傍に……

 どうしてこうなった……。


 三か月ぶりの二人の逢瀬は、今は不穏の中に

あった。


 もっと楽しくなるはずだったのに。

 もっと……。



「そばにおいて――」


泣き出しそうな顔で彼女が言う。


 大切なのは時間だと。

 

 何らかの理由で離れるのは仕方ないけれど、

もっと時間を大切にしてほしいと続けた。


「分かってるよ」


 そう呟いてから、犯したミスに気付く。


「分かってないからこうなったんでしょ!」


 まったくその通りだ、間違いなく彼女が正しい。


 二人の間に張り詰めた空気が流れ始めた。


 テーブルの上には、二人の久方ぶりの再会を祝

う夕食が並んでいる。


 そんな楽しいはずの時間がなぜこうなったのか。


 答えは簡単。彼女が離れないでとあれほど言っ

ていたのに、俺が離れてしまったからだ。


 他人からすれば、どうしてそんな事くらいでと

笑われてしまうかもしれないが、幼い頃からずっ

と料理人を夢見てきた彼女にとって、今回の件は

到底許せるものではなかったのだ。


 脳内を巡る拭いされない申し訳なさと後悔で、

目の前の彼女の声すら遠くに感じる。


 自分を覆う虚無感の中で、ただ茫然と皿の上の

「茹でられすぎた蕎麦」を眺めていた。


 そうこうしていると、彼女の怒りは一周してし

まったらしく、また最初から文句を言い始めた。


「何度も言ったじゃない! 蕎麦に於いて大事な

 のは――」

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