ゲームティーチャー「斉藤太」の鬼畜プロゲーマー調教講座
ゆあん
ゲーム部発足編
議題Ⅰ 部活動における構成員とその仕様について
1限目 斉藤太(さいとうふとし)
2020年のオリンピックで
世界は荒れに荒れていた。
世界のリーダーを自称する某国自らの違反行為にも関わらず、大統領は「何者かの
軍事力を背景に報復の二文字をちらつかせる行為に、安保理条約はその信用性をなくし、市場は前例を見ない程に目まぐるしく揺さぶられ、多くの証券が紙切れ同然となった。地域では紛争が
――世界は正義の所在を求める声で溢れた。
そんな状況に一石を投じたのは、国際オリンピック協会だった。
『2024年度のオリンピックの公式種目にオンラインゲームを採用する』
この歴史的な発表は世界中の関心を集めた。
安全な開催地の設定がままならない現状、「自国にいながらも競技に参加出来る」利点、その高いエンターテイメント性に注目した同協会は、本種目をオリンピックの主軸として捉える事を示した。
今、世界のリーダーは誰がふさわしいのか。その争いの縮図をそこに求めたのだ。
発表と同時に各国は予算を捻出、国を挙げて「プロゲーマー」教育に取り組んだ。
その中で、一際膨大な資金を投入する国があった。
――それは「日本」。
某国の
日本はその地位を
優秀な成績を収め、選手を排出した教育機関には多額の報酬が約束され、そうでなくとも、その活動に積極的に参加する同機関については助成金が支払われる事となった。
これを受け、全国の中高がこぞって「ゲーム部」を設立した。
そんな中、数多くのゲーマー・オタクたちが講師としての職を得る一方で、優秀なプロを多数排出するなどの快挙を成し遂げる現役現国教師が現れた。
――名は、
後に「伝説の
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昼下がり。突然校長室に呼びだされた現国教師「
斉藤が入室してから、もう数分立つ。張本人の校長はソファチェアごと背中を向けたまま無言を貫いており、何やら
――ああ、俺何かやったかな。二日酔いで学校に来るのは教師としてまずかったよなぁ。ゲップとか遠慮なくしてたし。
「斉藤君」
校長は彼方に話しかけてからゆっくりと振り向き、その立派なデスクに両肘で
「君をここに呼んだのは他でもない」
まるでどこかのアニメのボスのような語り口調だ。よく見れば顔も声もそっくりじゃないか。それにしてもどうしてこう偉い人ってもっと普通に登場出来ないのだろうか。ゲップが出そうだ。
「昨今のゲーム事情について、君はどう思う?」
このまた抽象的な切り口が「いかにも」な感じだ。答えようにも的が広すぎる。きっと娘にも「最近どうだ」とか聞いてしまうタイプなのだろう。
「どう、と申しますと……」
ほとんど反射的に頭を掻き笑顔を作った。社会人必殺の「すっとぼけ」作戦である。こういう時は下手に答えないのが正解だ。
「ふむ」
校長は陰影のしっかりきいたメガネを人差し指で直し、重苦しい眼光を投げかけてくる。
「先の国会の発表、競技ゲーム甲子園の運営開始に伴い全国的にゲーム講師の採用が進んでいるが、その点で我が校、
「はぁ…」
「ついては
――ゲーム部。
昨年より全国的に設立が相次いでいる今一番ホットな部活だ。
なんで俺が学生の時に無かったんだよ。あれば絶対に入ったのに。ゲームやって人から褒められるとかまるで天国じゃないか。
「しかしだな。私はどうも納得がいかん。世間をみてどうだ、採用されるゲーム講師とやらは、学歴はおろか経歴もたいしたことのない、そればかりか人の影にそって生きてきたような社会的弱者ばかりではないか。人が勤しむべきときにそれを成さず、ゲームに逃げてきたような人間がまるで水を得た魚のように
見の
まぁわからなくはない。
何を隠そう大のゲーム好きのこの俺は、そういう世間の目が嫌で、死ぬ物狂いで勉強して現国の教師になったのだから。「名門高校の現国教師」という肩書を隠れ
「あはは、たしかにそうですよねー」
しかし笑って返すしかない。
今でこそゲーマーは日本の未来を担うものとして社会的に脚光を浴びているが、校長くらいの世代だと現状の方が異常に映るだろう。俺もそんな中で生きてきたから、社会の目の厳しさはよく分かる。俺はそれに屈して社会人としての体裁を大切にした、ある意味で弱者だ。
好きなものは好きなんだから何がわるいんだ。それを掲げて生きていけるなんてかっこいいじゃねぇか、チクショーめ!
――なんてことは流石に言えない。
「私としても、どこの馬の骨かわからん若造に本校の純真たる生徒たちの行く末を任す気に到底なれない。――そこでだ」
校長はそう言ってチェアにより掛かると大げさに足を組んだ。
「聞けば、君は学生時代、ゲームの大会に出場していたそうじゃないか」
どこで調べたんだそんなの。当然履歴書にそんなことは書いていない。
「本校はその伝統をゆえ人材の採用についても慎重でな。教養を重視するあまりゲームという文化に慣れ親しんだ教員が他にいないのだよ。もちろんそういった職員を新たに雇用するつもりもない。君なら、本校の教職員としての品性をもって職務につける、まさにうってつけの人事ではないかと思うのだよ。どうかね?」
その眼鏡が一瞬光った、ような気がした。
「いやあ、そんな重大な役目、いやはや、おr…じゃなくて私のそれは趣味のようなものですしー、ははは」
部活動の顧問だと!? 冗談じゃない!
貴重なゲームライフが削られてしまうではないか!
俺はゲームは一人でやりたいタイプなんだ。
……本校の未来など知った事か。
「ん、よく聞こえなかったが、どうなんだね」
「あ、いえ、はい、光栄です。是非、やらせてください!」
ああ、言ってしまった。
「素晴らしい。流石は私が見込んだ男だ。君のような教師が本校にいることを、誇りに思うよ」
一度口にしたことは取り消せない。PCのようにCtrl+Zでいつでも直前に戻れる、なんてことは無いのだ。
白鷺高校現国教師、斉藤太、25歳、独身。
名だたる名家の坊っちゃん・お嬢様達を飢えた野獣のようなゲーマーに調教する、鬼畜講師が誕生した瞬間だった。
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