242帖 始動!潅漑計画

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



「キタノ、凄いじゃないか」


 中庭に出た僕を笑顔で迎えてくれたんはムハマドやった。彼もビショビショになってる。


「なぜ泉の水がホースから出るのだ?」


 と聞いてきたんで、僕は持ってたクロッキー帳に図を描いて説明しようとすると、みんなが集まって来て取り囲まれた。


「なるほど!」


 と分かってくれたんは多分ムハマドとカレム。ユスフは首を傾げてるし、アフメットは分かった振りをしてる。あはは。

 そこへハディヤ氏がミライに連れられてやって来る。


「キタノ。どうしたんだ。泉から畑に水が流れてると言うが……」

「お父さん、こっちへ来て!」


 みたいにカレムとユスフが嬉しそうにハディヤ氏の腕を引いて畑の方へ連れて行く。そやしみんなで畑へ行ってみる。


 ホースの先端からはちゃんと水が流れ出てる。湿った土の部分が3メートル位まで伸びてた。


「すいません、勝手にホースを借りました」

「それは問題ない。でも、どうして水が出てるんだ?」

「それはね……」


 ムハマドが僕のクロッキー帳を見せてハディヤ氏に説明してくれた。


「なるほど。それは面白い」

「そこで提案なのですが、この図の様にホースと水槽を用意できたら、畑の殆どの部分をエンジンポンプで水やりが出来ます」


 と設計図を見せて説明した。


「うーん。なるほど。すると子ども達の負担が減る訳か」

「はい。その分、他の仕事が出来ますよ。例えば……、朝の収穫とか。それに葉野菜の成長も良くなると思いますよ」

「それはいいアイデアだ。早速、昼飯の時にガディエルやマンスルに相談してみよう」


 と言うてくれた。ハディヤ氏と話してる間にも、子ども達は水掛けをして遊んでる。ミライも笑顔で僕を見てくれた。



 昼飯の時、まぁ昼飯と言うても甘ーいバターナンとふかしたジャガイモとチャイやけど、早速ハディヤ氏と畑から帰ってきたおっちゃんらが僕のクロッキー帳を見ながら潅漑計画を話し合ってる。

 ミライがその事を奥さんにも話してくれて、僕は奥さんにも褒められた。


 食後も計画の話し合いは居間に移動して続けられる。


 何か問題でもあるんやろうか?


 すると僕がそこへ呼ばれ行ってみると、泉から畑までの部分はスチールパイプにし、50センチほど土手を掘って埋設したらどうかという提案やった。


「スチールパイプの方が負圧に耐えられるからええと思います」

「しかし、そんな事をしても水は汲み上げられるのか?」

「初め、エンジンポンプで強制的に吸えば大丈夫やと思います」

「ではそれでやってみよう」


 と言うことで早速、僕とガディエルさん、マンスルさんがトラックに乗り込み、荷台にラヒムさん、ムスタファ、オムルが乗り込んでDuhokドゥホックへ向かって走り出す。


 砂漠を越え、難民キャンプを過ぎるとドゥホックの街並みが見えて来た。Sarsankサルサンクののどかな風景と比べると、ちょっとは都会に見える。ドゥホックの街を走ること5分で農機具屋さんに到着。ここでホースを買うらしい。


 そんなに種類は置いてないけど、ええのあるかな?


 と思てたら奥の倉庫に沢山の在庫がある。


「どのホースが良いんだ?」


 と聞かれても、僕もやった事無いし困ってしまう。


「取り敢えず、エンジンポンプの汲み上げホースと同じやつがええと思う」


 僕がそう言うたもんやから、エンジンポンプのホースと同じ60ミリのホースにあっさりと決まってしもた。


 まぁメッシュホースやから水圧にも耐えられるからええやろ。


 あっさりと1ロール100メートル買うてしもたで。責任重大やなぁ。

 

 次は、スチールパイプ。まぁ水道管やね。ここでも売ってたけど、値段の折り合いがつかへんみたいやし、ホースだけ買うて次の店に行くらしい。

 トラックを走らせて街中を抜ける時、あの爆撃された住宅街の近くを通る。砂埃が立ち上がり、重機で瓦礫が少しずつ運び出されてた。取り壊されてる家を呆然として眺める人々が居った。


 街外れの建材屋みたいなとこに着く。水道管から大きな土管まで売ってる。


「何メートル必要なんだ」


 とムスタファさんに聞かれてハッとしてしもた。


 寸法を測ってきてない……。ええい! 適当に長めに言うとこ。


「えーっと、3メートル、15メートル、2メートルです。それと、L字のエルボを2つ。太さはホースが繋げるられる大きさで……」

「OK、分かった」


 あとは運を天に任せよ。多分大丈夫や。多分……。


 職人さんが切断して雄ねじの加工をしてくれる。待ってる間、やっぱり不安やった。


 どうか合いますように……。


 出来上がったもんをみんなで運んでトラックに積む。ロープでしっかり固定して店を出ようとした時、あるもんが目に入った。


「ちょっと待って下さい!」


 急に止まったもんやさかい荷台のラヒムさん、ムスタファ、オムルがひっくり返ってる。


「あれ、あれ!」


 あれしか言えへん。


 資材屋さんの如何にもゴミ置き場みたいな所に大きなバスタブの様な水槽がある。


「水槽がありますよ。あれを手に入れましょう」


 トラックから降りて見に行ってみる。近くで見るとバスタブ2個分の大きさの容器で500~600リットル位は入りそう。それに丁度ええ所にオーバーフロー用の穴もある。何に使われてたんか分からんけど畑に埋めて水を貯める水槽になりそう。


「これが必要なのか」

「はい。一時的に水を溜めて置く所です。図では……、ここに設置します」

「なるほど。分かった」


 そう言うとガディエルさんは店の方へ行き、店員と交渉してくれた。


「あれはタダで持って行っていいそうだ」

「やったぁ!」


 みんなで運んで荷台に乗せる。これで資材が全て揃った。


「それじゃ帰って早速工事に取り掛かりましょう」

「よし。帰るぞ」


 みんなトラックに乗り込み、そしてドゥホックの街を後にした。



 つづく

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