第10話「望郷のファントムズ①」

 某市内N区、ここの町外れに進入禁止の立て札が立っている。

 

 事の始まりは1年ほど前、山間から発生した亜硫酸ガスが地殻変動で吹き出したというもの。

 

 高速道路の近くと言うこともあって大きくインフラが封鎖され、代用の新道路が建設されるほどに深刻であった。

 

 何より危険区が今だにその状態を留めているとされ、避難勧告により1000人近い住民が仮設住宅などに移り住んだのである。

 

 この物語はフィクションである、決してそんな話はありえないので注意する様に。

 

 「なんとか我々の根城に着いたよ」

 

 カンチョウの言葉には安堵が感じられる。

 

 「ここって毒ガスが山から出たって言う場所なんですよね、ずっとニュースになってて最近まで話題になってました」

 

 ユナの言う通りいつまでもニュースとはいえ報道の限界がある、暗いニュースはいつまでもトップの記事には出来ない。

 

 「ウチらここに住んでるけどガスなんて出てる様な気がしないんやけど」

 

 ねぱたの言葉にユナは反応する。

 

 「ここで沢山の人が亡くなって幽霊騒ぎになったとか、ガスの被害者が今だに寝たきりになってるとか…」

 

 「せやな、少なくとも幽霊騒ぎはしょうがない、脅かしてるのがウチらやからな」

 

 すぐにねぱたの返答が入るが内容にユナが納得する。

 

 「ああ、ソウデスヨネーみんな幽霊ですもんね」

 

 ユナの目の前にいる人達がどう言うモノか思い出されてしまう。

 

 「ユナ君、脅かしてるのは我々だけど、我々自体は多分ここで死んでないからね」

 

 二人の会話にカンチョウが割り込む。

 

 「多分ですか?」

 

 (そう言えば記憶がどうとかザジ君が言ってた様な)

 

 ユナが困惑していると根城の場所に着いたのか車が停止した。

 

 着いた根城は大きなガレージのある家、と言うか地方に良くある放置施設。

 

 シャッターを降ろして格納を完了すると、キャンパーの周囲にダメージなどがないかチェックが入る。


 「ユナ君、フォッカーが迎えに戻ったら他のみんなも集めて紹介するよ、それまでボディの修繕も兼ねてレストルームで休むといい。」

 

 カンチョウの言葉にユナが首を傾げる。

 

 「レストルームってことは休憩所ですか?」

 

 ねぱた女史が笑顔ですり寄ってくる、特撮フィギアの姿なのでちょっと面白い絵面である。

 

 「ウチが案内するで、追いてきーやー、ええか?まずこのウチらの方舟の中は六層になっとるんや」

 

 二人はエレベーターに乗る。

 

 「まず今いる此処やな、此処はキャンピングカーの運転席の上に伸びてる部分や、簡単に言うと此処が前方で作戦室で後ろが広場と砲台室」

 

 ねぱたは霊体の指を指して説明する。

 

 「主に監視モニターや競り上がる砲台なんかが置いてるんや、開発室上部と繋がっとる」

 

 エレベーターを動かす、一つ下の階層に着く。

 

 「そこからすぐ下の階層や、運転席のすぐ後ろに当たる此処は工作室や、主にこの上部に武器弾丸弾薬がある」

 

 もう一つエレベーターを下ろす。

 

 「んでこっちが工作室下部、一番真ん中のレストルームに近い此処は主にウチらのボディになるパーツの加工や強化なんかする所や」

 

 再びエレベーターを一つ下ろす。

 

 「さてお待ちかねのレストルームや」

 

 ユナはレストルームの中で目を丸くする。

 

 「凄い普通の部屋だ、ミニチュア家具とか色々置いてある!」

 

 ヌイグルミの姿で家具を見るとは思っても無かった様だ。

 

 「そうやここがレストルームや、このキャンパーの心臓部分やで、まあエンジンもそうやけどな」

 

 「心臓?ですか?」

 

 ねぱたの言葉にユナは首を傾げる。

 

 「そうやで、この下にはウチら全員のメインオリジナルボディが眠っとる。」

 

 「へっ?(真っ青)」

 

 突然聞き慣れないメインボディと言う単語にユナが動揺を隠せない。

 

 (幽霊のメインボディ?!)

 

 「勘違いしたらあかん、メインオリジナルボディって言うたって骨とか死体とかと違うんやで」

 

 ユナはホッと胸を撫で下ろす。

 

 「ソコにあるのはな…一番最初にとり憑いた体や、大体のみんなのメインのオリジナルボディは結成前に無茶し過ぎてボロボロなんや」

 

 ねぱたの少し未練のある顔が見えた。

 

 「集まって力合わせて今に至るんや、それに此処は心臓部なんや」


 ユナは心臓部分というキーワードに感心が着いた。

 

 「みんなのメインオリジナルボディが心臓部分ってどう言うことなんです?」

 

 待ってましたと言わんばかりにねぱた女史が顔をフィギアのまま近付けて言う。

 

 「六人合わせればなんとやらや、この車は実は元がえらい古いらしい、だいぶ改造して近代化改修しとるけどフレームとかは昔のままや」

 

 ここで先程の頭目の女の言葉を思い出して貰おう、つくも神になるのはせいぜい50年という言葉を。

 

 「なんかモノに霊力が宿るとか言うのがつくも神と言うんやって、だからウチら全員で霊力集めて仮初めのつくも神になる様にこの車で試したんやで」

 

 ねぱた女史が力説する謎理論にユナが驚愕している。

 

 「お婆ちゃんがつくも神なんておとぎ話みたいなの見たことあるって言ってたけど、作ったとか初耳だよ!」 

 

 

 


  

 

 

 

 

 

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