「話」ができない

向日葵

第1話

「やっぱりこれは、もっとこうした方が良いと思う。カバちゃんの言う通りにしようよ。」

 まただ。キリンちゃんは、何でもカバちゃんの意見なんだよな。

 「じゃあそおゆうことで、こぶたちゃんやってくれる?」

 そして私に、毎回やらせようとしてくる。

 「そのことは、前に皆で集まった時に決めたよね?何回も言ったよ。ノートにも書いてるよ。」

 そして私は キリンちゃんに言う。

 「私は カバちゃんに言ってって言われた事を、そのまま言ってるだけやから。」

 また キリンちゃんの言い訳が始まった。

 もういつもの事だ。すでに決まっている内容でも、毎回こんな感じで 話を戻そうとするので、全然前に進まない。もういい加減 記録したノートを捨てようかと 何度も思った。

 

 ここは 動物学校。私たちは 年一回開催される、お楽しみ会の実行委員になったのだ。そのお楽しみ会には、毎年 動物学校の先生や お世話になった人たちが たくさん来てくれる。お楽しみ会をどのようにするのか考え、当日 お客様たちをおもてなしするのが 私たちの役割だ。

 しかし お気づきの通り、お楽しみ会の実行委員は 全くまとまっていない。

 

 「こぶたちゃんがリーダーやから、私は カバちゃんが言った事を、こぶたちゃんにやってほしい。」

これも キリンちゃんの いつもの言い訳。

 「もう決まった事やから、私は 前に決まった内容で 話を進めるよ。今更 内容変更なんてしないよ。」

 そもそも 『リーダーやから』という 理由が分からない。

 目の前にいるカバちゃんが、キリンちゃんを通して 意見を言う理由も分からない。

そもそもキリンちゃんが、カバちゃんの代弁者をする理由も分からない。

 こんな感じで いつも委員会の集まりは終わる。

 委員会が終わった後は、カバちゃんが 少し離れた場所に キリンちゃんとタヌキちゃんを呼んで、何かを話している。もう毎度の光景なので、なにも言う気が起こらない。

 

 委員会のメンバーは 全員で6人だ。

 こぶた、カバちゃん、キリンちゃん、タヌキちゃんの4人以外に、コアラくん、カンガルーくんがいる。

 コアラくんとカンガルーくんは、委員会では基本 何も発言しない。

 

 上手くいっていない状況で 本当にお楽しみ会が成功するのか、不安しかなかった。しかし、カバちゃんや キリンちゃんに 何を言ってもムダだと思っているので、改善点が分からない。

 

 お楽しみ会の日が近付くにつれて、カバちゃんとキリンちゃんの行動は、エスカレートしていってた。この頃には タヌキちゃんも加わっていた。

 全員がいる実行委員の集まりで 伝達しても、決まった内容をノートに記載しても、後日「聞いていない」「こぶたちゃんの伝達不足だ」と言い、「カバちゃんが仕切ってくれている」と 3人で勝手に行動するのである。

 カバちゃんの言う事を聞かない私は「リーダーとして 全然動いてくれない」と 3人から言われるようになったが、正直どうでも良かった。もう私も、3人から何を言われても 「それ 前に言ったよね?そんなに偉そうに言うなら、もう 自分たちで勝手にやったら?」と答えるようになっていた。

 

 実は カバちゃんと私は、前は仲が良かったのである。しかし カバちゃんは、他の皆より少し 年齢が上な事もあって、偉そうな態度をとったり 命令口調な所があるのだ。そんな所が嫌になり、距離をとるようになった。

 キリンちゃんが代弁者をする前から 「私が仕切るのが気に入らないのなら、カバちゃんが仕切ってくれて構わない。」と 直接カバちゃんに言っているのだが、その度に 「私は リーダーではないから。リーダーのこぶたちゃんに 仕切ってもらいたい。」と答えるのだ。カバちゃんはいつも 行動と発言に 一貫性がない。『仕切りたい』けれど『それに対する責任』は とりたくないのだろうか。

 

 お楽しみ会が開催される会場と日時は、毎年決まっている。会場設営の担当は 私とコアラくんなのだが、コアラくんとペアになることで、のちに この状況が一変する。

 

 私、コアラくん、委員会の先生と3人で 会場へいき、当日 お楽しみ会を担当してくれるスタッフさんたちと 打ち合わせを行った。そして 後日、他のメンバーも会場へいき、テーブルや椅子の配置などを 確認してもらう事にした。しかし 打ち合わせ内容を伝達しているにも関わらず、会場でも また3人は 勝手に行動するのである。

