259帖 治療

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



 屋敷裏に着き、トラックの荷台から降りようとして屈み込んだりして身体を撚ると僕の腰に激痛が走った。


 あの路地裏で殴られたとこが今になって痛みだしてる。


 多分骨折とかやのうて打撲やと思うけど、めっちゃ痛い。動くのもままならん。

 腰を押さえ痛みに耐えながらトラックに持てれてるとミライが駆け寄って来てくれる。


「大丈夫。まだ痛いの」

「まだと言うか、今になって痛なってきたわ」

「棒でとても強く叩かれてたものね……」


 ミライが僕の腕を肩に回し支えになってくれる。1歩ずつ足を引きずりながら歩いて居るとハディヤ氏も寄って来てくれる。


「大丈夫か、キタノ」

「ええ、何とか……」


 とは言うものの、トラックの荷台から降りる時に無理に腰を曲げたんが悪かったんかめっちゃズキズキする。

 ハディヤ氏はミライに何か指示を出し、屋敷の中に入っていく。僕はハディヤ氏に支えられながら屋敷に入った。


 居間では男の子達が今日のバザールでの戦利品を出して楽しそうにくつろいでる。こんな姿の僕を見つけるとみんな集まってくれて心配してる。

 僕はムハマドとカレムに支えられ、僕の部屋まで連れて行って貰う事に。その間二人は何度も、


「ごめんなさい、キタノ」


 と言うてくるけど、


「ムハマドとカレムは悪くないよ」


 と笑顔で言うたけど、それでも申し訳なさそうな顔をしてたんで僕は、


「悪いのは、アイツら6人や」


 と言うて二人を慰める。


「あの時、キタノはめっちゃ強かった」

「うん。サブミッションが決まって格好よかったなぁ」


 と僕を褒め称えてくれたわ。


「僕にもあの技を教えて欲しい。そして強くなりたい!」

「僕にも教えて下さい!」

「あはは。いいよ。あの時、二人は泣いてたもんなぁ。あはは」


 と言うと、二人は恥ずかしがって苦笑いをしてた。


 何とかベッドまで運んで貰い僕はベッドに横たわる。そこへミライが大きな氷を布でくるんで持ってきてくれた。


「後は私が看るから」


 みたいな事を言うとムハマドとカレムは拳法の要領でお辞儀をして部屋から出ていく。


「おにちゃん、シャツを脱いで」

「うん、分かった」


 シャツを脱ごうと腕を動かすと腰どころか背中まで痛いのに気が付く。ほんでミライに手伝どて貰ろてやっとシャツが脱げる。


 うーー。めっちゃ痛い!


 腰の辺りは触っても分かるくらい内出血で腫れてる様や。その腫れてる所をミライが氷を乗せてくれる。


「痛てててっ……」

「ごめんね。でも冷やさないとほんとに動けなくなるわ」


 と今度は優しく丁寧に冷やしてくれる。


「一体僕は何で叩かれたんやろう?」

「スチールの棒よ。丸いので2回程叩いてたわ」

「何やて。2回もか」


 アイツら、僕を殺そうとしてたんやろか?


 そりゃ痛いわな。たぶん帰って来るまでは緊張もあったし然程痛くはなかったけど、安心して気が緩んだ途端に痛となってきたんやろ。

 暫くするとハディヤ氏が部屋に入って来る。


「キタノ。歩く時はこれを使うといい」


 と松葉杖を持ってきてベッドの脇に立ててくれる。


 松葉杖なんか今まで使こた事ないわ。


 ハディヤ氏は、


「よく我慢してたな」


 と言うて僕の傷を眺めてる。


 そんなに酷いんかなぁ。


「トラックから降りるまでそんなに痛と無かったのに、降りた時に急に痛みだしました」

「そうかぁ。でもこれは3日程安静にしておいた方がいいな」


 ああ、3日もかぁ。


「お父さん。後は私が看てるから……」


 みたいな事をミライが言うと、


「本当に済まなかったな。まぁゆっくり休んでくれ」


 と言うてハディヤ氏は部屋を出て行く。

 暫く冷やして貰ろてると痛みが和らいできた様な気がする。ほんで首の向きを変えようと身体を動かすと、また激痛が走る。


「痛てー」

「だめよ動いちゃ」

「うん」

「まだまだ腫れてるから」

「分かった。でもおおきにな、ミライ」

「ううん。気にしないで」


 ミライの顔が見れへんのんが残念やけど、冷やして貰ろてると気持ちええし、めっちゃ嬉しかったわ。


 暫く冷やして、


「氷が小さくなったから、大きいのを持って来るわね」


 と言い、ミライは部屋を出て行く。


 3日も動けんのかぁ。ほんでもどっちみち後1週間は居らなあかんし、まぁええか。


 と思いながら待ってると、ミライが戻ってくる。ミライはベッドの横に来てしゃがみ、僕の顔を覗くと優しい笑顔で、


「毛布を持って来たから掛けるね」


 と言うて身体に毛布を掛けてくれて、ほんでまた背中と腰を氷で冷やしてくれる。氷は気持ちよかったけど、ちょっと寒かったし毛布はホンマに助かる。中々気が利くミライやわ。


「おにちゃん。あの時、怖くなかったの。相手5、6人居たでしょ」

「ああ、6人居ったなぁ。怖くは無かったけど、ほんまにどつき合いになってたら勝てへんかったかも」

「もう、無茶しないでね」

「うん。分かってる。ほんでも1対1やったら負けへんで」

「もう、おにちゃん……」

「アイツら一人一人は弱そうやったから。こうやって……痛ててて」


 あかん。調子に乗ると痛いわ。


「ほら、動かないで」

「うん。ごめん」


 怒られてしもたわ。


「もし、私が危ない目に会ってたら、おにちゃんは助けてくれる」

「おお、当たり前やがな。絶対に助けるよ」

「ありがとう。そしたら早く良くなってね」

「うん。ミライこそ、手ぇ冷たいのに冷やしてくれておおきにな」

「うん。だっておにちゃんの為だから……」


 なんか嬉しくてええ気持ちになってきた。

 その後もミライといろいろ話しながら冷やして貰てたけど、僕はいつの間にか寝入ってしまう。そやし何を話したかも忘れてしもたわ。



 つづく

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