第99話「上空四百メートルの戦い」


「やはり現れたね、ザジ君! 」

「久しぶりだね元気にしてたかい? 」

 

 シラ(アドミニストレータ)に叩き込まれたザジの一撃。

 シラ自身も霊力の刃で受け止めるものの......

 自力では受け止めるには辛いと判断。

 

 キョウシロウのバリアサポートを受けて、辛うじてザジのオーヴァードエッジは受け流される。

 

 オリジナルボディのプラモデルで、ザジは吠える。

 

「アンタは二年前に俺が斬ったはずだ、まだ消えてなかったのか! 」

 

 ザジの問いかけにシラは答える。

 

「いやあ、丁度サーバーに霊体を移せるか実験していてね、君に斬られた時に、ボディから霊体送信して逃げたんだよ」

 

 ザジは過去に、このシラ(アドミニストレータ)と遭遇し、二依子の霊体を賭けて戦い、倒している。

 

 少しだけ書かれている程度だが、過去のエピソードの回想(四十六話)を覚えていただいていると、幸いだ。

 

 そしてシラはザジに語りかける。

 

 

「あの時は賭けをしたね、君がアプリの消滅を願い、僕は二依子君の霊体を要求した」

 

「今度は此方が"二依子君の霊体"を賭けようか、君達は"何を"賭けるんだい? 」

 

 ザジは口を紡いでいる、単純に賭けの対象が此方には無い。

 

「......言っとくけど今の憑依アプリはダニエルさんが、僕の隠しサーバーから持ち出したんで、関係ないよ」

 「ちゃんとあの時の約束は守って"ネット上"からアプリの存在は消したんだからね」

 

 ここでねぱたが間に入って来た。

 

「賭けるモノなんかあるかい! 何なら負けたら、ウチがデートでも何でもしたるわ! 」

 

 ねぱたの適当な提案に、シラは笑って答える。

 

「ああ、中々魅力的な提案だね、でも戦利品が前線に立つのは頂けないなあ......」

 

「ぐぬぬ......!」

 

 シラの返答にねぱたは口を紡ぐ。

 

 最早ザジ達が聞く耳持たぬまま交戦は避けられない......そう思われたが、その時。

 

 以外な一声がシラを驚かせる。

 

「その賭け! 乗ったああああ! 」

 

 声の主は舟の霊体が飛翔状態であるにも関わらず、近くから聞こえる!

 

「この私が! 賭けの景品よ! 」

 

 そこに見えるのは、ザジ達が乗ってきていた飛行船ドローン。

 そこからぶら下がったヌイグルミのクマは、本来の役目(プライズの景品)を主張するかの如く。

 クレーンで首根っこを引っかけ、ドヤ顔で語る。

 

「いや......ユナ。別にコイツの賭けに乗らなくてもいいんだぞ? ......」

 

 ザジはちょっとあきれ顔だが、相手であるシラにはとてもウケたらしく、終止ユナを見る目がニヤニヤしている。

 

「あはは......君はちょっと面白い娘だね、だけど今......ボディが風に揺られて滑稽な事になってるよ」

 

 そうシラの言葉通り、ユナを吊り下げられている飛行船ドローンが、急に激しく風に煽られ始めた。

 吊り下げられてクルクル回りながらユナが叫ぶ。

 

「ちょっとおおお! パルドさあああん! 揺れてますよおおお! 」

 

 ユナの風に揺れる想いが操縦士亡霊のパルドに通じたのか、回答が返ってきた。

 

「無茶言うなよ、高度は四百メートルを超えてるんだ! 強風を風避けバリアで押さえるだけでも精一杯だ! 」

 

「ええええ! 何でそんな高い所まで上がってんの!? 」

 

 パルドの回答はユナだけでなく、ザジ達も驚愕させる。

 

 ......そう、シラ達は決して撤退を行っている訳ではなく、千人を超える人数分の霊力を蓄え、飛び立っているのである。

 

「君達も知っているであろうと思うけど、巨大霊体達の目的地はずっと大空に在るわけだ......」

「ただ飛ぶだけでこんなに霊力を必要としないだろう? 」

 

 シラはザジ達に語りかける、ザジはふと彼らの行き先を言葉にする。

 

「天国......」

 

 ザジの小さな呟きに、シラは喜んで反応すると、意気揚々で語り出した。

 

「そうだ! その通りだ! 我々の行き着く先だ......」

 

「お前らまさか......」

 

 ここでシラの会話に、割り込む様に入ってくるザジ達の亡霊仲間、フォッカー。

 ドローンのボディでザジを乗せてきたが、シラの様子に何かを感じ取った様子。

 

「高高度に飛ぶ航空機に、巨大霊体を憑依させるつもりか? 落としてテロでも起こす気か? 」

 

「違うね、そんな世の中に向けた一抹の感情で行った作戦じゃあない......」

 

 フォッカーの問いかけに対し、シラの答えは全く違っていた。

 

「いや、それでも人工衛星に巨大霊体を憑依させても見ろ......世界中のGPSを混乱に落とせる驚異になるだろうが! 」

 

 フォッカーは巨大霊体の驚異度合いを、熟知した限りで語ろうとするが、シラは興味の無さそうな顔で見ていた。

 

「そうか......君はきっと世の中の理不尽で命を落としているんだね......」

 

 そっとシラはフォッカーの過去に触れる言葉を口にするが、フォッカーは動じなかった。

 そして......

 

「俺は空で戦い、任務を守って死んだ、空を守る意思、それが亡霊になっても変わらない俺のポリシーだ」

 

「お前らはこの空で何をしようとしているかは、わからないが生きている人を巻き込む以上、俺達は見逃せない! 」

 

 フォッカーはそう言うと、よしこのボディである、狼型プラモデルの背中にドッキング!

 

 本来のコンビの姿になったのだ。

 

「これが本来の俺とよしこの姿だ! 刮目せよ! 」

 

 このフォッカーという男。

 

 ただカッコいい口上を並べながら、コッソリよしこと合体する隙を伺っていた......"だけ"なのである!

 

「アーッ! この野郎! コイツ犬霊にくっつきやがった、油断も隙もねえ! 」

 

「あの犬霊、すばしっこいから只でさえ戦いにくいのに、更にパワーアップするとか......」

 

 ブーブー叫んでいるのは、シラの仲間の教団達(パープル、ポリマー、キョウシロウ)。

 

 フォッカーの付属品ムーヴが、彼等の警戒を抜けて状況を一変させる瞬間である。

 

 ......多分。

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