を救う希望を背負って彼はここにいるのだ。

 

 

 そして......ついに。

 

 シラが目的地について、口を開く。

 

「僕達は、見つけたんだよ......ある種の電波を発する物体が衛星軌道上に有ることを......」

 

 シラはその最期通告に対し、答えを示し始めた。

 

「僕の憑依アプリ開発のベースになってるデータは、ソレが幾つかの発信した電波データの解析で見い出したんだ......」

 

 後ろにいる教団三人も、シラの言葉に固唾を飲んでいた。

 

 語り終えたら闘いになる、きっと彼等は犠牲で行こうとする天国を理解しようとしないだろう。

 教団亡霊三人には薄々そうなると解っていた。

 

 ユラユラと人体模型ボディと霊体の動きが重なる様に動き身振り手振りで表現するシラ、彼の語りは続く。

 

「人の内なる力を見つけ出した存在である我々を、その衛星は待ってるんだよ、霊力シンギュラリティ(技術的確信)の発見者を! 」

 

「だがその衛星には、ある種の強い霊力バリアが扉のように張られているらしい、鍵が必要とされるデータを我々は≪試練≫として受け取っている......」

 

 その言葉にザジ達は察する。

 

「まさか......! ソレが......」

 

 シラはザジ達の反応に察して、回答を述べる。

 

「"鍵"とされる強い退魔の霊力を持つ霊体を、生け贄に捧げて"扉"を開き、≪試練≫を乗り越え内部に迎え入れてもらうのが我々の目的だ! 」

 

「鍵である彼女にはそのまま、天国で住んで貰おうと思うよ......しょうがないけどね」

 

 ザジは意を決して言葉にす

 る。

 

「それは二依子の意思を尊重しない行為だ! 許す訳にはいかない! 」

 

 二人はやはり相容れぬのだと悟ると互いに武器を構えて再び交戦の構えを見せた。

 

「よっしゃ! 派手に行くで! 」

 

 ザジとシラの対立を確認したねぱた、そして横に並ぶ犬霊よしこ、それぞれが交戦の意向を見せて威嚇する。

 

「おうおう! オッカネエな! だが俺達はここいらが正念場よ! 」

 

 シラの背後から教団亡霊のパープルが、肩に手を乗せて立ち向かう意思を見せると。

 

「いい加減、俺の剣を取り返したいからな」

 

 同様に教団亡霊のキョウシロウもやる気を再び見せる。

 

「上空からの強襲が必要と見たね」

 

 未だにプラモデルボディの教団亡霊ポリマーが、装備を構えて降り立った。

 

 双方戦闘の準備は十分。

 

 ......だがここで何故か、困惑する亡霊の影があった。

 

「お前ら......! まさか......"アレ"を見つけたのか! 」

 

 急遽フォッカーが語りかけてきたのである。

 何かを知っているようにも取れる。

 

「ちょっと、なんやフォッカー? さっきからちょっと様子が変やで? 」

 

 フォッカーの様子に交戦の緊張感を崩されて、準備していたねぱたが困惑している。

 

「......遠点1728キロメートル、近点216キロメートル......地球の周回軌道をおよそ100分で周回する物体......」

 

 フォッカーが数字の羅列を口にする、そして更に歴史の記録を語る。

 

「1960年にアメリカ海軍がレーダーで捕らえたという記事から始まった、謎多き衛星......」

 

 そう、フォッカーは知っていた。

 いやフォッカーでなくても、この手に詳しいならピンと来るかもしれない。

 

 時にNASA公式に存在を否定されたが、未だに存在を信じる者も絶えない、その衛星は何処の国のモノでもない。

 

 何処の家にも属さない、家紋を黒で塗りつぶした騎士の名前を汲み取り、こう名前が付けられた。

 

 ≪黒騎士衛星(ブラックナイト・サテライト)≫

 

 と......

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