63限目 ファーム&ゴー
落下した場所はマップ南西側の廃村跡だ。
かなり早い段階での降下だったので、相当に西側へ来ることへ成功している。もとから不人気スポットということもあって、序盤のアイテム集めには苦労しなさそうだ。
「灯里、北の空を見て」
琢磨が言う。灯里がその方を見れば、落下傘を背負った四人組が、山の影に消えていくのが見えた。
「恐らく彼らがもっとも僕たちに近いよ。覚えておこう」
「わかった」
この廃村は戸建ての建物が少なく、そしてほとんどが半壊している。周囲の森の木が木炭と化していることから、火事によって崩壊したのだという歴史が透けて見える。
都合、視界を遮るものが少なく、遠距離武器を持つ相手と遭遇した際に分が悪い。
「こちら神埼。倉庫型建物に物資を発見、回収中」
「民家に武器が少しあるよ。サブマシンガンとショットガン」
先行して建物内に侵入していた悠珠と美月が報告する。
「わかった。美月ちゃんはそれを両方持って次の建物へ、悠珠ちゃんの方にはうちとたっく……井出君と向かいます」
灯里が的確に指示をしていく。
周辺には合計五つの建物があった。大型の倉庫型建物に民家型が二つと、土台だけになってしまった建物跡、そして天井が吹き飛んでいる小型物置だ。順に巡っていき、それぞれ獲得したアイテムを持ち寄り、倉庫型建物内に集合する。
結果として、ショットガン二丁、サブマシンガンが三丁、アサルトライフルが一丁、スナイパーライフルが一丁。そして手榴弾が二つ。他には少量の回復アイテムが手に入った。
「きついな」
琢磨が言った。
「やっぱりこの場所だと、遠距離武器は手に入りにくいね」
「井出先輩。その中でもスナイパーライフルが手に入ったのは大きいかと」
「そうだね、そこは前向きに考えていこう」
手に入ったスナイパーライフルは、「マクミランTAC-50」。本ゲームにおいて最も基本的な狙撃銃だ。ボルトアクションによる高精度がもたらす遠距離狙撃のアドバンテージは大きい。日頃より狙撃が安定する悠珠が装備することとなった。
「じゃあ、あたしはこれ」
美月は迷わずショットガンとサブマシンガンを選んだ。ショットガンは「スパス12」。射程も短いが、高い威力と装弾数を持っている。
サブマシンガンは「UZI」。本作の中では最も普遍的で汎用的な性能を持っている。灯里が手にしたのも同じものだ。
「じゃあ僕はこれで」
琢磨が手にしたのは、シューターの花形、アサルトライフルだ。機種名は「九十八式自動小銃」。自衛隊で採用されるメイドインジャパンの突撃銃で、ゲーム内では特別強い武器と認識されていないが、日本製らしく、抜群の命中精度がある。どちらかと言えば、狙撃向きだ。
「あとはスコープ類が足りないね」
マクミランが手に入ったのは幸運だが、肝心のスコープが無かった。これでは遠距離を捉えられず、せっかくの狙撃能力が生かせない。
「攻めるしか無いね」
画面右上には、生存人数が表示されている。現時点ですでに七十。大会なので皆慎重だから、普段のオンラインプレイよりは遥かにゆっくりとした推移ではある。しかし、試合開始からの経過時間は、わずか五分だ。既に数チームが脱落し、メンバーが欠けた状態でプレイしているということだ。
周辺には、この建物の他に物資が落ちている場所が無い。建物内は安全とは言え、マップとしては端っこの方なので、このまま待機していても、戦闘エリア外に出てしまう。それは勝利から遠ざかる行為だ。
「うーん。不安だけど、いくしかないね」
全員が装備を確認し、武器に弾を装填していく。
PSBRでは残弾管理も非常に重要視されている。モーションも武器ごとに丁寧に作られており、サバイバルの臨場感をお仕上げている。
「じゃあ、編成。美月ちゃん、先頭をお願いしてもいいかな、進行方向は私が指示するから」
「はーい」
