斬りますか? 斬りませんか?
@atara
第1話 プロローグ
こんな噂を知っているだろうか。
満月の夜に、鏡に向かって3度願い事をするとそれが叶うと言う。
ただし、 もしも誰かに願い事を口にしている所を見られると、逆にその願いは永遠に叶わなくなる。
◇
少女は、空に浮かぶ月を見て、ふとそんな噂話を聞いたのを思い出した。
他愛もない、よくある子供の噂話だ。
それを聞いた時、少女は鼻で笑ったものだった。
そんな事で願いが叶うなら、どれだけ世の中楽かと。
けれど。
頑張っているのに、最近は上手く結果が出ない。
それは、普段なら気にもしない、他愛のない噂話を思い出すぐらいには。
もしも、本当に願いが叶うと言うのなら。
願ってもない話ではある。
まあ、試すだけならタダかと少女は懐から丸い手鏡を取り出して蓋を開く。
時刻は七時を過ぎた頃。
夜の学校は、得も言われぬ不気味さがある。
辺りは、しんと静まり返って少女の他に人影はない。
同級生は先に帰っていて、少女ももう帰る予定だ。
鏡をジッと見つめる。
鏡の向こう側では少女自身が、真剣な目で彼女を見つめ返していた。
「私の願いは─────」
囁くように、三度少女は願いを口にした。
「………なにやってるんだろう、馬鹿馬鹿しい」
鏡の向こうでは、呆れた顔をしている自分が見つめかえしてきている。
パチリと手鏡を閉じて、少女は苦笑した。
少女は気を取り直して、帰ろうとした。
「え?」
と、その時少女は、校舎のガラスに映る自分の姿を見た。
笑っている少女自身。しかし、その姿は決して同じではなかった。
いま、少女は笑ってなどいない。
では、笑っているこの姿はなんだ?
一歩踏み出し、ガラスに映る自分の姿に近づいた。
なぜそうしたかはわからないけど、少女は虚像に手を伸ばした。
虚像もまた、少女と同じ動きをする。
少女の手がガラスに触れる。
ひやり、と冷たい感触が手に移る。
「───」
鏡の中から手が伸び、少女の手をつかんだ。
ギョっとして、その手を振り払うとしたが、万力で絞められたかのようにびくともしない。
鏡に映った虚像を見ると、それはもはや少女自身の姿をしていなかった。
ドクン、と心臓が1回大きくはねる。
そして少女の意識はそこで途切れた。
◇
お呪いは、呪いと同じ。
もし失敗したら、それは自分自身に帰ってくるのだから。
そのお呪いは、誰にも見られてはいけない。
それは、自分自身も見てはいけないと言う事だ。
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