K博士の不思議な発明

19

K博士の立方体チョコ

 「博士、今日は何の用です?」

ある日、K博士の研究所に呼び出されたAが言った。博士とは腐れ縁の仲である。

「これを見てくれ」

博士はそう言うと、部屋の片隅にある冷蔵庫から箱を取り出した。

「これは……チョコレート?」

「ああ、そうだ。正確に言うと、生チョコレートだな」

確かに、立方体で粉のかかった生チョコレートだった。箱に合計で九つ入っている。

「で、これがどうしたんですか」

「いや、バレンタインデーが近いから」

Aがカレンダーを見ると、数日後に二月十四日が控えている。ここ数年、一つもチョコをもらっていなかったので縁が無いものと思い忘れていた。

「男から貰っても嬉しくないですよ」

「まぁそう言うなって。これはただのチョコレートじゃないんだ」

博士は興奮しながら言った。

「……聞きたくないですが仕方がありません。聞きましょう」

「うん。これは『必ず立方体になるチョコレート』なんだ」

「は?」

Aは素で聞き返した。

「見ての通り、今は立方体だろ?」

箱から一つつまみ上げて男に見せる。

「はい」

「これを切る」

そう言うと博士はチョコを机の上のまな板に置き、包丁で二つにした。

 その後、チョコは融かされそれぞれ別の容器に注がれた。片方は球体、もう片方は六角柱である。容器は満たされた。

「後は冷えて固まるのを待つだけ」

と博士が言った。

「すると、どうなるんです?」

「それは固まってのお楽しみ」

博士は楽しそうに言った。


 しばらくして。

「そろそろ固まったかな」

そう言うと博士は冷蔵庫から容器を取り出した。それを見たAは驚いて言った。

「は、博士!容器が!」

チョコは立方体に固まっていたのである。容器に収まらない部分は外に飛び出し、容器と一体化していた。

「これでわかったかな?『必ず立方体になる』の意味が」

博士はしたり顔で言った。

「はい。わかりましたけど……、これ、何の役に立つんですか?」

男は困惑して言った。

「さあ。発明とは役に立たないといけないものなのだろうか?」

「そうじゃないかもしれませんけど、これはいくらなんでもでしょう」

「えぇ……。じゃあ、こういうのはどうだ?バレンタインデーに手作りチョコを作る女性が絶対に立方体に整形できる」

「そんな需要ありませんよ」

「いや、わからないよ。世の中どんなものが売れるか……」

「まぁ何でもいいですけど、とにかくそれは要りませんからね!」

「そんなこと言わずに食べてくれよー。美味しいからさぁ」

博士の叫び声が研究所に響き渡った。

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