第7話Regrets - 未練

7.


"知らなかった夫の顔7"



== 樋口眞奈 ==



 このままでは余りに自分が可哀そ過ぎる。

 まだ35才なんだよ?


 会社の帰り道、久しぶりに昨日覗き見た夫の送ったLINEの内容を

思い出して、私は商店街を抜け少し坂道を上った場所にあるお寺に

差し掛かると脚を早め、人気の無い境内のほうに向かった。


 境内に入るまでの間にすでに私の眦からは涙が零れていた。次から

つぎへと湧き出るかのように止まらない涙の粒。


 涙を零しながら大声を出せる場所はないかとキョロキョロ探した。

 見つけた! どうしてこんな場所にって思う大きな土管が転がって

いた。何という、まるで私を待っていたかのようじゃないか。


 即座に私はその土管の中に入り、「馬鹿っ瑛士のバカ」と叫んだ。

 

「いつもはやさくして私だけの瑛士なのにどうしてこんなに私を

苦しめるの? どうして知らない女性おんなと仲良くして盛りあがったり

できるの?」


 そう呟くと声に出して号泣した。



 きっともう私のことなんて愛してないんだ、だから平気で他所の女と

仲良くできるのね。


 幾ら考えてみても・・

 良いように考えたいと思っても・・


 行きつくのは今回もそうだった。


 幾ら考えても夫の一番愛しているのが自分であるという結論には

悲しいけれど辿り着けなかった。


 最愛のひとの側で暮らしているというのに半年前のあの日から

私はちっとも幸せじゃない。それこそ不幸ど真ん中の女だ。自分だけを

見てくれていると信じて12年間世界一の幸せ者と思っていた自分は

とんだピエロだったってわけだ。


 そう思うと更に涙は止まらなくなっていった。

 だめだ鼻水が・・確かティッシュが鞄の中に・・。




 -眞奈は鞄の中、ティッシュを求めて探した。


 あった・・ティッシュを見つけた眞奈は思い切り洟をかんだ。さぁ鼻の中も

すっきりしたし、ハンカチで涙を拭い元気な振りの自分で夫の居る

我が家へ今日も帰らなきゃとそう思い、ヨイショと土管の外へ出た。


 外に一歩踏み出した眞奈の前には1人の僧侶が立っていた。





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