245帖 収穫
『今は昔、広く
太陽が昇ってきて眩しくなってくる。今日も快晴。昼間は暑くなるやろな。
ハディヤ氏はガディエルさん、マンスルさんと何か話をしてる。どうやらこの荒れ地と言うか砂漠を農地にするみたい。
「キタノ。ここは、以前から牧草地や畑にしようと思ってた場所だ。ここまで水を引くことは出来るかい?」
「ええ、泉の水面より低いんで水を引くことは可能だと思いますが……」
果たして泉から150メートル以上離れてるのに、ホンマに水が引けるのか、原理的には出来てもちょっと自信はなかった。
「そうか。では、早速やって貰えないだろうか」
「ええですよ。あとで
「では、よろしく頼む」
「了解です」
そう言うて畑に戻ると、トマト畑に居るミライと目が合うてしもた。ミライはすぐトマトの収穫を再開する。僕は傍に行き、
「手伝おか?」
と言うと髪の毛を触りながら嬉しそうに頷いてる。僕はトマトの入ったカゴを持ってミライの後ろから付いて行くと、ミライが熟れてるトマトを収穫してカゴに入れる。これでスピードもアップ出来そうや。
カゴを持ちながら周りを見てみると、みんな2人一組で作業をしてる。どこも大きい子が小さい子に指示を出して仲良くやってるみたい。
中にはメリエムとエシラみたいに手がお留守になって楽しく喋ってるコンビもあったけど、僕と目が合うとケラケラ笑いながら作業を再開する。アズラとラビアのコンビもこっちを見て笑ろてる様な気がする。なんか変な感じやわ。
そろそろ女性陣が朝食の準備に戻りだすと、ミライが僕を見てくる。
「ええよ。後は僕がやっとく」
と言うと、ニコッと笑ろて走って屋敷に戻って行く。僕はその後もトマトの収穫を続け、それが終わるとムハマドとアフメットのシシトウの収穫を手伝った。
収穫の作業が終わり、カゴをトラックに積み終わると朝食や。屋敷に向かって歩いてると、ゼフラが走ってお迎えに来てくれた。
「スビハエル(おはよう)」
「スビハエル!」
わぁ! 腕を掴まれた。両手でゼフラの手を掴み、くるくるを回転するとキャッキャと喜んでる。
あかん、目が回りそう。
3回転で止めにする。
「今日も一緒に御飯を食べよー」
「ああ、いいよ」
「昨日より、上手に作れたわ」
「スパス(おおきに)」
みたいな会話をしながら食堂に行き、ゼフラが引いてくれた椅子に座って待ってると料理を持って来てくれる。昨日より、ちょっとはましな形の卵焼き。
「うーん。スパス!」
ゼフラは嬉しそうに僕の隣に座る。
女性陣によって料理が運ばれた後、なんかキャーキャー言うて騒がしい。何事ぞと思てると僕の右隣の開いてる席に、ミライが無理やり座らせられたみたい。
なるほどねー。
昨日の夜にミライと二人で屋敷を抜けて水槽を見に行ってたんが、変な噂になってる感じ。女の子が僕とミライを見ながらなんか内緒話みたいな事をしてる。いやいや、ちょっと恥ずかしいがなぁ……。
そこへハディヤ氏やガディエルさん達もやってきて朝食が始まったけど、なんか変に意識してしもてミライの方を見ることが出来んようになってしもた。
それでも自然を装ってちらっとミライの方を見ると目が合うてしまう。ミライは直ぐに恥ずかしそうに俯いてしもたけど、その赤くなった表情がめっちゃ可愛く見えてしもた。
朝食後の勉強時間に家庭教師をしてると、奥の台所が結構騒がしい。そして急に静まるとミライがチャイを持ってきてくれた。
「スパス」
と言うと、スッと奥に戻ってしまう。顔も見れへんかったわ。すると奥でまた騒がしい声が聞こえてくる。完全に僕とミライの関係を弄んでる感じやね。まぁ嫌な感じは無いけと、やっぱりちょっと恥ずかしかったわ。
勉強会の後、男連中と一緒にまたドゥホックへ行き、灌漑の為の資材を買い付ける。ただ今回は少し大きめの径のホースを2巻と水道管類を買うたんでそこそこ高こうなってしもたみたい。流石に水槽になるもんはもう置いてなかったんで、街中を探し回る。
どこにも丁度ええやつが見つからんかって諦めかけてたら、爆撃された廃墟に捨ててあった大きなタンクを見つけて、それを貰うことした。
これで材料は揃たけど、
遅なった昼飯を食べてから作業に入る。そうやけど2回目なんでみんな慣れたもんや。まだ太陽が高い内に完成してしもた。東の畑の予定地に、これまた順調に水を引けて、タンクから冷たい湧き水が溢れ出てた。
その日の晩ご飯の後、やっぱり気になって僕は東の畑のタンクを見に行く。
タンクから溢れる水を見ながら、この水が砂漠を緑の牧草地や畑に変えてくれるんやと想像するとワクワクしてきた。でもその半面、なんや得体の知れん焦燥感にも見舞われる。
僕は綺麗な星空を眺めながらふと思た。
「こんな所でこんな事しててええんやろうか。僕がしたかった事はこんな事やったんやろか?」
そう思うと、この行動に対してあれやこれやと理由付けして納得しようとする自分がある。それに気付くと罪悪感に苛まて落ち込んでしまう。
「一体僕はどうしたらええんやろう」
と下を向いてボーッと考えてたら、いつの間にか後ろに人が立ってる気配がしてた。
つづく
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