雨が降る

水宮うみ

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 雨の日になると、僕の部屋に寡黙な女の子がひょこんと現れる。

 初めはびっくりしたけど、すぐに慣れた。僕を不思議そうな顔で見つめるその子のことを、僕は雨が降ると名付けた。

 雨が降るはなにも喋らないけど、雨に濡れたような黒い瞳で僕の話を聞いてくれる。

 雨が降るのことを、僕はすぐに好きになった。

 雨が止んだ瞬間に、雨が降るはふっといなくなってしまう。もしかしたら雨が降るは、僕の幻覚か、あるいは幽霊なのかもしれない。

 だけどそんなのどうでもいい。雨が降るは良い子で、僕は雨が降ると会うことができることを幸せに思っている。なんの問題もない。

 天気予報が雨を知らせた日には、いつも図書館でCDを借りる。明日になればきっと現れる、雨が降るに聴かせるためだ。

 雨が降るは、静かな曲が好きだ。クラシックでもバラードでもアンビエントでもなんでも、静かでさえあれば楽しそうに聴いてくれる。

 雨が降るは、ときどき曲を口ずさむ。スピーカーから流れる音に合わせて小さな声で歌う。雨が降るの歌声は、毅然としていて優しく、けれどどこか切なく寂しげで、文明に取り残された星空のようだった。

 雨が降るの小さな歌声と、スピーカーから流れる静かな曲と、雨の音。それらを聴いているときほど心安らぐときを、僕は知らない。

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雨が降る 水宮うみ @mizumiya_umi

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