第69話「バトルは道連れ世は情け」


 ******

 

 夜になり準決勝の残り試合が行われる。

 ポゼ部とポゼッションバトル運営チームの対戦である。

 

 「私達のバトルは何時もの駐車場の特設会場じゃなく、プレゼンテーションなんかで使われる大会場が舞台らしいよ」

 

 二依子が運営のメールを読みながらポゼ部の面々に語る。

 エレベーターに乗ったポゼ部の面々は運営ビルの上階にある舞台に足を運ぶ。

 

 「急に豪勢なフィールドに案内されたから、立地データーも何もないね」

 

 「何時もの駐車場なら柱を盾に回避行動とか出来るんだけど、プレゼンテーションを行う会場ってマップギミックとか無さそう……」

 

 菊名と愛華はフィールド情報を確認して言う。

 

 「何より運営が俺達の味方かどうかも解らないんだ、気は抜けない」

 

 ザジには運営の意図が気になるようだ。

 

 エレベーターから出て映画館のような大きめの扉を開けると、巨大なスクリーンにポゼ部の面々が映し出された会場にたどり着く。

 

 観客の居ない映画館の様な場所に招かれたポゼ部とザジ達、周囲を見渡すと対戦相手の運営チームを探す。

 

 「相手はまだ見えていないのね……」

 

 二依子がザジ達の装備やスキルの打ち合わせを始めると、巨大なスクリーンのある舞台からスチームが吹き出してポゼ部の面々を驚かせる。

 

 「何!ちょっとビックリしたじゃないの!」

 

 突然のスチームに驚いた菊名が憤慨する……だが視線の先に誰かが要るのを確認すると再び警戒して後ずさる。

 

 「愛華!準備するわ!アプリを起動して!」

 

 菊名が憑依アプリで憑依状態に……床に置かれたフィギアがゆっくり歩き出すと、菊名は準備万端という事を示す為にポージングを決める。

 

 「センパイの改造で強化されたこのボディ、伊達じゃない!」

 

 バトルモノの可動ヒロインフィギアに戦闘機を模した羽根やアーマーパーツをピッタリに作った、二依子の腕の良さが光っている。

 

 「あんまり壊さないでね、即席で作ったからパーツの換えが無いの」

 

 二依子がそわそわしながら菊名のフィギアを気にかけている様子。

 

 スチームが晴れて、その人影が現れる。

 

 「!」

 

 そこに現れた背広のアメリカ人、ポゼ部の前に出てきて流暢な日本語で挨拶をし始めた。

 

 「ようこそポゼ部のみなさん、お初に御目にかかります、ワタシはポゼッションバトル運営会社パルドワーカーのCEOを勤めます、ダニエル・ロイドと申します、以後お見知りおきを……」

 

 挨拶をするダニエル、二依子や愛華を見てニッコリと笑っている。

 

 「ではバトルの前に何か雑談でもいかがですか?我々にお聞きしたい事があると聞きました」

 

 ダニエルの姿勢に二依子が詰め寄る。

 

 「憑依アプリを持ち出して、こんな競技にして売り出しているのは何故?!あなた達はどういう目的でこんなことをしているの、答えて!」

 

 二依子はここで運営と事件の関連性を詰め寄り、真相を聞き出す姿勢に出た。

 

 「では……アプリの入手の経緯から語りましょう」

 

 ダニエルはモニターに映像を出してきた、プレゼンテーションの様に映像とでの説明を行うようだ。

 

 「我々パルドワーカー社が、偶然競売にかかった持ち主の居ないビルの中から、通電してあるサーバールームを発見したことから全てが始まりました……」

 

 映像は映画館の様にパノラマサイズで、編集され映っている。

 

 「ビルを買い取ってサーバーを解析をしたところ、一つのアプリケーションが見つかったのです……それが危険性の強い″旧バージョンの憑依アプリ″でした」

 

 「丁度このアプリケーションの起こした事件に興味があった我々パルドワーカー社は、″とある目標″の為に解析と″無害化″を行います」

 

 二依子が反応する、それは″目標″と言う言葉に反応したモノだと解る。

 

 「目標……?(ゴクリ)」

 

 警戒している二依子の表情にダニエルは終始笑顔でこう答える。

 

 「イエス、二依子さん、このパルドワーカー社は元々とある事業の下請け会社でした……それは」

 

 映像が切り替わる、CGを盛大に使った真相の発表だ。

 

 

 

 「「宇宙開発です!!」」

 

 (大当たり演出みたいな3D豪華文字がドーン!)

