67限目 欺き

 少し前。



「ちょ、ちょっと美月ちゃん!? 何やってるの!?」


 灯里には理解ができなかった。

 美月の突然の奇行。その腰にぶら下げていたサブマシンガンを、壁にぶっ放しているのだ。


「ほら、みんなも、反対側の窓から適当に打って」


 そう言いながら美月は、今度はショットガンに持ち替えて、適当に数発、壁に向かって発射している。 部屋の中を射撃音がつんざく。


「ちょっと櫻井さん、その行動に一体なんの意味が……」


 困惑する灯里と琢磨。

 そんな中、悠珠が言った。


「――なるほど、そういう事ですか。では私はこれで」


 悠珠はそういうと、先程の死体から回収したハンドガンに弾を込めて、数発、やはり斜面とは逆の方向に撃ち放った。


「ほら、夏休み前にさ、太センセのプレイ、見たじゃない?」


 そう言いながら美月は、場外へと手榴弾を投げつける。


「あのときのこと、聞く機会があったから、聞いてみたんだけどさ。センセ、こう言ってたんだよね」


 山の斜面を転がっていったそれが、爆発する。


って」


 そのかたわら、悠珠は入り口側の扉を開けたり締めたり、上空へハンドガンを発泡したりしている。 天井はすでに穴だらけだ。


「そのあと先生が見せてくれたプレイも印象に残っていてさ。誰かを倒して安心しているヤツって、スキだらけなんだよねって」


 少しの沈黙の後、琢磨が続いた。


「確かにあのとき、敵を倒してアイテムを漁っている相手を二人も倒してた。そして何により――」


「――斉藤先生がられたのも、敵を倒した直後だった」


 灯里も、その光景を思い出していた。


「人って多分、そんなに長時間、集中を保てないんだよね。あそこで狙撃しようとしている人だって、その仲間だって、私達の行動から目が離せないから、疲れてるはず。そんなときに、私達が戦闘を開始したら、どうすると思う?」


 美月の言葉に、灯里と琢磨は目を見合わせた。


「勝利が決したそのスキを狙って――」


「――漁夫の利を得ようと、攻めてくる」


「そゆこと」


 琢磨と灯里の得心を見計らって、悠珠が解説する。


「相手から見た状況を整理してみましょう。現在この場所には、四人分の敵と物資があります。その物資は、予めここで隠れていた二人分が上乗せされていますから、合計六人分。それは敵には十分魅力的に見えると思います。とはいえ、敵も生きているわけですから、そこに攻め入るリスクもありますし、無理はしないでしょう。しかしそこへ、他のチームが攻めてきたとなると、最大で十人分の物資が一箇所に集うことになります。それは勝利を盤石にさせるのに十分な物資の量です。相手はこの場所を無視出来なくなります」


 美月が続いた。


「だから私達が、敵から襲われたーって雰囲気を出せば、敵さんは自分からやってくる、って思って」


「敵との距離を三百メートルと仮定すれば、彼らにも十分銃撃音が届くはずです。当然、美月さんのように自ら無作為に発砲する人がいるとは思わないでしょう。音が重要なPSBRで、そんな自殺行為をこの大会の舞台でするなんて普通は考えません。そこに、銃撃。戦闘が開始されたのだと錯覚する。敵は必ず、こちらに攻めてきます」


「相手は強いと言っても、私達と同じ高校生だよ? ひっかかると思うなー」


 二人の息の合った説明に、琢磨も灯里も納得したようだった。


「なるほどね。うん。わかる。わかるよ」


「美月ちゃん、凄い。とっさにそんな事考えるなんて。うち、美月ちゃんが気でも触れたのかと……」


「えー! 灯里センパイ、ヒドイ!」


「ごめんごめん」


 緊迫した雰囲気から一転、女子高生のいつもの和やかな雰囲気に包まれる。


「わかった。美月ちゃん。その作戦、すごいよ! うち、感動しちゃった! 早速、決行します!」


「そーこなくっちゃ!」


 灯里と琢磨も、まるで屋外の敵と戦闘しているかのように、計画的に弾丸を発射していった。


「後は待ち伏せですが……美月さん、スモークを」


「はいよー」


 悠珠が開けた扉から、美月がスモークグレネードを転ばせた。炸裂したそれは、玄関口周辺にモクモクした霧を発生させた。煙に包まれて、外からは玄関を見つけることは叶わないだろう。


「こうなれば、敵が攻めてくる所は限定されています。斜面側には扉がありませんので、内部を射撃可能な場所は窓に限定されます。そのうち、スキをさらさずに襲撃できる、つまり、です」


 部屋には四つの窓と、玄関があった。玄関は斜面下方を向いていて、敵とは真逆。敵がこちらの誘いに乗ったなら、玄関側にはまだ第三の勢力が潜んでいると考えているから、そちらから攻めてくることは無い。一つの窓も同じ向きなので除外される。


 残り三つの窓のうち、二つが斜面上方、つまり先程から狙撃の気配を醸し出している敵軍のいる方向を向いていて、うち一つは木が生い茂って斜線は塞がれている。となれば、。奇襲を掛けるなら、狙撃とはまた関係の無い方を向いている最後の窓、東を向いた、崖に覆われたこの窓の可能性が高い。


「相手が上級者なら、建物の形を理解して攻めてくると思います。この東の窓からでは玄関側を狙う事ができないので、突撃が一人じゃないなら、その木で覆われた窓から二番手が入ってくるはずです。そうすれば、この建物内すべてを、斜線内に収めることができますから」


 

 そして、悠珠の言う通りになった。



「――来たよ。足音聞いて」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る