第25話「疵(きず)だらけのファントムズ」


 

 場面は代わりユナ達の視点に変わる。

 


 キャンパーの入り口が車体下部から展開され、パルドのトラックと荷台は収納の準備が整った。

 

 「ねぱた君をレストルームに!」

 

 「はい!」

 

 カンチョウがユナにねぱたの回収を頼むと、トラックから降りる。

 

 「あの霊体の攻撃ならまだ何とかなるかもしれん」

 

 「ええ?カンチョウ?戦うんですか?」

 

 現在巨大霊体は溶鉛を射ちすぎたのか、霊糸の布による攻撃が目立つ。

 

 物理的に攻撃する射出物を切らしてしまい、霊糸の布の鞭と言う膨大な霊力消費技で攻撃しているのだ。

 

 「実態の無いモノで無理矢理に造り上げて、高濃度霊糸攻撃を起こしている今ならね」

 

 そう言うとキャンパーからドクが、大きなコンテナをクレーン車で下ろした。

 

 「ドク、私のブロックを出してくれたのかい?取りに行かずに済むね、助かるよ」

 

 霊糸と霊体の手により高速でブロックのパーツが組み上がり、小さな城門様なパーツが幾つも出来上がる。

 

 「出来上がったらクレーンでキャンパーの屋根に上げてくれ!奴の布が当たる場所が良い!」

 

 

 「ここで組み上げるんですか?」

 

 ユナが様子を見て問う。

 

 「ああその通りだ、中で組み上げてもエレベーターでは時間が掛かるよ、だからここで組んでクレーンで持ち上げて置けば大がかりな物がすぐに作れる」

 

 「ほええええ!」

 

 カンチョウがそう答えると霊糸と霊体の手で次々城門や城壁パーツが出来上がる。

 

 その組み上がりの早い様子に、ユナが驚きの声を上げる。

 

 

 「こんな事もあろうかと組みやすくしておいたのさ、折り畳んだパーツを起こしておくだけで出来る部分もある」

 

 クレーンで引き上げると、キャンパー天井部分に巨大な洋風の城模型が出来上がる。

 

 キャンパーの外壁にも城壁の一部が取り付いており、大砲などが攻撃体制を完了していた。

 

 「後はあの巨大霊体の布の攻撃が来るのを待つだけだ」

 

 カンチョウは受けて立つ様である。

 

 「受けるんですか?あの攻撃受けて大丈夫なんですか?」

 

 「受けたら壊れるだろうね、だがあの布もただでは済まされないはずだ。」

 

 「それってどういう…」

 

 ユナの問いかけを遮るが如く突如、

 周囲に爆音が響き渡る。

 

 「これは不味い、廃屋が燃え出している!」

 

 溶鉛の散布が野原を焼き、その火が大きくなり周囲の家屋に広がる。

 

 残っていたガス管やガスボンベの残留量に引火したのか火災が発生していた。

 

 「火の手が回るのが我々では止められない、人も居ないから消防施設が機能していないのだからね」

 

 その答えにユナが戦慄を覚える。

 

 「ザジ君ーッ!早く戻って!」

 

 ユナの視線の先ではザジが巨大霊体の攻撃に防戦一方の姿があった。

 

 

 

 

 ユナの視点の先に場面が変わると、そこにはボディのパーツを削られながらも攻撃を避けるザジの姿があった。

 

 繰り出される霊糸の布の鞭を霊力でコートした剣で払いのけ、細かいダメージを拡散。

 

 端から見ればお手玉されている様にも見えるが、打ち上げられながらもファントムスラッシュで布に攻撃を入れる。

 

 「ファントムスラッシュ同士で相殺してるって時点で、コイツのボディタイプはノーマルで確定だな」

 

 単純に布はパッシブ(常に)ファントムスラッシュが出来る上に、霊糸で作られた質量的に存在しないものによる攻撃だ。

 

 密度の高い霊糸がカマイタチの如く切り裂く、人が食らったら骨までに食い込むだろう。

 

 「ここに置いて軽いこの体が役に立っているのはありがたいぜ!ねぱた姉さんやフォッカーのボディ重量だったらダメージ受けるかもな」

 

 100グラムも無いボディだけあって、布自体の攻撃は切れ味あってもダメージに成らない。

 

 「焼キツ尽クセ!」

 

 巨大霊体は口らしき部分に熱を集め始める。

 

 そして喉から口に熱らしき物が逆流する様子が見てとれると、再び熱を放出し始めた。

 

 「おっと!それは食らわない!」

 

 ザジはファントムニードルで一撃見舞うと、怯ませてからバリアを張り回避行動を行う時間を造る。

 

 「オノレ!寄り代バカリ狙イオッテ!」

 

 巨大霊体は直接的なザジの攻撃に、さぞかし御立腹の様子だ。

 

 「ファントムクロー!」

 

 突如巨大霊体の背後から、別の土偶ボディ狙いの一撃が見舞われる。

 

 「ザジ!弾一発見つけたぞ!」

 

 ロボットの残骸を捜索し、霊糸で固定された弾丸を腹に付けフォッカーの犬ドローンが帰って来たのだ。

 

 「ソンナモノ役ニ立タンワ!」

 

 嘲笑うかのような巨大霊体の熱ブレスが二人を焼き払おうと吹き付けられるが、バリアも二人分になった為にダメージには至らない。

 

 「フォッカー!キャンパーにすぐにも戻るよ、十分陽動出来た筈だ!」

 

 二人がキャンパーに戻るのを確認すると、巨大霊体は重い腰を上げるが如くゆっくり追うように移動を開始する。

 

 「火ガ足リナイ、アノ火ヲ食ワセロ」

 

 その移動はまるで巨大な御輿が上がるかのよう、そして巨大霊体は肩から下がゆっくり見え初めて来た。

 

 目的は火災が起きている住宅跡、火災の熱を吸い込んで体内に確保する様だ。

 

 

 

 

 場面は変わり、キャンパー内部のレストルームに切り替わる。

 

 「ねぱたさん!着きましたよ!早くそのボディから…」

 

 ねぱたの霊体はボディからズルリと抜け落ちる様に倒れ混む。

 

 そのまま大の字に寝転がり微笑んでユナに語りかける。

 

 「ごめんな、ちょっと休むわ」

 

 そう言うとねぱたの霊体は、ゆっくりレストルームの床下を通り抜ける様に沈んでいった。

 

 「え?これって…」

 

 その様子を見ていたドクがこう答える。

 

 「オリジナルのボディの所に行ったんだろう、みんなこの下に安置してあるからな」

 

 「ねぱたさんこれで治るんですか?」

 

 ユナの心配そうな顔にドクが肩に手を置いて語る。

 

 「霊体は復活するだろう、ただねぱたにしろ誰にしろ、オリジナルのボディに戻ると生前の記憶に目覚めやすくてな…あまり良い顔では帰ってこない」

 

 その時に初めてユナはここの亡霊達の記憶が無いと言う意味が解ったような気がしてきた。

 

 (みんな覚えてないって言うけど…思い出したくないってのが正解なんだね…)

 

 ここではみんな楽しそうに見えていた、だがそれは死んでいる現実に打ち勝つ意志の強さだろう。

 

 だがユナは彼らの死んだ時の記憶への現実逃避にも感ずには居られなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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