282帖 窓から見える月は

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



「じゃー、今度はこっちね」


 ミライは恥ずかしがりもせんと何も隠さず仰向けになる。細くくびれたウエストに相反するかの様な豊満な胸。しかも張りがあって形を崩さずにミライが動くとプリンの様にプルルっと揺れる。


「優しくしてね、おにちゃん」


 ここまで来てやっぱり「おにちゃん」かぁ。


 ちょっと興醒めするけど、お望み通り優しく丁寧に洗おかぁ。えへへ。


 タオルに石鹸を付け直し、くびれたウエストから喉元に掛けてタオルを滑らす。おっぱいの周りも丁寧に洗い、首筋から腕へ。ほんで次はおへそから下、そしてムチムチの太ももから足先へ……。


 時々ミライと目を合わせると、少しトロンっとした目つきやけど、満足げに微笑んでる。


 洗い終わるとお湯を掛けて泡を流す。肌は、まるでムースの様な白さで、艶があり、ほんでお湯は見事なまでに弾かれて流れていく。


「さあー、もう一回湯船に入ろか」

「うん」


 ベッドから降りると、ゆさゆさと弾む胸。今直ぐ顔を埋めて食べてしまいたい。


 そんな気持ちを抑えてミライの手を取り、二人で一緒に湯船に浸かる。


「プハーっ」

「プハー!」

「まねせんでええよ」

「ジャポンの言葉でしょ。どういう意味」

「『プハー』か?」

「そう、『プハー』よ」

「そうやなぁ……。気持ちがええ時とか、何かが終わった時に言うなぁー」

「へーそうなんだー。プハーっ!」

「プハー、あはは」

「うふふ」


 ぬるいお湯で良かったと思う。ただでさえミライの生まれたままの姿に興奮してるのに、もしお湯が熱かったらもう完全にのぼせ上がってるところや。


 窓から見える月は随分と高くなってる。


「そうやっ!」

「どうしたの?」


 僕は窓辺に行き、大きな窓を全開にする。


 外から少し冷たくなった乾いた風が吹き込んでくる。それが火照った身体に気持ちええ。


「ほら、気持ちええやろ」

「うん。涼しいね」

「そやろ。ジャポンのホテルには外にお風呂があるんやで」

「ええ、そうなの。なんだか変わってるねー」

「ほら、こんな感じで外の風に当たりながら湯船に浸かるんや」


 半身浴にはもってこいの環境や。


「うーん。それがいいんだー」

「そうやなぁ。ほら、身体はお湯で温かいけど、顔は涼しい風で気持ちええやろ」

「ふーん……」


 外国人にはなかなか露天風呂の良さは理解して貰えへんなぁ。


「まぁ日本に行けたら連れてってあげるよ」

「ほんとにー! 行きたい。行きたい。私、行きたい。外のお風呂」

「あはは。それまではここで我慢やな。ここかてお湯は適温、風も冷たくて気持ちええがな」

「うん。おにちゃんと一緒なら何処でも楽しいよ」

「ミライ……」


 そんなミライが愛おしくてたまらん様になって、僕はミライの頬にキスをする。何度も何度も……。


 ミライは目を瞑ったまま、満足気に気持ちよさそうな顔をしてる。オデコから耳、耳からうなじ、うなじから首筋へ。


「おにちゃん、くすぐったいよ……」


 そんな言葉にお構いなく僕はキスを続ける。


 もう止まらん!


 首筋から鎖骨そして豊かな胸へ。


「ううん……」


 声を漏らすミライ。そして僕はお湯に浸りおへそへ……。


「ぶはぁー!」

「わぁー」

「あかん、お湯の中ではキスできへんわ」

「そうだよー。何してるのおにちゃん」

「ミライの体中にキスをしようと思ててん」

「バカねー。そんなにキスしたいの?」

「う……、したい」

「そしたら……、続きはベッドでね」

「……」


 一瞬にして凍りついてしもた。

 そやけど、僕は何してるんやと我に返ると、ちょっと恥ずかしなってきたわ。落ち着け僕……。


 もう一度、深く呼吸をして月を眺める。


 空気が澄んでるせいか、丸い満月がまるでクレータまで分かるぐらいくっきりと見える。ホテルのお風呂やけど、砂漠のオアシスから見る月は、日本の温泉の露天風呂から見る月とは違う。同じ月やけど、それから感じる情緒が違う。明らかに日本の風合いではなく、エスニックなペルシャ風の月「ماهマーハ」や。

 そんな月に照らされてた僕らは幸せやった。ほんまに平和な夜やった。


「ふー」

「プハー!」

「あはは」

「うふふ」


 顔を見合わせると笑ろてしまう。


「ジャポンに連れて帰るぞ!」

「うん。おにちゃん」


 ああ、ええ感じやなぁ。ずっとこのままで居たい。


 そやけどそうも言うてられへん様になってきた。湯船に慣れてへんのかミライの顔が赤くなって目が更にトロンっとなってきてる。


「ミライ、大丈夫。そろそろ出よかぁ?」

「そうね。喉も乾いたしね」

「大丈夫? ボーッとしてない」

「うん。大丈夫」


 僕はミライの手を取り、ゆっくりと湯船から出る。

 タオルでお互いの身体を拭きながら、ほんでバスローブを纏ってバスルームを出る。


 ソファーに腰かけ頭をタオルで拭いてると、ミライが冷蔵庫から冷たいミネラルウォーターを持って来てくれる。それを一気に飲み干すと、水が身体中に染み渡るんが分かる。


 ふーっ。ちょっと長湯をしてしもたな。


 1時間以上入ってたし、それに僕はミライにのぼせ上がってた。可愛らしくもちょっと恥ずかしがりやのに、大胆にも一緒にお風呂に入るやなんてめっちゃ嬉しかったわ。あの柔らかい身体を思い出してたら少しニヤけてしもたわ。


 ちょっと疲れてぐったりしてると、ミライがそっと寄り添う様に隣に座ってくる。顔を見ると、さっきより元気になって嬉しそうにニコニコしてる。なんとも言えん可愛らしい表情や。僕はたまらずキスをする。


「うーん。ダメ!」

「ええーっ」

「続きはベッドって言ったでしょ」

「ええやん、1回ぐらい」

「ダメだよー」


 意地悪な顔をしてるけどそれがまた特別に可愛らしく思える。僕はそのままミライを抱き上げ、嬉しそうに微笑むミライを見つめながらベッドへ向かった。



 つづく

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