「じゃあ、僕がそれに続くよ。遠距離で会敵したときに備えて」
「私は後ろをついていきます。今のままでは役に立てなそうなので……」
彼らは倉庫の大きな扉の裏に入り付き、この倉庫を出るタイミングを図っている。
「大丈夫だよ、神埼さん。次、だれかを倒せば、きっとスコープは手に入るし、まぁそれまでは無理しないで」
彼らは灯里の指示のもと、まず山を登った。マップの中心から最も離れた傾斜、すなわち南西側から、姿勢を低くしてゆっくりと進んでいく。
山の東側、つまりマップ中央に近い場所は、先にも述べた通り火災の影響からか、草などの自然物が少なく、視線を遮るものがほとんどない。万が一、スナイパーライフルと高倍率スコープを手にしているチームがいれば、良い的となってしまう。
一方、灯里が選んだルートは幾分草も残っており、航空機の飛行ルートからもかなり逸れている。大群に蜂の巣にされるなんてことはないだろう。この判断は正しいと言える。
じりじりと進んでいくと、いくつかの小屋があった。集落、というには貧弱だが、物資が出現する貴重な建物でもある。右上の残存チームはすでに六十を切っている。他のチームも装備を揃えてきているだろうから、あの物資はなんとしても取りたい。
――しかし。
「銃声!?」
遠方からではあるが、かなり小さい銃声が、山に反響してこちらまで届いてきていた。それは、一定のリズムで、パン、パン、パンと、何かを狙っているようだ。
「中距離狙撃ですね」
悠珠が発したのとほぼ同時に、残存人数を示す数字が一つ、少なくなった。
「あっちの方だと思う。あと、音的に多分、ドラグノフ」
美月がマップ上に、アイコンを表示させる。山の麓、集落を挟んでちょうど反対側だ。
「よくわかるね、櫻井さん」
「そう? 音が高かったから。どうする? 灯里センパイ」
マップ北側には大きな街がある。相手が潜んでいるポイントからなら、北上して物資を集めにいくのも選択肢としてあり、というか、通常のプレイならそれがセオリーだ。
だが、今は大会。余計な戦闘を避けるなら、人が少ないと予想される山の裏に向かう可能性だって十分にある。もしそうなら、あの集落で鉢合わせになる。
「あの感じだと、もしかしたら倍率スコープを持っているのかも知れませんね」
悠珠は続けた。
「単発打ちで相手を狙うなら、距離が離れるほど、その射撃の間隔も広くなります。今の感じだと、それなりに遠い所から狙ってたんじゃないでしょうか」
「つまり、勝てれば、そのマクミランを生かせる、と」
琢磨がうーんと唸る。
「でもこちらは遠距離狙撃に対応できない。相手の装備も気になるし……」
相手を倒せれば、その武装は手に入る。高倍率スコープを手に入れることは、今のチームに取っても重要なことだ。
琢磨と悠珠が唸る中、美月は遠方を見て索敵を続けている。そうした中、また数発の射撃音が鳴り響いた。独特の連射音から、アサルトライフル持ちである可能性が高い。そしてまた数字が一つ、少なくなった。
「行こう」
灯里が意を決した。
「どのみち、生き残るんなら戦闘は避けられんし、他のチームに横槍を入れられるよりは、可能性があるんと思う」
灯里の言葉に、待ってましたとばかりに美月が反応する。
「そう来なくっちゃ」
美月はスパスを構えて、駈けていく。
「みんな、美月ちゃんに続いて」
一行はぐんぐん坂を登っていった。向かう道中の索敵は概ね完了しているとは言え、自分達と同じようなことを考えて森に潜んでいるヤツもいるかも知れない。美月は画面を左右に振りながら死角を潰して走り、悠珠はその進行方向の遠い先を見つめながらついていく。
「先に付けば、物資ゲットだね」
美月は力強く、そう言った。
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