 

 

 

 大きく広げた腕、ダニエルが意気揚々と目的について語る。

 

 「先進国の宇宙開発は今、衰退の一途をたどっています、NASAは殆どの宇宙での実験を終えており、有人による宇宙への挑戦は興味を失いつつあります!」

 

 「何故なら人間を乗せるメリットそのものを失っているからです!」

 

 「沢山の訓練や宇宙でのリハビリ、人間が地球上から離れるだけで一苦労!」

 

 「これら人間そのものの宇宙への適正の無さが、有人宇宙開発の競争力を停滞させてるのです!」

 

 ザジがその話に食い付く。

 

 「まさか憑依アプリの霊体なら宇宙旅行も可能?!」

 

 ダニエルはザジの霊声が聴こえる様にアプリを調整したのか、その台詞に反応する。

 

 「正にその通り!流石は亡霊のザジ君!」

 

 ダニエルの反り返るジェスチャーと共に、モニターの映像は奇妙な船の宇宙船のCGに切り替わる。

 

 「これが我々の終着点、憑依アプリでの宇宙旅行を行う″方舟の宇宙船″計画!」

 

 「これらの憑依アプリが完成すれば、霊体送信プログラムで人間は地上に居ながら宇宙へ飛ぶ!」

 

 「憧れの宇宙へ!無限の可能性が貴方達を待っているのです!」

 

 ダニエルの絶頂のポーズ。

 

 その光悦の極みの顔で天を仰ぎ、大きく広げた腕は宇宙を賛美、曇りのない眼(まなこ)でポゼ部を動揺させる。

 

 「二依子、運営さんはきっと巨大霊体や二年前の事件との関連性が全く無い、只の宇宙馬鹿のプレゼンターだ」

 

 ザジはダニエルと運営の無害性を確認すると、バトルする為に剣を構える。

 

 「でも俺達が宇宙でバトルとか面白いかって……すまない、二依子は事件との関連性を問いただしたかったんだった」

 

 ザジがてっきり二依子が運営に対して想像していた、事件の″黒幕″との関連性。

 これらが全く的外れだった事に落胆していると思い、軽はずみな事を語ったと思い謝罪する。

 

 「……」

 

 「二依子?」

 

 ザジが二依子が急にだんまりになったので気にかけて、顔を覗き込む。

 すると二依子がキリッと目を見開いてザジに語りかける。

  

 「ザジ君……」

 

 「何?」

 

 ザジが二依子の顔色を見ようと、前方に回る。

 

  

 「宇宙とか!!……最高じゃない!!」

 

 てっきり落ち込んでいるかと思いきや、宇宙でのバトルにウキウキになっている。

 

 「あああ良いなあ!!、どうしよう、新しく宇宙用の装備を考えなくちゃ!」

 

 二依子の憧れが止まらない、ザジの心配を他所に、目を輝かせて天を仰ぎ見ているのだった。

 

 「よかった……」

 

 二依子を見守るユナもこの状況にほっと胸を撫で下ろす、二依子の過去の執着が未来への憧れと可能性に塗り変わったのが嬉しいようだ。

 

 ダニエルはここで試合の中継について説明を入れる。

 

 「折角のサプライズ、今日は沢山のお客さまの前で発表せねばなりませんね」

 

 モニターに映ったら映像はこのバトルの運営が買い取っている高層ビル。

 その一階と十五階のエントランスホールには、このエキシビジョンマッチを見るために集まったプレイヤー達が犇めくように集まってた。

 

 「ギャラリー会場では本戦の参加者達で満たされています!彼等は自分の出番が今か今かと待ち焦がれているんです!」

 

 「バトルの本戦の日程前に、このバトルを一気に済ませないと、日程が押していて大変なんで!」

 

 「よってここで私達とのバトルと、地下駐車場でのヒドランジアチーム対KIRIKUチームのバトルをすぐに行い!……」

 

 「最後の決勝は本戦のオープニングセレモニーと称して四チームで一気にバトルする事になりました!」

 

 この唐突な発表にザジ達チーム全員が驚愕する!

 

 「そんな御無体な!」

 

 「鬼ー!悪魔ー!」

 

 菊名と愛華の呆れた顔で罵声を浴びせる。

 

 「あのー、ダニエルさん……日程押しすぎじゃないです?、私達ここで試合して連戦で決勝ですか?」

 

 二依子も呆れ顔、流石に運営の日程基準のガバガバぶりは小学校の運動会の競技プログラムより酷い。

 

 「ダイジョウブ!、運営チーム全員が完徹状態さ!しんどいのは君達だけじゃない!」

 

 「アホかー!道連れじゃないですかーやだー!」

 

 ダニエルの返答にザジ達の突っ込みが入りまくる中、このプレゼン会場でのバトルが始まろうとしていた。

 

 

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