84帖 お金が無い
『今は昔、広く
パリーサが居らん事に気付いた僕は後ろを振り返る。すると、さっき両替屋と話してた所で困った顔をし狼狽えてるパリーサの姿があった。
両手で身体のあちこちを押さえたり、必死にカバンの中を弄ってる。
「パリーサ、どうしたん?」
と言うて歩いて行くと、今にも泣きそうな顔でこっちを見てくる。
「シィェンタイ……」
パリーサは座り込んで泣きだしてしもた。昨日の事もあるし、僕は泣いてるパリーサがなんか苦手や。そやけど声を掛けん訳にもいかん。
「パリーサ、どうしたんや。なんかあったんか?」
もしかしてさっきのパキスタン人に何かされた? 疑ったらあかんけど、パリーサの泣いてる様子を見るとそう思てしまう。
バスの回りに屯してたパキスタンのおっちゃん達もこっちへやってきて、
「どうしたんだ。何かあったのか?」
と心配してくれる。それはええねんけど、5、6人のおっちゃん達に囲まれると、あの鋭い目はちょっと恐く感じてしまう。
「大丈夫や。この子は僕の友達やし、心配ないよ」
「そうなのか。何かあれば言ってくれ。手助けするぞ」
と優しく言うてくれた。
僕はパリーサの肩を抱き、通路の端に連れて行く。
「パリーサ、どうしたんや。説明できるか?」
小さく頷くと中国語で、
「
と言うと、また泣き出してしもた。何を言うたんか全く分からんけど、安心させなあかんと思て、
「心配するなよ。僕がなんとかするから」
と言うと、少し頷いてた。
「何処か痛いとこあるか?」
と聞いたけど、パリーサは首を振ってる。なんかされた訳ではなさそうやし、少しホッとする。多賀先輩もパリーサに声を掛けてくれる。
そしたらなんやったんやろと、ホテルに着いてからの様子を振り返った。するとパリーサは俯いて泣いたままゆっくりと話し始める。
「気がついたら……、お金が無いの」
「お金が無い?」
「そう。ポケットの中の
そうか、財布を無くしたんか。
それを多賀先輩に言うと道路まで探しに行ってくれた。そやけど、何処にも無さそうや。
「いつまであったんか、覚えてる?」
「朝ご飯の時……」
「それから钱包は使った?」
首を振ってる。
そうやわな、昼飯は僕が出してるし、朝飯以降は全然お金は使こて無いわな。そしたらロバ車で? それともバスの中? その前やったら……もしかして砂丘で転がってた時かな? 誰かに盗まれるというシュチュエーションはあんまり無かったし、やっぱり砂丘で滑ってた時か。
「パリーサ、钱包は何処に入れてたん?」
パリーサが指差したのは、黄色いワンピースの下に履いてるズボンのポケット。
「もしかしたら、砂丘で転がった時に落としたかも知れんな」
「そう。私も……、そう思う」
めっちゃ入ってたんやろか、パリーサは顔をくちゃくちゃにしてまた泣き出してしもた。
財布は諦めなしゃあないな。そやけど困ったな。お金は何とかするとして、パリーサには泣き止んで元気になって欲しい。
「もう泣かんでええで。お金やったら僕がなんとかするし。大丈夫や」
と言うたけど、まだ泣き止まへん。
「心配するな。ちゃんとホテル代やらご飯代やら、バス代もちゃんとするし。なんも心配せんでええで。僕に任せてといて」
まぁお金の事やったら何とでもなるわ。それでパリーサが困らへんかったらお金なんてどうでもええわと思た。
お金はええねん。それよりパリーサが泣いてる事が僕には辛いわ。
こうなったら泣き止むまで待つ事に。
いつまでかかるかなと思たけど、パリーサは以外に早く泣き止んだ。手ぬぐいを渡すとそれで涙を拭き、顔を上げてくる。
腫れた瞼と鼻が赤くなってる。
「ごめんさない。ごめんなさい……」
「おーおー、全然大丈夫。無いもんはしゃーない」
「ホントに、ごめんなさい。私、迷惑掛けて……」
「そんなん言わんとこな。気にせんとこう」
パリーサの手を取って立ち上がる。その後もパリーサは、
「ソーリー、ソーリー」
と何回も言うてくる。
「もうごめんって言うたらあかん。分かった?」
「うん」
「パリーサは悪くないんやから」
「……」
そうや、パリーサは悪くない!
そう言うても落ち込むわな。財布無くしたんやもん。どうしたら元気になってくれるやろ?
「そしたら、パリーサにお願いがあるんやけど」
「なに……」
「ここのホテルの値段の交渉してくれるか」
「う、うん。いいわよ」
「ほんなら頼むで」
「うん!」
やる気が出てきたんか、少しやけど顔に元気が戻ってきた。
僕らはパリーサの後ろに付いてロビーに入る。
どうか格安で泊まれます様に!!
つづく
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