243帖 施工
『今は昔、広く
屋敷に戻ってくると、4人の男の子達は待ち構えてたかの様にトラックに走り寄ってくる。
「よーしみんなぁー。頑張って作業してくれよ」
「おー!」
みんなやる気満々や。
「じゃー、ガディエルさん、マンスルさん、ラヒムさんはパイプの組み立てをお願いします」
「おう!」
「ムスタファとオムルは、この図の様に土手に溝を掘って下さい」
「分かりました」
「ムハマド、カレム、ユスフ、アフメットは、この水槽を……ここへ運んで穴を掘って半分位埋めてくれるかぁ」
「了解!」
それじゃぁ僕は……。
「ねぇ、私はぁ?」
あら、いつの間に。
「ほんじゃ、ゼフラは僕といっしょにホースを引くよ」
「おーっ!」
ガディエルさん、ムスタファに降ろして貰ろたホースのリールをゼフラと一緒に土手の下まで転がして行く。
「ゴロゴロ、ゴロゴロ」
「ゴロゴロ、うふふ!」
ゼフラは楽しそうに押してる。土手から畑までの1メートル位の段差は横にしてズリ落とす。
「よし。じゃぁホースを伸ばして行くぞ」
「おーっ!」
畑の中は凸凹して中々上手いこと転がらへん。もうこれだけで汗が出てきたわ。
「キタノ、もっと押して。よいしょー」
「そりゃー」
勢いよく押し出すと数メートルは転がって行くけど、直ぐに止まる。これの繰り返しで少しずつホースを伸ばして行く。
パイプの方を見てみると、大体の位置取りが決まった様で、溝を掘り始めてる。
「ガディエルさん! パイプの長さはどうですか?」
「ちょっと長いが問題ない」
「おおきにです!」
よかった。なんとかなりそうや。
「ゼフラ、どんどんいくぞー」
「おー」
「しんどいか?」
「大丈夫っ!」
1つ目の畑の下の畦道まで来たら方向を変えて、ムハマド達が埋めてる水槽の方へホースを引く。ホースの長さもなんとか足りそうや。
「よいしょ、よいしょ!」
「よいしょ……」
「あはは、ゼフラ。疲れたか?」
「うーっう。キタノ、早く押してー」
「よしよし。頑張れ」
ゼフラは顔を真赤にして頑張ってくれてる。
「頑張れー。もう少しや!」
「よいしょ、よいしょ」
なんとか5メートル程余らせて、水槽のとこまで辿り着いた。
「ゼフラ、ありがとう。お疲れさん。休憩していいよ」
「ふーっ」
穴の方は、砂漠の中の畑やし掘り易いんやろう、ほぼ掘れてる。ムハマドとカレムが殆ど掘り進めてくれてるんで、暇そうなユスフとラヒム。
「よーし! ユスフとラヒムはここから下まで溝を掘ってくれるか」
「何をするの?」
「溢れた水が流れて行く川や」
「よし! やろう」
「おっしゃー!」
よしよし。これで、こっちはなんとかなりそうやな。
僕は泉の方の様子を見に行く。
パイプはもう繋がれてるけど、溝掘りが難航してるみたい。溝の中に大きな石が見えてる。これを取り除けば開通しそう。
そこへラヒムさんが鉄の棒を持ってきてくれた。テコの原理で石に力を加えるとなんとか動いて取り除けた。
その溝に沿ってパイプを置き、泉に浸かってるパイプの具合を調節して位置が決まったらパイプを埋める。砂を固めて完成や。
後はパイプとホースを繋いで、エンジンポンプで吸い出せば完成や。
「ガディエルさん、エンジンポンプの準備をお願いします」
「OK!」
畑の方のパイプとホースと繋ぎ針金で巻いて準備完了や。
「よし、みんな。向こうで水がでるか見に行こう」
「イェーイ!」
みんなで水槽の方に歩いて行き、ガディエルさんがエンジンポンプを運んで来てくれるのを待つ。
みんなソワソワ、ワクワクしてる様や。
陽は大分傾いてきて、少し風も出てきてる。それでもみんなの額からは汗が滲み出てた。
エンジンポンプが運ばれてきて、ホースをポンプの吸入口に繋がれる。
そしてガディエルさんが勢いよくエンジンをかけた。
ブルブル、ブーーン。
エンジンが勢いよく回る。みんな水が出てくるのを今か今かと待ってる。ホースは負圧で少し縮んでる様や。
さぁー、どや。
そろそろ出てもええころやのに一向に水は出てこうへん。
「ガディエルさん。一度止めて下さい。もう1回確認してきます」
みんなの溜息が漏れてた。
僕はホースを辿って走って行く。ホースとパイプのつなぎ目も針金でしっかり縛られてるし、パイプの先は問題なく泉の水面下に入ってる。
何があかんのやろう。ホースの中の空気があかんのやろか……。
あっ! 呼び水や。ホースの中に水を入れといたらええんや!
そう思て僕はみんなに声を掛ける。
「おーい! みんなぁー。バケツで水を汲んできてー」
と言うと少年達はみんな一斉に走り出し、バケツを持って川へ水を汲みに行ってくれた。
僕はパイプにホースを締め付けてある針金を外し、一旦ホースを抜く。
一番に水を持ってきてくれたんは、オムル。バケツの水をホースに入れていくと、ホースから空気が抜けてくる。
「どんどん持ってきて」
ホースが細いので殆どの水が漏れてしうけど、そこは人海戦術。次から次へと水を注いでいく。
よし、いっぱいになった。
「もういいよ!」
ホースをパイプに繋ぎ針金で縛っとく。
「OK! エンジンスタートや」
みんなでエンジンポンプのとこへ戻る。すると屋敷から女性陣も見にやって来た。
「ガディエルさん。エンジンを掛けて下さい」
「よし、行くぞ」
ブルブルゥ……。プスッ! ブルブル、ブーーン。
エンジンが勢いよく回り出した。
つづく
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