返信
耕助は煙草をふかし、茶をすする。フェリアの手元が光る、転移魔導だ。参謀本部へ宛てた手紙の返信である。
「ジュビネ様より伝達です。骨拾いを了承、百人隊を回すのでその食糧は必ず送るように、とのことです」
「命令に従うようですね、良かった。これに応じないとなれば処罰しなければならないだろうと思っていたので」
ヘルサが安堵を顔に浮かべる。
「そうですね、一段落ついた。ジャガイモ一人三個を一食、それを三食。九〇〇グラム。百人だから九〇キロ。問題はない量だ。フェリアさん、アノン家にジャガイモを送るよう指示を」
「調理済みの物を送った方が宜しいでしょう。ダスクが連れてきた輜重兵には良い経験になる」
壁際に控えていたジュセリが口を挟む。
「それに未調理のジャガイモの食べ方を前線はしらない、調理は必須です」
「じゃあ、それも書き加えて」
「畏まりました、今領主に宛てるジャガイモ見学会の魔導文が書き終わりますので少々お待ちを」
フェリアは便せんに書き付ける速度を上げる。一気に書き終え、雑な作りの紙を取り出しちゃちゃっと文を書いて転送する。
「ジャガイモ見学会の通達は完成したんだね」
耕助は紫煙をふかしながらフェリアに尋ねる。
「はい、閣下。四四の領主に宛てた魔導文は書き終わっています。後は転送するのみです」
「徹夜で書いてたもんね、ありがとう。眠かったら寝ても構わないよ」
耕助も夜中に目が覚め、フェリアが夜通しで作業していたのは知っている。耕助は若干眠気を覚えている、どこか気だるい。
「いえ、この程度であれば大丈夫です。お心遣いありがとうございます。では転送を開始します。この部屋で全て送るとなると魔導陣が眩しいと思いますので部屋に下がらせて頂きます」
フェリアが手紙の束を集め、盆にのせる。
「では失礼いたします」
フェリアは一礼し、退出する。
「そうだ、ユミナさん。フェリアさんとヴェルディさん送ってくださってありがとうございます。助かりました、私は文章書けないし、貴族の儀礼も知りません。フェリアさんは文章作成に魔導と大助かりですよ」
耕助はユミナに軽く頭を下げる。
「この館に一人のメイドでは大変だろうと思ってな。存分につかってやれ、彼女らは王都にあって暇をしていただろう」
ユミナは笑みを浮かべ、煙を吐き出す。
「まだ女中さんの使い方ってのがイマイチわからないんですが、仕事は多いでしょう。日常の世話から、文章の作成、転送魔導とやることは山積み」
耕助は残り少なくなった煙草をもみ消し茶を飲む。熱かった茶は冷めていた。
「さて、話をまとめましょう。肥料、化学肥料は先ず無理そう。人糞を使った肥やしの作成はユミナさんが受け持って、加速魔導を使う。全国で植え付けするまでに間に合いますかね」
「加速魔導さえ使えば直ぐにできるだろう。この陽気だ、藁と一緒に積み上げてしまえば直ぐに発酵が始まる」
「ではその肥料は全国で植え付けをするまでに各所へ転送して使うと。リンはゴブリンの骨粉を作る。骨は焼いて粉々にしないといけないけど、どうしようかな」
「我が家のメイドにリンタという者が居たのは覚えておいでで?」
ヘルサが耕助に尋ねる。ヘルサは空になったティーカップを示す、ヴェルディが茶を注ぐ。
「ええ、赤髪の。その娘がなにか」
「彼女、火炎魔導の使い手です。骨を焼くのであれば彼女を使えば宜しいかと。粉砕にはペスタを」
「ふーん、火炎魔導ね。これで骨粉はいつでも作れる。前線から骨が送られるのを待つばかり。それで輪作は白スミナ、ジャガイモ、豆、黄スミナの順番で植え付け。これは貴族のジャガイモ見学会でも知らしめると」
耕助は茶をすすった。口を潤し、耕助は言葉をつづける。
「見学会は二週間後にアノン家で開く。自由農民はその時に説明すればいい。ジャガイモの収穫高を見せつければ物納制にも賛同が得られる筈」
「根回しはしておいた」
ユミナが口を挟む。ユミナは新しい煙草を取り出し、炭で火をつける。
「ただし、身分制の改革とまでは書かなかった、物納制の税制改革に留まると。書面で身分制を語ると唐突すぎるだろう。それに農奴が土地を持った所で農業を行うのには変わりはない」
「ありがとうございます。まぁ、これは農民のインセンティブとやる気を高める為の政策です。だから身分は余り変わらないってのも事実ですし、その根回しで大丈夫だと思います」
「自由農民については根回しが済んでいる。あとは魔導師の派遣か、加速魔導はダスクさんが手配してくれている。斬撃魔導師はどうなっているんだろう」
「ダスクが檄文を送っていたな、効果はあったのだろうか」
(ユミナも斬撃魔導のスラッタ派に宛てた手紙を見ていたのか)
「わからないですね、当初反発があったのは確かです。自由農民を普及させるなら既存の荘園では土地が狭いでしょう、輪作も行う訳ですし。そうなると新たな土地を開墾しないといけない。斬撃魔導師の協力は不可欠。ヘルサさん、ペスタさんにどれ位協力を仰げそうか魔導文で確認を」
「わかりました」
ヘルサは筆をとりだし文を書く。パパッと書いて転送。
「後は、何か確認することはあったかな」
「こんなもんだろう、後は見学会でどれだけ領主にインパクトを与えられるかだ」
ユミナは煙草をふかす。窓を開けた部屋に涼しい風が吹き込んだ。
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