近未来形の話をしよう

阿井上夫

第一回 政府の閣議決定によると

 政府は十二日、所得税、住民税、および消費税の納税総額によって、公共サービスや公共施設などの利用を優遇する高額納税者優遇措置法案を閣議決定した。本年度中の制度開始を目指す。同時に公共サービス利用枠の売買制度を創設し、低所得者層の収入源を増加させる一方で、生活保護制度の縮小につなげたい考えだ。


 マイナンバー制度の浸透に伴い、カードを使用した購入実績からの消費税総額が把握できるようになったことから、以前より納税者の中から「納めた金額に見合った還元があってしかるべきではないか」という声は高まっていた。年間納税額が百二十万円を越える納税者は全国に約九十一万五千三百人(二〇二〇年度)いるが、支払った税額に対して実際に受けられるサービスの還元率は、平均して五十パーセント以下に留まるという総務省の調査結果がある。年々増加傾向にある生活保護世帯などの場合には、還元率が完全に逆転していることから、受益者負担、負担者還元を求める声がより一層高まっていた。その中での閣議決定となる。


 具体的な優遇措置として「税務署職員の訪問による確定申告手続き」や「運転免許更新時の専用窓口利用」などの、利用者が集中する手続きでの専門サービスや、「図書館の新刊優先予約」や「公民館先行予約」などの施設利用における先行手続きなどがあげられているが、年間納税額が一千万円を越える納税者に関しては、さらに「警察官による自宅付近の定期巡回」や「有人式一般速度取り締まり(いわゆる“ネズミ捕り”)情報のメール送信」などがオプション設定されているといわれている。


 新制度の開始と同時に、公共サービスを利用しない者からの「優遇があるならば還付もあってしかるべきだ」という声があることを考え、指定業者による公共サービス利用枠の個人売買を認める方針である。例えば市民病院を利用しない場合には、その利用枠を月額三千円換算で売却することが可能となり、一般的な国民がそれによって得ることが出来る最大の金額は、概ね十二万円となると試算されている。従って、同制度の開始後は、生活保護費の大幅な削減が行われることとなり、試算結果ではサービス利用枠の売却額と新制度による生活保護費が現行水準とほぼ同額になることが示されている。


 なお、新制度に対しては「タバコ税や酒税は年間納税額の基礎には含まれないのか」との批判が根強く残っているが、政府は「嗜好品は含まない」として、却下する方針を崩していない。


( 終わり )

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