【イラン】

ザヘダン→イスファハーン

213帖 バス旅に快適を求めるのは間違っているだろうか

『今は昔、広く異国ことくにのことを知らぬ男、異国の地を旅す』



 実に快適なバス移動で、僕らはZāhedānザヘダンのバスターミナルに昼過ぎに着く。


「さーて、まだまだ時間はあるけど、どうする?」

「そうやねぇ、もう少し移動しようかぁ」

「うん、僕の持ってる資料やったらイランは飛行機も安いみたいやで。Tehrānテヘランまで七千リアルで行けるみたい」

「そうなんやぁ……」


 速く行けるしええかなぁと思て言うてみたけど、日夏っちゃんはあんまり乗りきや無い。


「ほんならバスで行くかぁ」

「うん、そうしよう。その方が安いんちゃう」

「まぁ安いのは安いけど、体調の事もあるし早よ行きたいんかなぁと思たから」

「そしたら、Eṣfahānイスファハーンまで行こうや」


 イスファハーンかぁ。世界史の授業で出てきたなぁ。


「なんや忘れたけど京都みたいなとこやろ」

「そう。今はテヘランが首都やけど、昔の首都。古都やね。そういう意味では京都みたいなもんかなぁ」

「ほんならイスファハーン行きのバスを探そか」

「うん」


 バスの行き先表示を見てもペルシャ文字で書かれてるし、どこ行きなんか分からんさかいにバスの車掌らしき人に聞いて見ると、なんと1台目でイスファハーン行きが見つかった。


 ただここからが大変やった。この車掌のおっちゃんは英語が話せへん。そやしメモ帳に筆談にみたいにしながら聞いてやっと分かったんやけど、運賃はなんと激安の1千リアルで100円もせえへん。多分税金も燃料費もめっちゃ安いんやろ。それとここからイスファハーンは千二百キロ離れてて、1時に出発して明日の朝の8時位に着くらしい。


「もう直ぐ1時やし、これ乗ろかぁ」

「うん、そうしよ」


 僕らは直ぐにお金を払ろて乗り込んだ。このバスはハイデッカーになってて、パキスタンの夜行バスに比べると天と地ほどの差がある。日本でも長距離夜行バスは乗ったこと無かったんで比較対象はパキスタンのバスやけど、座席がふかふかなんは勿論、リクライニングもするし走り出して直ぐに車掌のおっちゃんが飲み水を配ってくれた。正四面体のビニールの袋に入った水は冷たく、ストローで美味しく頂いた。

 パキスタンでは考えられへん事ばっかりで、パキスタンに2ヶ月も居ってパキスタンのスタイルに慣れてしもてた僕にはかなりのカルチャーショックやった。


 まぁ風景は砂漠やしパキスタンとあまり変わらへんかったけど、あの煩い音楽も無いしエアコンは効いてるし道はちゃんと舗装されてて殆ど振動も無かったから余りにも快適すぎる。

 ただ日夏っちゃんの容体が芳しくないのが気になる。相当しんどかったんかバスが動き出すと直ぐに寝てしもた。

 僕も1泊2日の列車旅の疲れもあったし、日夏っちゃんが寝た後に直ぐに寝てしもた。ぐっすり寝られるぐらいバス旅は快適やった。


 夜に何処かの町のドライブインに晩飯休憩で停まるまで僕は寝てた。心配してた日夏っちゃんの様子も大分とマシみたいやし、昼も食べてへんからめっちゃお腹が減ってたさかい取り敢えずご飯を食べに建物の中に入る。僕はまだ少し寝ぼけてた。


 中はパキスタンと違ごて物凄く衛生的に見える。きちんと掃除や手入れもされてて、冷水機もあるしエアコンも効いてる。一気に目が覚めたわ。


 さて、何を食べるかやけど日夏っちゃんと検討した結果、周りの人が食べてるご飯の上にシシカバブーが乗ってるやつが手っ取り早くてええんとちゃうかという事になる。


 チェロケバーブと言う名前の料理は、日本で言うなら牛丼の様なファーストフードなんやろう、頼んで直ぐに出てきた。しかも値段は300リアル。

 銀のお皿に白い長粒種の米が盛ってあって、つくねの様な羊肉が乗ってる。皿の周りには生のトマトの輪切りと葉物野菜がサラダとして付いてた。ご飯がもうちょっとモチモチしてた方が日本人にはええんかも知れんけど、ケバーブは香辛料がしっかり効いててめっちゃ上手い。


 食べ終わってもまだお腹が空いてたしお代わりしよかと思たけど、その奥のホットドッグみたいなもんも美味しそうやっと思たし今度はそれを頼む。

 サンドゥヴィーチと言うらしく、長細いパンの中をくり抜いてその中に好きな具材を選ぶとそれを詰めてくれる。僕はソーセージとハムとレタスの様な葉っぱを頼んた。それに赤いソースを掛けて渡してくれる。これで150リアルやから何本でも食べられそう。


 ソーセージは久しぶりやし喜んで食べたけど、やっぱり肉は羊肉やった。ソースはケチャップの様なトマトベースの酸味が効いたもんやったけど、ソーセージがとにかくめっちゃ辛い。ヒーヒー言いながら食べて、その後冷水機でいっぱい水を飲むはめになってしもた。ついでに日夏っちゃんの頭に載っけようと思てタオルも冷水に浸しといた。


 お腹がいっぱいになり満足してバスに戻ると、冷水で浸したタオルを日夏っちゃんの頭に載っけた。


「ああ、気持ちいいわあ。ありがとう」

「温なったら裏返したらええわ」

「うん、そうする」


 そう言いながらもバスが動き出すと日夏っちゃんは直ぐに寝いってしもたし、僕が裏返したり向きを変えたりして調整してた。ほんでも時間が経つと僕もまたぐっすりと寝てしもた。



 次に起きたんはバスがイスファハーンのバスターミナルに着いた時やった。

 8月11日、日曜日。朝の10時前。結構時間が掛かったけど快適なバス旅やったわ。

 陽の光は眩しく、バスを降りてみるとやっぱり暑い。砂漠気候なんは変わらん。


 そやけどここイスファハーンの町並みは、アラビア風のエキゾチックな雰囲気もなく、行ったこと無いけどヨーロッパの都会と同じ様な極普通の近代都市の佇まいに感じる。


「取り敢えずホテル探しかぁ?」

「そうやね。早くベッドに横になって寝たいし、それにシャワーを浴びたいわ」

「そうやなぁ」


 もう2日以上シャワーを浴びてへん。それにこの汚れたシャルワール・カミーズも洗濯したいしなぁ。


 と、いうことでホテル探しからする事にした。



 つづく

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