第4話 三大欲求に素直な女神


「もぐもぐもぐ。はむっ。もぐもぐもぐ。ごっくん。うまーい!」


 大通りに面した大きな宿屋兼酒場『回す角には福来たる亭』。

 俺たちのテーブルには豪勢な料理が並べられていた。

 緑や赤の色とりどりの野菜。じゅわっと油が弾ける肉。キンキンに冷えた飲み物。

 ガチャリカは、それらを片っ端から口に入れていく。

 俺は、食後のデザートも食べ終えて、ホロニガ茶を啜っていた。

 カップをソーサーに置いて、


「ガチャリカ」


 と、食べ続けている彼女に声をかける。


「ふぁい。ふぁんへふふぁ?」


「人間の三大欲求って知ってるか?」


「ひってまふ、知ってますよ。ジョーシキです。ジョーシキ。あ、カツキさんってば、知らないんですか? しょーがないですねぇー、教えてあげましょう!」


 フフン、とガチャリカは得意げに胸を反らした。

 唇の端にべったりとソースをつけたまま言ってくる。


「食欲。睡眠欲。そして――そう! ガチャ欲です!」


 俺はうなずいた。


「そうだな。この世界には性欲がないらしいからな。いや、あるにはあるが、とても弱いんだったかな?」


 だい女神から、そういった知識も与えられていた。

 この世界で人間はガチャから生まれてくる。

 二人の人間がいっしょに特別なガチャを回すことで誕生するらしい。


「セーヨクってなんですか?」


「で、だ。その三大欲求は、こう言い換えることもできる。『生きるために必要な欲求』と」


「無視しないでくださいよ。セーヨクってなんですか?」


「だが、そのうちガチャ欲は緊急性が低い。睡眠欲と食欲を満たせる環境にあれば、ひとまず置いておけるものだ」


「教えてくださいよー。セーヨクー」


「はいはい。あとでな。話を戻すと――弱っているときにガチャ欲は働きやすいんだ。肉体的に弱っているときはもちろん、精神的に弱っているときもそうだな。本能が自分の生きた証を求めようとするわけだ」


「スヤー」


 と、ガチャリカは座ったまま目を閉じて寝息を立て始めた。

 なので俺は、ぼそりと言ってやった。


「限定ピックアップ」


「どこですか!? なにですか!?」


「おはよう」


「ハッ! 騙しましたね!」


「寝るなよ」


 俺がじとっとした視線を向けると、ガチャリカはむーっと唇を尖らせた。

 そっぽを向いて頬を膨らませる。


「……だって、そんな理屈はもういいんですよー。うんざりなんですよー。どーせアレでしょう? わたしのこと、病気みたいに言うんでしょう? 満たされない心をガチャで満たしてるかわいそうな女神だって言うんでしょう? 真人間はみんなそう言うんですよー」


「そんなこと言ってないだろ」


「言うんですよー。知ってるんですよー」


「俺は言わないよ。ただ、ガチャリカ。お前の心が弱ってるのは本当だ。だが、それはお前がおかしいからじゃない。ガチャとの付き合い方――必勝法を知らないからだ」


 ガチャリカはちらりと俺を見た。


「ガチャの、必勝法……?」

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