2#湖に墜落したハクチョウ

 ・・・・・・




 ・・・あれは、女王様もとい、オオハクチョウのメグが丁度群れのリーダーの立場として仲間と飛んでいた時のこと。


 「あっ!隊長!!いっぱいの風船が!目の前にせまってきます!!」


 「何ぃ?」


 ハクチョウの群れの飛ぶ目の前に、10個ほど束に結わえられたカラフルな風船が飛んでいたのだ。


 「回避!!」


 リーダーのメグは仲間に号令をかけた。


 「回避!!」「回避!!」


 群れの仲間は次々とおのおのに、命令が伝達された。


 しかし、風船の束は突然の風に煽られて、リーダーのメグに迫ってきた。


 「リーダーあああああ!!」


 「危ないっ!!!!」




 ・・・・・・




 ハクチョウのリーダーのメグは、とある湖に墜落した。




 ばしゃーーーーん!!




 ・・・・・・




 「こ、ここは何処なの・・・???」


 メグは辺りを見回した。




 ここは、霧が立ち込める静かな湖。




 辺りには、誰もいない。




 あるのは、廻りに生い茂る鬱蒼とした森があるだけ。





 「うんとこしょ!皆にはぐれたわ。どうしましょ。」


 ハクチョウのメグは、再び空を飛ぼうと大きな翼を拡げた。


 ぐうっ!


 「?!!!」


 翼は動かない・・・


 ぐうっ!ぐうっ!ぐうっ!ぐうっ!


 「何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?何で?」


 メグ女王様は翼を見た。


 「えええええええ!!」


 メグの翼には、あの10個程の束に結わえられた風船の紐ががんじがらめに絡まっていた。


 「どどどどどどうしよう!」


 メグの頭はパニックになった。




 メグは、恨めしく空を見上げた。


 「みんな・・・どうしちゃったのかな?私が居なくなって、困ってるだろうな・・・。

 少なくとも、あの群れにはあたいを蹴落としてリーダーになろうとする『あいつ』が居るから、厚かましい『あたい』が居なくなって羽根を伸ばして、代わりにリーダーになったのかなあ?

 あたいの代わりなんか、ゴマんといることだし・・・」


 メグは、何か悟ったようにじっと空を見詰めていた。


 「・・・・・・」

 だが、気持ちよさそうに他の鳥がハクチョウのメグいる湖を飛んでいくのを見ていくうちに、段々感極まってきた。


 「あ、あたいが何をしたっていうの・・・!!ただあたいは、みんな率いて遠い国へ旅立っている最中なのに・・・!!」


 メグの目にはボロボロと大粒の涙が溢れだし、やがて嗚咽にかわった。




 うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!




 メグは大声で泣いた。




 湖中を響き渡るように、




 森中を響き渡るように、




 ハクチョウのメグは、激しく泣きはらした。




 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!




 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・


 ぽーーん・・・




 メグを墜落させた束の風船が、そよ風に煽られて体に優しく触れた。




 「こいつ・・・全部こいつのせいよ・・・!!」




 メグは、涙が枯れて腫れ上がったつぶらな目で、太陽の光で光って見える無数の風船を睨み付けた。




 「・・・風船・・・」




 ハクチョウのメグは、風船の1個を嘴で手繰り寄せて、じっと見とれた。




 嘴の鼻で臭いを嗅いでみる。


 ゴムの香ばしい匂いがした。


 嘴で突っついてみる。


 フワフワ揺れた。


 嘴で撫でてみる。


 キーキー音がした。


 


 メグは物凄く興奮した。




 「・・・風船・・・」





 ハクチョウのメグは、湖面を掻いていた鰭脚を挙げ、尾羽をポンポンと触れる風船を鬱陶しく払った。




 ぷすっ。




 「?」




 ぱぁーーーーーーん!




 「きゃああっ!」


 ハクチョウのメグは、突然風船がパンクして激しく仰天した。


 メグは、ぼろ切れのようになって湖に漂う風船の破片を見た。


 「ふ、風船って、こんなに怖い物だとは・・・!!」


 メグは恐々、風船の下のくぼんだヘソ・・・吹き口を嘴でムギュッ!と噛んだ。




 ポロッ。




 風船の吹き口を止めていた栓が、外れてしまった。




 しゅーーーー・・・



 風船がみるみるうちに萎み、中のヘリウムガスが、くわえていたメグの嘴を通して、気嚢へ、そして、肺の中に入っていった。


 「こおーーーっ?こおーーーっ?」


 ハクチョウのメグはビビった。


 何故なら、声が半音上がったように変になってしまったからだ。


 「困ったなあ。よおし!かくなるうえは!!」


 ハクチョウのメグは、今度はくわえていた風船の吹き口から吐息を『逆流』させてみた。




 ぷぅーーーーーーーーーっ!!




 小さくなった風船は、ハクチョウのメグの吐息で、どんどんどんどんどんどんどんどん満たされ、どんどんどんどんどんどんどんどん大きく大きく大きく膨らんでいった。




 「ほっぺた痛いなあ。」


 ハクチョウのメグは息を鼻から思いっきり吸い込み、頬をパンパンにはらませ、顔を真っ赤にして、





 ぷぅーーーーーーーーーっ!!


 ぷぅーーーーーーーーーっ!!




 と、更に更に更に更に大きく風船に吐息を吹き込んだ。


 「風船って、いったいどのくらい膨らむんだろ?」


 と、オオハクチョウのメグは思っていたとたん、




 ばぁーーーーーーーーん!!




 と、激しいパンク音が湖に、森林に轟いた。


 「わーー!!割れちゃった!!割れちゃった!!割れちゃった!!割れちゃった!!」


 ハクチョウのメグは、激しくおののき慌てふためいた。


 「と、いうことは・・・」


 メグは、嘴で体に絡み付いた全部の風船を束ねると、嘴でどんどん風船の吹き口の栓を外し、




 ぶしゅーーーーーー!!ぶおおーーーーーしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅるしゅる!!




 と、風船ロケット遊びをしたり、嘴で萎んだ風船を大きく膨らましたりして、ハクチョウのメグは翼に絡まった紐からくる激痛を忘れて、無数の風船で遊び呆けた。




 ・・・憎たらしいと思ってた風船が、こんなに素晴らしくて不思議なものだとは知らなかったわ・・・!!




 体に絡んだ風船は、1個1個にメグの吐息が与えられ、膨らみ、萎み、やがて伸びきり、パンクしていくうちに、どんどんメグは風船に魅了されていった。


 ハクチョウのメグは、やがて疲れがドッと出て風船に抱かれてぐっすりと眠りこけた。



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