42 女子 VS 男子
眞奈たちがツリーハウスを後にすると森はずいぶん奥深くなってきた。
「なんかちょっと寒くなってきたね」、眞奈はさっきは暑くて脱いでいたパーカーを着出した。
「あら、やっぱり霊気を感じる?」、レイチェルは面白そうに言った。
「霊気?」
「教会とお墓が近いから、霊を感じるんじゃないかってことよ」、クレアが笑いながら教えてくれた。
「このへんに教会があるんだ?」、眞奈は聞いた。
「ウィストウハウスのプライベートチャーチがね」
「そういえば、ウィストウハウスでは一族専用の教会を持っていたんだっけ。いかにもお金持ちの貴族って感じよね。プライベートチャーチって入れるの?」
「いや、封鎖してるんで入れない」、マーカスは言った。「教会はもう何十年も前から閉め切ってて出入り禁止なんだ。そのまま荒れ放題になっている。ゴーストが出る要素がアリアリだろ?」
そんなアリアリなんて楽しそうに言わなくても……と思いつつ、眞奈はふと木々の隙間から何か白いものが動く気配を感じた。
眞奈は目をこすって二度見した。
それでもやっぱり何か遠くに白いものがゆらゆらしている。
「あれは何かな?」、眞奈は白いものが見える方向に歩いた。
「なんだよ?」
「どうしたの?」
ウィルやマーカス、レイチェルたちも眞奈の後について行った。
眞奈はもう一度目をこすって見た。白いものが揺れているのは事実だった。
よく見ると、一つだけではない、右に一つ、左に一つ、奥にもいくつか……。まるで霊魂がゆらゆらこちらを見つめているような……。
まさか、白いお化け?
「あ、あれ、な、何?」、眞奈は青ざめながら指を指した。
「いやだ、マナ、霊なんて冗談よ。ごめん、私が悪かったわ。怖がらせるつもりはなかったの」
「で、でも……」
「ごめんね、マナ」、レイチェルは眞奈が本気なのを見て吹き出しながら謝った。
「レイチェル、あれ見て!」、眞奈は、逆側を向いていたレイチェルの肩を力まかせにつかんで白いお化けの方に彼女を向かせた。
やっとそれらに気がついたレイチェルは鋭い悲鳴をあげた。
「きゃぁああ」
今度はその悲鳴に驚いた眞奈とイザベルとクレアも連鎖して悲鳴をあげた。
そのとたんにマーカスとフレディとウィルがゲラゲラ笑い出した。
「大丈夫だよ! そばに近づいてよく見てみなよ、クモの巣だから!」、マーカスはお腹を抱えて笑いながら言った。
気を落ち着けてじっくり見ると、枝と枝の間に巨大なクモの巣が張ってあり、白い糸が風に揺れている。
「なーんだ」、眞奈はほっと一息ついた。
「べつに僕たちが仕掛けたわけじゃないよ。大きなクモが大量発生して糸を張ってたんだ。僕らも最初見たときはびっくりしたんだよ」
マーカスたちが最初ツリーハウスをつくりにここに来たときは、時間が遅く薄暗かった。辺りは頼りない月光だけで、広がっている糸の白色が青白い蛍光塗料のように光って見えた。彼らはほうほうのていで逃げ出した。そして次の日の昼間、恐る恐る確かめに行ってみるとクモの巣だったというわけだ。
三人は自分たちが驚かされたので、今日の丘歩きではぜひとも女子も驚かせ怖がらせてやろうと考えた。
作戦は大成功だった!
「ああ、腹いてぇ」、とフレディとウィルも大笑いし続けている。
「おい、ちゃんと動画撮ったか?」
「撮った、撮った」、ウィルがいつのまにかカメラを手にして動画をチェックしていた。「お、ばっちり映ってる!」
「怖がってるレイチェルの顔、笑えるなぁ。みんなにも見せよう、きっと大ウケ間違いなしだよ!」、マーカスは笑いが止まらない。
「いつもやられっぱなしだからな、たまにはやりかえしとかないと」、フレディがレイチェルに目くばせする。「怖がったところがかわいかったよ。普段見たことないから、特に。たまにはそういうところも見せればいいのに」
フレディはわりと本気で言ったのだが、それがさらにレイチェルの怒りをあおった。
「ちょっと、どういうつもりよ!」、レイチェルは激怒している。
ところが思わぬところに伏兵がいた。
「そうはさせないわよ」
そう言いながら、クレアがウィルのカメラを彼の背後からさっと奪った。
ウィルは、まさかいつもおとなしいクレアがそんなことをすると思っていなかったので、完全にウィルの不覚であった。
あまりに簡単にお宝を奪われた男の子たちはぽかんとしたままだった。
「さすが、クレア・マイ・ラッキースター!」、レイチェルは叫んだ。「クレアはみんなのラッキースターなのよ。ここぞというピンチに奇跡を起こすの」
レイチェルにとってはラッキースターだろうが、男の子たちにとってはデビルなのではないか……、眞奈は思った。
形勢大逆転!
「さぁ、どうやって仕返ししようかなぁ」
レイチェルが不気味に計画を練り出すと、男の子たちはいたずらを後悔しはじめた。
「レイチェル、悪かったよ、ごめん」
フレディが男子を代表して謝っても、彼女は薄気味悪く笑って相手にしなかった。
「もういつも揉めるんだから……」、イザベルは呆れたように言った。「揉めごとはもうたくさんよ。フレディ、マーカス、ちゃんとレイチェルに謝ってちょうだい。それにこのことでお互いやりっこなしにしてね。レイチェル、あなたもよ。クレア、マナ、レイチェルの仕返しを止めてね」
クレアはレイチェルに聞かれないよう唇で『わかったわ!』とイザベルに知らせた。
眞奈はレイチェルを止めることなんぞ無理だと言いたかったが、今クレア・マイ・ラッキースターの鮮やかな手腕を見せられたので、クレアと一緒なら不可能も可能なのかもと思い直した。そしてイザベルに「了解」とうなずいてみせた。
「もう、早く行きましょう! 六時までにはヘレンの家にたどり着かないといけないんだから。遅れちゃうわよ!」、イザベルは男子も女子も追い立てた。
眞奈は首をかしげた。
今、何か変な言葉が耳をかすめたような……、ヘ、ヘレンの家って言わなかった? これからヘレン・ハドソンの家に行く!?
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