 本来 私たちもてなす側の料理は 予算が足らず 用意出来ないのだが『それは可哀想だ』と 会場側の好意で用意してくれる事になった。その他 料理の内容や 値段なども事前に打ち合わせしていたのだが、「私たちの料理は 別にいらないので、その分の料理をお客さまに回して下さい。後 料理自体の値段が高いので、クッキーとか そおゆう安いメニューに変更してもらえませんか?」と カバちゃんが直接 会場スタッフさんに言い出し、後の2人が それに賛同しだしたのだ。『勘弁してよ。。』私はとりあえず、スタッフさんを 3人から引き離した。もちろん 内容の変更などしない。

 

 我慢の限界だった為、学校へ帰ってきた後 3人に言った。

 「何回も言うたけど、内容はもう 決まってるんやで。今日は内容変更の為に 3人を連れて行ったんやないよ。」

 なんで 今日に限って、コアラくんと先生は 用事があるんよ。。

 コアラくんと先生は用事がある為、今日は 会場へ 私と いつもの3人、カンガルーくんの 5人で行ったのである。

 「そうなんや。私たちは 内容しらんかった。こぶたちゃんの 伝達不足や。」

 カバちゃんとキリンちゃんが、口々に言った。タヌキちゃんとカンガルーくんは、下を向いて 何も言わない。

 もう本当に うんざりだった。私はそれ以上 何も言う気が起こらなかった。

 

 次の日の朝 学校へ登校すると、教室の隅に コアラくんと いつもの3人が集まっていた。コアラくんは 普段怒ったりしないのだが、どうも 口調がいつもと違っていた。私は 教室に入らず、そっと話を聞く事にした。

 「カバちゃんやキリンちゃんが 『知らなかった』と言ったことは、全部事前に決まっていたことで、こぶたちゃんが きちんと伝達してくれてたよ。ノートにも書いてくれてた。それやのに いつもこぶたちゃんを 皆で『きちんと伝達しない』とか色々責めて 可哀想やろ。いい加減にせえよ。」

 私は 驚いた。昨日の話を きっと3人から聞いたのだろうが、まさか コアラくんが そう言ってくれるなんて 思ってもいなかった。

 「私は カバちゃんから言ってって言われた事を 言ってただけやから。キツい言い方してると思ってたけど、カバちゃんにそう言えって言われてた。辛かったけど、ずっとそれが 委員会の為になるんやと思ってた。でも 全然違うかったんや。こぶたちゃんに 悪いことした。」

 キリンちゃんらしい 言い訳だ。

 「いやいや、キリンちゃんもずっと こぶたちゃんの事言ってたやん。何で私だけが悪いってなるの?キリンちゃんも一緒やん。それに私は 委員会に出れてない日の申し送りは、全部キリンちゃんか タヌキちゃんに聞いてたんやで。きちんと 2人が 伝達してくれなかったからやん。私だけが悪いんじゃない。」

 これも カバちゃんらしい 言い訳。カバちゃんは 委員会を休むことが しばしばあったのだが、休んだ日の伝達は 私からは 聞こうとしない。2人から聞いていたのだ。まあしかし、カバちゃんが委員会に参加している日の伝達でも、カバちゃんには 伝わっていないのだが。

 「だいたい 聞く人が間違ってるんだよ。私たちは リーダーではないから。こぶたちゃんに聞くべきなんだよ。それに意見は、私たちに代弁者をさせるんじゃなく、直接こぶたちゃんに言うべきだったんだよ。だから 揉めるんだよ。」

 キリンちゃんと タヌキちゃんが、カバちゃんに言った。当たり前の事だ。それを 2人は分かっていながら、なぜ今まで カバちゃんの代弁者をしていたのだろうか。 

 「私の意見は全部、皆から言ってほしかったの。こぶたちゃんは、私に対してはキツいし。それに 私とこぶたちゃんでは、冷静に話が出来ないから。」

 カバちゃんが言った。私は カバちゃんに対してだけ、キツい言い方をしているつもりはない。だいたい 冷静な話が出来ないのではなく、カバちゃんはただ、直接私に意見を言って 「それ 前も言ったよね?」と返答されるのが 嫌だっただけではないだろうか。

 「こぶたちゃんより、私たちの方が キツい態度とってたよ。それに 冷静に話が出来ないのは、カバちゃんなんじゃないの?」

 キリンちゃんが言った。まだ話は続きそうだったが、予鈴が鳴りそうだったので とりあえず 教室に入る事にした。私が教室に入ると、4人も すぐに席に着いた。

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