二人もいらない ―蒯通―
そう、あの小僧、気に食わない。
私はあの男に近づいた。
あいつは漢王にとってはただの道具に過ぎない奴だ。そう、使い捨てのボロ布程度の輩に過ぎない。いにしえの
あんな奴が我が敬愛する楽将軍に比肩する栄誉を得るなど、許されてたまるものか? 私は何食わぬ顔であの男の耳に蜜のような毒を注ぐ。
「私は漢王には逆らえない」
ふん、忠臣気取りか? お前は己を楽将軍に比肩する「君子」に仕立て上げるつもりか? ふざけるな。「楽毅」は二人もいらない。
だからこそ、私はあの忌々しい男が道を誤るように仕向けた。私の「助言」それ自体が、あの男を葬るための
私は狂人を演じつつ、あの男の下を去った。
あの男が粛清され、私は漢王、いや、漢の皇帝になった田舎親父の下に連れてこられた。あの淮陰の小僧め、死ぬ間際に「
楽毅将軍のような素晴らしいお方は二人もいらないのだから、あの男は万死に値する。「国士無双」などと虚名を得たあの男は、楽将軍の足元にも及ばないのだし、絵に描いた美女ほどの値打ちもない。
私は出まかせで田舎親父を言いくるめる。私はあの小僧よりもはるかに「忠臣」を演じるのがうまいのだ。気前の良い男を演じたがる田舎親父は私を釈放し、今の私は自由の身だ。
何? 「これから楽毅以上の名将が現れるだろう」? ふざけるな。あの田舎親父の国はしばらくは続くだろうよ。少なくとも、あの秦なんかよりは要領よく国を保ち続けるだろうさ。どうせ、この国が滅びる頃には私は土の中の骨だし、そんな先の事など知ったこっちゃない。ただ、楽毅将軍の名声が後世まで語り継がれれば良いのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます