第80話「ねぱたおねえちゃん」
アプリから表示された霊体の検知画面。
表示にはハッキリとファントムと出ている。
「なになに? 注意事項? 亡霊の転送を行う場合、通信状態を安定させるため蓄積された霊力はほぼ無くなります、ご了承下さい......って! 」
ねぱたの驚愕がこのアプリの仕様の問題点を物語る。
「飛ばされたら、ウチそっちでミイラみたいになって霊力カラカラで召喚されるんか? 怖いわ!! (ツッコミ)」
ユナが周囲を見渡して考える。
「レストルーム号のザジ君のオリジナルボディの霊力じゃあ、駄目なんですか?」
ねぱたの見解はこうである。
「回復は出来るで、けど......せめて特撮フィギアでお願い出来へん? ......ってユナちゃん!? そこで呆れた顔しんといてええ! 」
いつものノリツッコミのねぱたがボケ倒しを始めた時、飛行船ドローンの外で交戦の合図が放たれ、マネキンに対し攻撃が始まった。
「わわわ! 何が始まったんですか? 」
ユナが飛行船の外に霊体を乗り出すと、見ていたダニエルが端末を弄る手を止めて答える。
「船の巨大霊体に関連する何らかの存在が、ビルの影から船に乗り込もうと移動しているらしい」
「ザジ君達が反応して攻撃を行っている、君も準備した方がいい」
ダニエルはそう言うと再び端末を操作している、以前の語った霊体保全機構の強化は、こうして知らぬ間に着々と行われていた様だ。
だが、ここで見知らぬ少女の霊体が美少女フィギュアの体で、ダニエルとユナに話しかけてきた。
「すいません、すいません! 責任者の方ですよね! みんな一体何と戦ってるんですか? 」
少女は別のフィギュアを背負って居る様子。
ユナとダニエルに話しかけてきたのだが、どうやら今回の戦闘開始に戸惑っている。
「君も知っているだろう、相手はあの船に関係するモノだよ、って君はもしかして憑依プレイヤーじゃないのかね? 」
少女は困惑して語る。
「私、オープニングセレモニーで個人種目のダンスを披露するのが目的で来てるのに、観客に居た家族がアレに吸い込まれて......」
少女はまだ小学生の様だ、この現状に追い立てられ、ここまで来てしまったらしい。
「その背中のフィギュアは何? 」
ユナが彼女の背負って居るモノに興味を示す。
「まだ幼稚園児の弟も船に魂を囚われて居るんです! ボディを持っていけば取り返せると思って......駄目なんでしょうか? 」
ダニエルはその少女に回答する。
「悪いがボディを持っていっても、船に取り込まれた魂は直接サーバーを壊して解放しなければ意味が無い、ボディだけあっても駄目なんだ」
「そう......ですよね、私はどうしていいか解らなくて......ごめんなさい」
少女の霊体は泣き出しそうな面持ちで無力さに嘆く。
自身の無力さと、情けなさと、ここまでフィギュア持ってきた無駄な努力が彼女を悔しさで満たしていた。
しかし、ここで救済の声が木霊する!
「「気に入ったでえええ!! 」」
突然!
飛行船ドローンのレストルーム号から声が聞こえる!
「霊体の送信開始や! カラカラになろうが関係ない! その代わりザジのオリジナルボディの霊力いっぱい貰うからな! 」
その声の主は"ねぱた"だ!
彼女は暫くの時間を持ってレストルーム号の端末に、霊体の送信プログラムに乗って......
遂に召喚された!
「おおおおおお! なんじゃこりゃあああ!! (ペラペラになったねぱたが送信されてきた! )」
「ねぱたさん! これFAXみたいじゃないですか! 」
ユナが心配そうに召喚の状況を確認する、予想どうりに霊力を失った状態のねぱた(ペラッペラ)が送信され、レストルーム号の蓄積された霊力で回復する!
「(風船が膨らむ様に回復しながら)消えるかと思ったわ......ホンマ怖いわー! 後はボディや! 」
「特撮のフィギュアはここにないか? 」
特撮フィギュアというワードに少女が反応する!
「弟の......お気に入りなんです! ですけど......使って下さい! 」
少女が背負っていたフィギュア、それは彼女の弟の夢の祝福を一心に受けた希望のボディ。
「有りがたく借りるわ! ええな、感じるで! 特撮はフィクションやけど、この持ち主の心ではフィクション以上の物語や! 」
純粋な祈りを受けたねぱたは特撮フィギュアに乗り移り、先程まで担がれていただけの特撮フィギュアが立ち上がる!
「このッ! ねぱたお姉ちゃんに! 任しとき!! 」
ねぱたの希望に満ちた殺し文句が炸裂する!
「行くでユナちゃん! 悪い巨大霊体に、一発キツイのを食らわせたる! 」
ねぱたが飛行船ドローンの屋根に飛び乗ると、腕組みしながら戦場を見据えていた。
トクン
トクン
ねぱたの内側で鼓動のような霊力が加速する、子供の夢の詰まったフィギュアの霊力が、ねぱたの霊力に混ざって"退魔"を発現する!
(ああ......)
(思い出すわ、懐かしい)
ねぱたの生前の記憶が。
沸き上がる様にねぱたの心を揺さぶる。
記憶に残るのは、未練。
ねぱたと遊ぶ、病弱な子供の記憶。
記憶の少年がねぱたに語りかける。
「ねぱたおねえちゃん」
まだ言葉がたどたどしい。
本来、「寝畑」という名字を少年が発音の間違ったまま呼び名として定着したと思われる。
(ホンマ、この記憶もう何年も前やからな)
(懐かしい"ゆうちゃん"は今、どうしてるやろか? )
(もう高校生位になってるやろな......なんかちょっと会いたくなってしもうたわ)
(もし久し振り会って、間違っても"ねぱたおばちゃん"言うたら......ゲンコツしたるけどな)
ねぱたが物思いに老けると、ユナの声が響いて来た。
「ねぱたさん!アレを!」
ユナが示唆する先、そこは大量の巨大な霊体の手が竜の如く乱立する、前線の真っ只中である。
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