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●テクストと翻訳

 Ex hac tamen expositione, contra exemplum quod ponit duos homines habentes omnino idem qualitates non possum refutare. Individuum enim, secundum DOCTOREM SUBTILEM, cognoscitur in quantum aggregatio accidentium, et si intelligit hoc modo individuum cognoscere, sic, ut DOCTOR SUBTILIS concedet, si alicuius hominis, stante eodem homine, omnes accidentes transmutant, tunc non possumus judicare utrum ille homo sit idem homo, et ex tali cognitione non vere amamus individuum. Ergo, supra DOCTOREM SUBTILEM, propriorius, quaerendus modus possibilis est quo intellectus homanus viatoris cognoscit individuum in quantum individuum.


 しかしながらこの説明によっては、まったく同じ性質を持つ二人の人間を措定する例に対して反駁することができない。というのも、精妙博士に基づけば、個別者はただ附帯性の集合としてのみ認識されるのであって、そのようなしかたで個別者を認識していると理解するならば、そのかぎりで、精妙博士も認めるであろう通り、ある人間が同じ人間に留まりつつ、すべての附帯性が変化したとすると、その人間が同じであるかどうか判断できないからである。このような認識によっては、私たちは真なるしかたで個別者を愛することはない。したがって、精妙博士を越えて、より厳密なしかたで、それによって現世の人間知性が個別者を個別者として認識する、可能な方法が探求されねばならない a)。


●註釈

a) 第九段落において、彼が気づいた問題は、この第十段落において明示化される。ドゥンス・スコトゥスの理論によって認識される個別者は、単なる附帯性の集合でしかない。そうして認識されるものは、移ろい、廃れ、朽ちてゆく存在者としての性格しか帯びていない。ソクラテスとプラトンとの見た目がそっくり入れ替わってしまったならば、私たちはソクラテスのことをプラトンと呼び、プラトンのことをソクラテスと呼んでしまうだろう。私たちの個別者認識は、ふつう、そのように附帯性の集合に依っている。だがそれでは、不変の愛の根拠にすることはできない。アウグスティヌスが言うように、知っているものしか愛し得ないのだとするとき、私たちが知りうるのは、あくまでも附帯性の集合として、移ろい得るものとしての個別者であるのであって、個別者を個別者として、決して移ろい得ない存在者として認識することではないのだから、私たちが愛しうる対象もまた、決して移ろい得ない個別者ではなく、移ろい得る、有限的な個別者なのである。そして無名氏は、そのような変容し得る愛では決して満足することはないのである。

 

 パリの街を、異質な二人組が歩いているのを無名氏はしばしば目の当たりにした。殆ど同じ背丈をした彼らは、身につけている服こそ違ってはいても、彼らの顔を見分けることは至難であった。双子の二人組である。無名氏は、そのような双子の二人組をいくらじろじろと眺めてみても、見分けることができそうになかった。まばたきする瞬間に、右にいた男が左に、左にいた男が右に、というしかたで入れ替わってしまっていたとしても、そのことに気がつくことはないだろう、と無名氏には思われたのである。二人組が向こうから楽しげに話しながら無名氏に近づいてくる。近づくにつれ、彼らの顔は鮮明に見えるようになるが、それでも一向に彼らを見分けることはできそうもない。彼らの顔が鮮明になればなるほど、無名氏の胸は苦しく締め付けられるようであった。耳に届く陽気な声が大きくなればなるほど、彼の心は暗く沈んでいった。

 この時、彼はすでに心のどこかで、閉ざされた憂鬱な暗闇に支配され、自分でさえ気づくことのできない心の一室のなかで、問題の完遂を、永遠の愛を、生きながらの至福を、不可能なものとして諦めていたのかもしれない。しかしパリがすっかり夜に浸かりきってしまったときに、空を見上げれば、この世界にたった一つしかない月が、雲の階梯をゆっくりと降りてきて、うす濁った都市の空気を発光させているのを目の当たりにし、その優しい光を吸い込んで肺を満たすとき、無名氏はあらゆる不安から開放されて、言いようもなく癒され、慰められるのであった。そして月の光に育まれたような美しい女性を、永遠から愛そうと、永遠の愛を証明してみせようと、再び誓うのであった。そのように、彼は穏やかな色をした月光の毒に冒されていたのである。有毒の光を浴びた彼の内なる時計は、復旧が困難なほどに崩壊してしまっていた。かつての「時間の男」は、いまや心ゆくまで月光を愉しんだ。

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