あの頃の僕ら

桜河 朔

第1話 よい子の理論

誰かが私を 優しいといった

だから私は 誰にでも優しくしなければと思った

 

誰かが私を 真面目だといった

だから私は 規則を守り 誠実であろうとした

 

誰かが私を 賢いといった

だから私は 誰よりも博識であるべきだと思った

 

誰かが私を強いといった

だから私は 弱音を吐いてはならないと思った

 

誰かが私を 頼れるといった

だから私は 誰にも頼ることなく生きていかねばと思った

 

言葉が彫刻刀のように 私をあるべき姿へ変えていく 

真面目であれ 勤勉であれ 寛容であれ 


削り 削られ 出来上がった作品に個性はあるのだろうか

個性とはなにで 誰のためのものなのだろうか

個性とは 他人の言葉で出来上がった 幻ではないのだろうか


私は今日も 言葉に削られ生きていく

他人の描く あるべき姿を保つため 

その身を削っていくのだろう


誰かが私を 悪い子だといった

私は必死で よい子になろうとした


          よい子の理論  


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